がらくとぽんこ 〜あるいは、未知のエネルギーを独占した大英雄もしくは大悪党の物語〜

ブルー・タン

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第一章 脱出

003_ガラクとチップ

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 廃棄物コンテナの中身はこの経済圏の支配者層が暮らす第一衛星からの廃棄物で、中にはそのまま利用可能なものもかなりの比率で混在している。
 崩落からの生還率は限りなくゼロに近いとは言え、現状としては運よく最初の危機を脱する事がでており、スクラの為にもまだ死ぬわけにはいないガラクは、生還の可能性を少しでも上げるため傷の応急処置完了の直後から周囲の状況確認を開始した。
 運よく未使用の医療パックでも混ざっていないかとあたりを見回しながら、ふと今、自分がいる位置に違和感を持った。
 崩落に巻き込まれたことで廃棄物コンテナ内はシェイクされているはずなのに、自分は荷物に押しつぶされもせずに大きな箱の上にすわっている。
 その現状自体に疑問を抱きつつも、自分が乗っている箱からどうにか這って降りてみると、箱の横に設置されている電光パネルが明滅している。
 現在では資材削減のためにもこの手の表示パネルは3Dホログラムにするのが一般的なため、骨董品としてすら出回ることがない古めかしいタッチパネルには「開錠しますか?」という表示の下に四角い枠が点滅した「Yes」と「No」の文字が表示されている。
 残された時間も選択肢もないガラクは迷わずYesを押すと、パネルの表示が切り替わり『処理中』となりその文字の下に処理状況を示すのであろうバーが表示され、色の濃い部分が少しずつ右に増えている。
 その処理の遅さに焦れながら、箱以外に何か現状を打破するための有効な手段がないか周りを観察してみるがめぼしいものは何もない。
そうこうしている内に、30秒ほどで経過してパネルの表示『開錠』に代わった。
発掘されたアンティークの電子機器でもなければ殆ど発することが無い、現にガラクも過去に数えるほどした聞いた事のない特徴的な「ピッ」という電子音に続き、エアが抜ける音を立てながら箱の上面がゆっくりと左右にスライドしてゆく。
 全て開き切ったのかガチャリという音を立てて蓋が止まったので、慌てて中を覗き込むと、そこには有機物としてフードプロセッサーに入れてしまうよりは金持ちに伝手のあるバイヤーに売りに行った方が確実に金になるとその場で判断出来るほど高級そうな赤い布にくるまれた内蓋が見えた。
 急いで、だが慎重に内蓋の左右についた革製と思しき紐に鋲の打たれた小さな取っ手に手をかけると、はめ込んであるだけで内蓋すっと外れ、大きさからは想像できないほど軽く簡単に持ち上がった。
 取り外した内蓋は見るからに高級品のため、急いでいるのに粗雑に取り扱えず丁寧に箱の横に置き、ようやく中身の確認に着手した。
 中を見て最初に目に入ったのは、内蓋同様に高級そうな布が表面に貼ってあり、その真正面に古典のホロムービー以外では見たことが無いプレート型の物理タブレット、おそらく年代的に箱についていたタッチパネルと同時代のものだろう物が中央部にある。
 タッチパネルの左右には鈍色に輝くスチール製の四角いスチール製ケースが、下部分が埋め込まれた形でいくつかと、タッチパネルの向こう側にチップがそれぞれプレートで「No.1」「No2」とナンバリングされて2つ収納されており、それらがケースにピタリと固定されていた。

 最初に目についた物理タブレットは骨董品としては貴重だが、まずは現状を打破するための何か、例えば医療キットでも入っていないかと期待を込めてスチールケースを一個ずつ開けていく。
 スチールケースに施錠はされていないものの、中にはインゴットや木片、何かの植物の種など、厳重に保管されているのだからかなり貴重な素材であることは想像できるものの、残念ながら今のガラクの現状打破には全く役に立たない。
 全く関連性の無い物を一つの箱に一緒に収納とは考えづらいので、スチールケースの中身が用途不明な素材ばかりだっただ現状、チップに収録されているデータについても、今すぐ自分の延命や崩落現場であるこの場所からの脱出に使用できる有用なデータではない可能性が非常に高い。
 だが、チップの中身に期待する以外に手段のない現状、希望はほぼゼロとはいえ生還するためにも僅かな可能性にすがるほかないと意識をチップへと切り替えた。
 データが収録されていないチップは黒くなるはずなので、何らかのデータが入っているのは間違いないと思われるが、
 「白?」
 ガラクの知識にはホワイトチップという存在はなかった。
 もしかしたらレッドチップ以上のお宝を探り当てたのかもしれなかったが、この状況ではチップは使用せざるをえない。
 せっかく手に入れたチップも、生きて脱出できなければ換金することもできないからだ。
 いつか、自分の死体の横にあるチップを見ず知らずの他人が手に入れるのも業腹だという気持ちもなくもない。
 様々な想いと差し迫る死を目前に神に縋る様な気持ちでチップの使用を決めた。
 「頼む。医療技術系チップであってくれ・・・」
 今、ガラクが生きて地上に戻るために緊急で必要データは、外科系医療技術等の傷の治療に使えるデータが入ったチップが最も望ましい。
 医療技術系のチップであれば生き戻った後もその知識や技術は希少なため、それを利用して今よりはるかに安全で収入の良い仕事に就職できる可能性があるという利点もあるし、最悪、イリーガルとは言え闇医者として開業することも可能だ。
 次点としてサバイバル技術等に含まれる傷の応急処置ができるようなチップだ。
 これは生きて戻ってもサバイバル技術を生かせるような環境が無いため、データとしては無用の長物だが、今生き残ることだけを考えればあった方が良い技術となる。
 ガラクは箱から「No.1」とナンバリングされたチップを手に取ると、チップ使用時にターミナルが自動で行う意識を遮断する処理に備えて箱に背を預けて座りこみ、祈るように一度目を閉じ大きく息を吸い込むと、ターミナルが埋め込まれている首筋にチップを近づけた。
 接触したチップに対してターミナルが反応して物理的に接続、チップのデータ領域と脳のリンクが完了してデータインストール開始の準備が整った。

 通常のチップであれば、人体の記憶媒体としての機能のある脳という重要器官に対する負荷をできるだけ軽減のため、一時的に意識が落ちる処理がされる使用だ。
 シーカーがイエローチップを発見した場合、会社に報告した段階で業務上の収益物として徴収されて臨時収入となる。
 そのため、大抵は一度自宅に持ち帰って中身の確認と称して使用するため、基本的にはそれなりの安全を確保してから使用を開始するのが常識となっている。
 今回のような緊急の場合もできるだけ安全を確保するべきなのだが、崩落により深度が深く同業他社のシーカーに寝込みを襲われる危険もなく、コンテナも崩落に耐えられる程度には頑丈なためガラクはチップの使用に踏み切ったのだ。
 それなりの覚悟を決めてデータのインストールを開始したはずなのに、ガラクが使用したチップでは現時点で意識が途切れる様子もない。
 今までの経験から考えると本格的な異常事態ともいえる現状に疑問を持っていると、 “脳が膨張”するような、“感覚が拡散” していくような今まで体験したことない感覚が次第に強くなっていき、通常であれば視覚や聴覚を経由して脳に情報が入りそれを知識として蓄えるという通常のプロセスを一切無視した、脳に直接知識が勝手に増えていくという恐ろしく違和感を伴う状態に、ガラクは身動きひとつ取れずに身悶えつつ耐えことしかできなかった。
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