異世界帰還書紀<1>

空花 ハルル

文字の大きさ
上 下
25 / 38
乱戦の中

操り糸−3

しおりを挟む
リリアは大型の生物に乗ると、いきなり蒼とサンダーの元に突っ込んできている。
その生物を使役しているようで、大きな腕を振り上げさせると、振り下ろし、そのまま地面をえぐり取りながら突進を続けている。
「どうする、サンダー。避けるか?それとも対抗する?」
「とりあえず、避けろ!」
蒼はサンダーの指示に従い、真横に避ける。サンダーも蒼とは反対の方向に避けたようだ。
「避けるだけ?つまらないわね」
リリアは突進を止め、蒼に近づくと、生物の拳を連続で振らせ始めた。蒼が避け、拳が地面に衝突する度にヒビが入っている。
「これは・・当たるわけにはいかないよな」
「避けてろ、蒼!私が何とかする」
そう言うと、サンダーは白い尻尾を生やした。白虎の力を発動したようだ。
蒼はそのまま逃げながら、生物の拳を避け続けた。
サンダーは生物の後ろを追いかけている。確実に攻撃を当てれるチャンスを伺っているようだ。
「いける、注意してろ!蒼!」
「分かってるよ!今からすることもな」
蒼は自身の脚力を駆使し、木の上に飛び移った。下でリリアが木を切り倒そうと、生物の爪で引っ掻いている。木の上では3回くらい引っ掻かれたら倒れそうなほどの揺れが続いている。
「外すなよ!サンダー!」
サンダーは「誰に言ってる」と言うと、一回転し尻尾を地面に叩きつけると、生物の所に向かって、氷の柱が連なっていった。
後ろを注意していなかったのか、リリアが乗っている生物の半分を凍らすことに成功した。
「舐めないで、この程度の氷。砕くことなんて余裕よ!」
リリアは氷に埋まっていない右腕を振り上げさせると、氷を叩いた。すると、簡単にヒビが入り、今にも壊れそうだ。
「蒼!早く攻撃を!」
「言われなくても、今するところだよ」
蒼は4本の刀を出現させ、生物の頭に向けて飛ばした。
「まずは、変異生物を行動不能にする!」
もう少しで命中する、というところで・・。
リリアは剣を抜き取ると、生物の肩から飛び、全ての刀を弾き返した。
「作戦は失敗か・・だが、まだ戦略はある」
サンダーの頭の中では、あと2パターンだけ勝てる可能性がある方法が残されている。両方ともまず、生物を無力化することは前提のやり方だ。その上、氷魔法は見せてしまったので、かなり高等テクニックの不意打ちをしない限り当てることは無理に等しいだろう。
「この方法で行こう、話してる余裕はない!だから、また私に合わせてくれ!」
「オッケー、任せるよ!」

「どんな方法で来るか知らないけど・・私には関係ないわよ」
リリアはサンダーに標的を変えたらしく、生物の大きな胴体ごと飛びかかった。地面がへこむほどの威力だが、蒼に心配の気持ちは微塵もなかった。
そんな分かりやすい攻撃では、サンダーにかすり傷でさえ与えることはできない。そんな安心感が常にある。
「こっちだ!」
蒼は再び4本の刀を作り出すと、一直線に発射した。
「同じ手が通用するとでも思ってるの?」
リリアは生物を振り向かせると、刀を弾こうとした。その瞬間、サンダーは「やっぱり分かってるな、蒼は!」と言うと、何か力をため出した。
「まだまだ!(いいね、その魔法か!)」
蒼は4本の刀を作り出しては飛ばし、弾かれる・・その動作を何回か繰り返した。サンダーの魔法が発動する準備が整うまで・・。
「準備完了だ!離れてろ!」
蒼はその言葉とともに数メートルの距離を空けた。
その後すぐ、サンダーは雷のエネルギーを解き放ち。そして、リリアと生物の周囲の上空に4つの小さな黒い雲を作り出した。
「どんな魔法かしら?(トラップ系かしら。だとしたら、してきそうなことは、あの雨雲の真下に誘い込むとかかしら)」
「考えてる暇があるなら、逃げたらどうだ!」
サンダーがそう叫ぶと、『チェイス・ライトニング』と言い、魔法を放った。
この魔法は、その名の通り、4つの落雷が敵を追跡しするというものだ。追跡範囲は、半径約15メートルにも及ぶ。
「なっ!」
リリア(というよりは変異生物)は避ける間も考える間もなく全ての落雷が命中した。流石に雷のスピードより速く動くことは不可能だったみたいだ。
だが、当たり前のことだ。この場で雷速で動ける可能性があるのは、サンダーとギガントぐらいだろう。
「どうだ。流石にあの変異生物ぐらいは、やれただろう」
「リリアも倒せてたら嬉しいけど・・」
話してる間に煙が晴れてきた。その中から、一人の人影が見えた。二人には、リリアが生きているということだけ分かった。
「少し危なかったわ。久しぶりに命の危険を感じたわ」
リリアの足元に生物の腕か足か分からないが、部位が3つほど落ちている。どうにか、変異生物だけは倒せたようだ。
「このまま行・・」
サンダーが刀を構え、何かを言おうとした、その時だった・・。
上空の方で爆発音がしたみたいだ。
「何だ!」
二人はそう言うと、同時に空を見上げる。空の上では、かなり大きな煙が上がっている。
「あっ!」
その煙の中から、2つの何かが落下してきた。片方は、蒼とサンダーの所に来ており、もう片方は遠くの森の中に落ちていったようだ。
「はぁはぁ、何とか鷲の対処はできた。そっちの状況はどう?」
降りてきたのは、鷲の戦闘を終えたランツェだった。
上空の状況から見て、鷲を確実に撃墜できたのだろうと考えられる。
「順調だ!それに、ランツェが来てくれたのなら、ほぼ勝ったのも同然だ」
サンダーはそう言っているが、蒼とランツェには、リリアはまだ余裕そうな表情でニヤリと笑っているように見えている。
しおりを挟む

処理中です...