異世界帰還書紀<1>

空花 ハルル

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別の異世界

模擬試合−2

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蒼とサンダーは、二人で正面からランツェに突撃した。蒼は、剣を横に構え、走り出した。ランツェは蒼の胴を狙い、突きをしてきた。その突きは、気づくと蒼の腹の目と鼻の先まで迫ってきていた。そのコンマ秒前に、サンダーは蒼の横に行き、槍を上から押さえつけようとした。
「蒼!かわせ!」
「ああ!」
蒼は、その合図のタイミングでスライディングをした。そして同時に、ランツェの突きがサンダーの下振りにより、地面に叩きつけられた。蒼は、ランツェの下をくぐり抜けながら、槍が動かせない今を狙い、槍に手を伸ばした。
「よし、取れる!」
「・・そういうことね。」
蒼の手が槍まで、ほんの数ミリまできたところで、蒼の手はランツェの左手に掴まれてしまった。
「蒼!」
サンダーが、蒼に気がそれてしまい、剣を握る力が少し弱ったのをランツェは、見過ごさなかった。ランツェは、そのまま槍で押し返すと、サンダーを弾き飛ばした。
蒼は、ランツェに腕を掴まれたまま、持ち上げられると、投げ飛ばされてしまった。
「何度、やっても無理よ!」
ランツェは、余裕そうな表情をずっと変えていない。
蒼は壁まで投げ飛ばされると、壁にぶつかりかける数秒前に足で壁を蹴った。そして、ランツェのところにその勢いのままぶつかろうとし、剣を構えた。
「また少し、進化したみたいね!だけど、私に攻撃を当てるには・・」
ランツェが突きの構えをしているのが見える。そして、見えた直後には槍が目の前に迫ってきていた。
(まずい!また、やりすぎてしまう。槍を引っ込めなければ!)
蒼は、直感で首を右に傾けると、ランツェの突きをよけることに成功した。そして、剣をランツェの横腹に向けて、剣を今までにないくらいのスピードで振った。
「早・・」
蒼が振った剣がランツェに命中すると、カンッという高い金属音がした。
「フウー。念のため、私も防具を着といてよかった。・・まあ、私に一撃を与えるなんて、かなりやるわね!」
ランツェが少しだけ、ニッコリしたように二人には、見えた。
その次の瞬間、ランツェは当然、槍を地面に捨てた。そして、蒼に手を差し伸べてきた。
「フフ、いいわね。少し、甘いと思うかもしれないけど・・合格よ!このガードがなかったら、今度は私が腫れて入院してたかもね」
蒼は、数秒間、何を言っているのか聞き取れなかったのか、唖然としていた。
「もう、自分で立ってよね。蒼!」
ランツェは無理やり、蒼の手を引っ張って立たせた。次に、ランツェは、サンダーの前に立った。
「ほら、サンダーも!」
サンダーは、ランツェの手を掴み、起き上がった。
「よし、あとはヴィトン先生が戻ってくるまで、客室でおしゃべりでも、どう?」
「いいな!ほら、行くぞ。蒼!」
蒼とサンダーは、自分自身の武器(本物の)を回収すると、ランツェと一緒に修行場を出た。

ー協会(客室)ー
3人は、ランツェが淹れた紅茶を飲みながら、話をしていた。
「そういえば、何で攻撃を当てただけで、合格をくれたんだ?」
「んっ。今まで、私と同年代の人達の中で、私に攻撃を当てることができたのは、学校で次席と三席のチームの二組だけだったんだよ。だから、それくらいの見込みが蒼とサンダーには、あると思ったからだよ」
ランツェはニコニコしながら、紅茶を静かに飲んでいる。
その後も話をして、10分後に客室のドアが開いた。入ってきたのは、上機嫌そうなヴィトンだった。
「んっ。何かいいことでもあったのですか?ヴィトンさん」
「数秒前までは、いいことなんて一個もなかったよ。それどころか、あの石頭ときたら・・」
ヴィトンは、ランツェの横に座ると、ぐだぐだとノクスのことを愚痴りだした。
その愚痴は、約10分は続いた。
「まあ、そんな嫌なことがあったんだけどね。戻りながら、協会との距離が縮まる度に3人が仲良くしているところを想像すると、あんなことどうでもよくなっちゃてね。」
「大変だったんですね。まあ、それはともかく・・蒼とサンダーの登録書類の制作をお願いしたいのですけど」
ランツェは、ヴィトンの愚痴話を流し、本題に入ろうとした。
「蒼くんとサンダーちゃんの?・・それだけど、もう私が今朝登録しといたよ」
ヴィトンは、その証明として、書類の複写(紙のサイズは、小さめである)らしきものをバックから取り出して、テーブルの上に置いた。
「だが・・私達がランツェに認められなかったらどうするんだ?」
「そん時はそん時。まあ、そんなこと万が一にも無いと思ってたけどね!それと、この予備の書類は身分証明として、それぞれが持ってて!」
3人は、それぞれ自分のを手に取ると、サッと目を通し、自分の肩掛けバックに二つ折りにして、入れた。
「それじゃあ、改めてこれからよろしくね!蒼にサンダー」
「よろしく、ランツェ」「よろしく頼む、ランツェ」
二人はそう言い、ランツェとそれぞれ握手をした。
その横でヴィトンはニッコリしながら、紅茶を飲んでいる。
「ああ、一つ忘れてたよ!ランツェちゃん!二人を2階の(寮のこと)個室に案内してあげてよ!片付けなら、私がしておくし」
「そうでしたね!ついてきて!二人とも!」
ランツェが客室の扉を開けて、蒼とサンダーの方を向きながら、手招きしている。
蒼とサンダーは、立ち上がり、ヴィトンに一礼すると、部屋を出た。

=協会(2階、寮エリア)=
「この051と052号室が二人の部屋だよ!そして、051の向かいの部屋が私の部屋だから、覚えておいてね!」
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