異世界帰還書紀<1>

空花 ハルル

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乱戦の中

善戦と切迫

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「まだ私には、切り札が残っているのよ!」
そう言うと、リリアは小さな筒のようなもの2つ取り出し、それを前方に投げようだ。そして、その筒が地面にぶつかると、煙が立ち上がると、その中から2体のかなり大きな生物が姿を表した。
「・・それどこで見つけてきたのよ。かなり遠方に行かないと発見できないはず・・」
「見つけたんじゃないわよ。作ったのよ、作成者は私じゃないけどね・・。」
ランツェの知識によると、2体の生物の名はそれぞれケルベロス、キメラと呼ばれているらしい。
「作ったって・・どういうことよ」
「仕組みは単純(らしい)よ。変異生物同士の遺伝子操作やら複雑な実験の結果、生み出された最高傑作(らしい)よ!」
リリアは手を動かすと、キメラを上空に移動させた。おそらく、ギガントの所に向かわせ、足止めをするためであろうと予測できる。
そして、ケルベロスは、まだ動かずリリアの横で待機している。
「ランツェ!アレの情報を持ってるなら、教えてくれ!」
「・・簡単に言えば、属性を最大で3つ持ってる変異生物の原型らしい。最近の生物学の本で読んだ情報によればね」
その情報から考えて、敵側の対抗策は多そうだ。それに対し、こちらは最大で3つの属性に対抗しなければいけないという大きな差が生まれてしまっている。
「私が相手の分析をするから、二人は慎重にヒットアンドアウェイを繰り返してほしい」
確かに、この生物について、この中で一番詳しいであろうランツェに任せるのが妥当であろう。その作戦に一切の異論はなく、蒼とサンダーはのることにした。
「わかった、任せるぞ。ランツェ」
サンダーはそう言うと、真っ先に戦線に飛び出して行った。その後ろを慌てて、蒼が追いかけていく。

それと同時にケルベロスも動き出した。ゆっくりとノソノソと歩いているからか、威圧を少しだけ感じてしまうような雰囲気を醸している。
「気をつけろ、蒼。いつ急ダッシュしてくるか分からない!」
「分かってる。」
会話をしている内に、ケルベロスが攻撃態勢に入ったようだ。3つの顔の一つ(左の顔)が口を開けると、火を吹き出し始めた。
二人はとっさの判断で避けるが、その避けた先にまた別の頭が攻撃を仕掛けてきている。おそらくあれは、高圧の水だろう。
避ける度に後ろの木に当たり、亀裂が入っている。細め枝なら簡単に切れるほどの威力があると思われる。
「あれは、できれば当たりたくないな。一回当たったところで死ぬわけではないけど・・」
「最低3回だな。それ以上は、体の重要な部位が傷つく可能性が高い。」
サンダーがそう水攻撃を分析する。

あと相手の不明な属性は残り1つだ。それさえ分かれば、あとはランツェが作戦を立ててくれる。
「真ん中の頭の属性が知りたいみたいだけど・・これは最終兵器みたいなものだから、使わせるわけにはいかないわね」
「・・どうする、ランツェ!」
サンダーが叫ぶと、ランツェは槍を片手に前に進み出てきた。まだ、3つ目の属性が判明していないのに・・。
「はぁ、仕方ないか、本当は全て判明してからが良かったんだけど・・まぁ、二属性への対応法は考えてるから、そこは安心して!」
「分かった。オレたちはどうしたらいい・・」
ランツェの作戦を簡単にまとめると、蒼は今まで通りに刀で揺動をしていればいいようだ。もし標的が移ったとしても、ランツェかサンダーの近い方が守りに行く。
サンダーは避けながら、氷攻撃を仕掛け、動きを止められたら、好都合。止められなかった場合(止められない可能性が高いと見ているが)、ランツェが後のことは考えてあるみたいだ。
ランツェは自身の高火力炎魔法を隙を見て打ち続けるようだ。
作戦をすぐさま頭に叩き込んだ蒼とサンダーは、ランツェの「開始!」という合図でそれぞれ3方向に散らばり、役割をこなす。
「まずは、オレがなんとかしないとな!(クソ。この制御盤を外せば、こんなヤツくらいすぐに瞬殺できるのだろう・・いや、まだ駄目だな。ルイスさんの言う事聞いておこう)」
蒼は4本の刀を出すが、通常とは少し違い、1本ずつ1秒の感覚をあけて飛ばしていった。数秒でも長く、蒼に標的を向けさせるためである。
「ちゃんとやってるな。できれば、だが・・凍らせたいところだな!」
サンダーはそう言うと、尻尾を地面に叩きつけ、氷を作り出した。それも少し違い、距離が短い代わりに範囲と広くさせ、巨体を覆い尽くそうと考えた。
「こんな氷、炎で溶かせばいいだけ・・」
リリアはケルベロス(左顔)を使い、溶かそうとするが・・溶けるスピードがかなり遅い。
「少し、魔力の配分を変えただけだ!何も難しいことは言ってない!」
サンダーは範囲だけでなく、強度も大幅に上昇させたようだ。
そして、そのまま氷は地面を侵食し、ケルベロスの足を全て覆い尽くすことに成功できた。予想外の好都合にランツェも驚いている。
「それじゃあ、このまま私が決めて・・!」
ランツェが炎の魔法で強力な一撃を加えようとした時・・。
空から何かが急接近しているのに蒼が気づき、「ランツェ、空!」と大声で呼びかけた。
ランツェが空を見ると、キメラとそれを追うギガントが急スピードで降りてきている。しかも、キメラの標的はランツェのようだ。
「避けろ、ランツェ!」
ギガントがそう叫ぶ声が聞こえた。
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