異世界帰還書紀<1>

空花 ハルル

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別の異世界

模擬試合

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ノクスの屋敷を出た3人、ようやく、リオネがヴィトンの服から手を話した。
「まったく、彼を怒らせるのはだめだ!ヴィトン!」
リオネは、少し強めに忠告をした。
「はいはい!そんなこと、わかってるよ。」
「じゃあ、何で?」
二人は、並んで歩きながら話しだした。その後ろをオポッは、ボケーっとしながらついて行っている。
「だって、ムカつくんだもん!ちゃんと下調べした上で、推薦してるのにさ!」
「確かに、一理あるけど」
二人は、その後10分くらい他愛もない話をしながら歩いていた。気がつくと、冒険者協会の近辺まで、戻ってきていた。
「そういえば、3人共どうなったかな?リオネも見ていく?」
「いや、俺は、いいよ!早く城に帰って、書類制作をしなくちゃいけないし。ほら、ヴィトンから頼まれてた蒼とサンダーの仮戸籍!」
「そういえば、そうだったね。私は、見てくるから。オポッとリオネは、先に帰ってて!」
ヴィトンがそう言うと、リオネは、冒険者協会とは真逆の城の方に向かって、ゆっくり歩いていった。その後ろをオポッは、小走りで追いかけていった。二人と少し距離が空くまでヴィトンは、二人のことを見ていた。
「それじゃあ、行きますか!まぁ、大丈夫でしょ!」
ヴィトンは、のらりくらりと協会の方に歩いていった。

数時間前ー
「先制攻撃は頼むよ、サンダー(小声で)」
「あぁ(小声で)」
サンダーは、剣を腰に構えると、持ち前のスピードで一気にランツェの前まで近づいた。そして、剣を抜くと同時に、ランツェの後ろに回り込んだ。蒼もそれに続いて、剣を構えて走り出した。
「私の後ろをとるなんて。正直言って、スピードはすごいわね。だけど・・」
サンダーは、素早くランツェの胴目がけて、剣を振るった。しかし、その攻撃をランツェは、いとも簡単に宙返りをして避けた。
「まずい!」
蒼は、ランツェがサンダーの真上にいるのが確認できた。ランツェは、サンダーに向けて、突きをしようとしているようだ。蒼は、ランツェがいる高さまでジャンプをすると、ランツェの突き攻撃を横から弾いた。
「やるわね!正直言って、前の二人の3倍は期待して良さそうね。」
ランツェは、地面に着地をすると、突きの構えをして、音速に近しいスピードでサンダーの目の前まで近づいていた。サンダーは、とっさにしゃがみ込みと、ランツェの突き攻撃は、サンダーの真上を通り過ぎていった。そして、その突きの対象は蒼に、変わっていた。
「サンダー!挟み撃ちにするぞ」
蒼は、この思いがけない好機を利用し、前と後ろ両方からの攻撃をサンダーと試みた。蒼は、突きを交わすべく、ランツェの懐に潜り込み、力任せに(模造剣なので)刀を振るった。サンダーも蒼と同時に、ランツェの背中目がけて、上から剣を振り下ろした。
「よっ!」
ランツェは槍を地面に叩きつけたその瞬間、二人のの前からランツェの姿が消えていた。そして、その約0.5秒後、二人の前には、ランツェの足が迫ってきていた。二人は、そのキックを避けることができずに、攻撃を腹にくらってしまった。ランツェは槍を叩きつけた勢いを利用し、ジャンプをすることで蒼とサンダーの攻撃を避けていたようだ。
「いっ!」
「どうする?作戦会議をしたいのなら、待ってあげてもいいけど」
ランツェは、余裕そうな表情で腕組みをして、蒼のことを見ている。
「いや・・、作戦会議の時間をもらって勝ったところで嬉しくなんかない!」
蒼は、そう言い、剣をランツェに向かって投げた。それと同時に、蒼はランツェのところに向かって、一直線に走り出した。
「そんな単調な攻撃に当たるとでも思うの?」
ランツェが剣を弾こうと、槍を横に振った瞬間に、蒼はスライディングをした。蒼は、そのままランツェの足元をかいくぐり、後ろに回り込んだ。
「ふーん。あなたも中々ね。でも一人で私に勝てるの」
「思ってるわけないだろう!お返しだ。」
そう言うと同時に蒼は、ランツェにキックを繰り出した。だが、ランツェは表情一つ変えずに背中を曲げることで、避けられてしまった。だが、蒼はランツェに向かって、ニッと笑ってみせた。
「何、笑って・・」
そのタイミングで、ランツェの背中の下にサンダーが潜り込んでくれていた。
「サンダー!やるぞ。」
蒼は、ランツェの上から殴りかかった。サンダーは、剣を横振りしようとしている。
「その体勢じゃあ、ジャンプして避けるのは無理だな。」
「フッ!やるね!まあ・・」
ランツェは、槍の中心を握ると、手を巧みに動かし、槍を全方向に回転させ始めた。蒼とサンダーは、その予想外の攻撃に防御をする暇もなかった。
「私に攻撃を当てるなんて、不可能に近いね。ほら、返してあげる。」
ランツェは、蒼が投げた剣をポイッと投げた。その剣は、起き上がろうとする蒼の目の前に、落下した。
「どうも!・・サンダー!まだ、いけるか?!」
「まだまだ、大丈夫だ!蒼!」
サンダーは、起き上がると、自慢の高速移動で蒼の横に移動した。
「挟み撃ちはだめだな。・・作戦はあるか?サンダー」
「そうだな。まずは、あの槍を何とか手から離さないとだな。まあ、その方法も考えついてるから、秒で話す!」
「わかった!」
ランツェは、どんな攻撃を仕掛けてくるのか、心なしか楽しそうに、ニッコリして待っている。
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