異世界帰還書紀<1>

空花 ハルル

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試験に向けて

結成パーティー 3

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「なら、今度は私の番だな。勝てる自信はないが、ランツェ。相手を」
サンダーがコマを初期位置に戻しながら、言った。
「いいよ。・・・あっ、デザートが来たみたいだよ」
アウムがプレートに3つのアイスを乗せて、階段を登ってきている。
「お持ちしました。やっと、二人の試合が終わったのね。どっちが勝ったの?」
アウムがそう聞くと、蒼は無言でランツェに指を向けた。
「そう、さすがね。でも、さっきメインを持ってきた時の状況からだったら、蒼が勝ってもおかしくなかったんだけど・・」
アウムがアイスをテーブルに並べながら言う。そして、配り終えたアウムは、下から聞こえてきているお客の所に小走りで戻っていった。
「じゃあ、始めよう。先行は譲る」
サンダーも足組をしながら、余裕振った顔をしている。アイスとスプーンを持ちながら。
「そう。なら、行かせてもらうよ」
ランツェもアイスとスプーンを手に取ると、一口だけ口に入れ、コマを動かした。そして、頬をモグモグさせながら、片手を『はい、どうぞ!』と言うように出した。
「なら!」
そして10ターン後・・二人の試合は、早々に決着が着こうとしていた。
「チェック!」
ランツェの声が2階に響き渡る。
「ん~」
この状況から脱せられる手は、蒼の時とは違い、3通りくらいはある。だが、その内の1通りは、ほとんど詰みであろう。
「(これはないな!だが・・どちらだ)むっ」
残りの2通りもリスクは高めだ。だが、そのどちらを取ったとしても、サンダーには勝てるかもしれない策があった。
サンダーは思い切って、コマを動かした。

それから、数ターン後・・。
「なっ!」
まだチェックされていないとはいえ、ランツェの残りのコマがキングを含め5つまでになっていた。ポーンは全て失われ、その他のコマがそれぞれ1つ。
「少し舐めプしすぎたかしら」
「今から本気を出して、勝てる可能性は薄い」
サンダーの残りコマには、余裕がある。
二人の試合の横で、蒼はジュースをズルズルとストローでジュースを吸い上げながら、瞬きもせずに見ている。コマが動かしては取られ、という状況が続き・・。そして・・。
「チェック!」
今度はサンダーの声が響く。流石にコマに余裕があるのとないのとでは、かなりの差があるようだ。
ランツェは、数秒間黙り込んだ後・・「降参ね」。
そう言い、両手をあげた。

食器の整理やチェスなど片付けをし、10分後・・
「なぁ、少しいいか。ランツェ」
3人が食後の紅茶を飲んでいるなか、サンダーが口を開いた。
「何?サンダー」
「話が変わるが、試験までの訓練とかはどうする?」
確かに蒼も気になっていた。ルイスのおかげで、自強化はほとんど完了しているが、チーム連携はまだまだ鍛えることができる。
「そのことね。もちろん、考えてあるよ。私が何も考えずに、ベッドに寝転がっていたわけないでしょう」
ランツェの試験までの訓練メニューは、まずそれぞれ個々で訓練すること。その間の交流は必要最低限の会話だけすること。
そして、残りの1週間だけ、連携を磨くために励む。
・・という感じだ。
「これらの練習メニューでやろうと思うのだけど、意見はある?」
「別に大丈夫だ。そのやり方で行こう」
蒼も別に異論はない。ランツェのやり方だ。何か特別な理由があるのだろう。
「まぁ、そんな話は今は終わりにして、今日は楽しみましょうか」
この後、ランツェが頼んだ酒で、3人が少し酔っ払ったことは言うまでもない。
そして、注文料金はというと、ロートンが特別に半額は帳消しにしてくれたらしい。ランツェの話によると。
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