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第二章 魔法陣(試行錯誤)編

009_ガラクと考察

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 ガラクが目を覚ました頃には日も頂点から大分傾き、学校の下校時刻頃になっていた。
 部屋から出るとスクラも起きているようで、自室から人の動く気配がしている。
「スクラ~、お昼は食べたのか~?」
「食べた~」
 といったたわいも無い会話を交わし、自分の遅い昼食を準備しながらリビングにあるテーブルの自分の席につくと、これまでのことを考えてみることにした。
 脱出に要した期間を実際にはカウントしていなかったものの、実際に経過していた時間からおよそ270日程度と予想され、体感の認識による300日弱とそれほど大きな乖離は無い。
 その間、魔法については最初のチュートリアルで紹介のあった魔法や脱出の行程上で必要になった魔法を中心に、詠唱を覚えたり、タブレットの【各データ説明】により【魔法全般】と【魔導全般】のデータでできることを学んだり、脱出後に必要となる知識を増やしたりと、ダウンロードしたデータの習熟度はそれなりに上がっている、通常で考えられる300日よりはるかに濃い時間を過ごしたと自覚している。
 また、脱出の移動経路上で行く手を阻んだ廃棄物は現在も収納魔法に収納してあるが、途中で収納リストの整理が可能なことに気がつき、系統別、項目別にリストを整理してある。
 それらの廃棄物は単純にR/R社に納品するだけで相当額になるだけの物量に加え、レッドチップ2枚を筆頭に高所得者に販売可能な嗜好品などの高額換金が可能な物品も多岐にわって含まれている。
 それらの資源は高額商品を除いたとしても、シーカーとして物資をR/R社に納品するだけで、自分が学校に復学した上でスクラを学校を卒業させ、スクラの卒業時に彼女がやりたい仕事に必要なイエローチップの使用料金をいくつか購入してもまだ余るほどの量の資源が格納されている。
 高額商品も合わせて全て売却して現金化することができれば、R/R社を退職して自分で廃棄物回収の会社を立ち上げ、廃棄物回収業社にとっての一等地であるゲートと中央の役所を繋ぐ大通り沿いに社屋を自社ビルとして購入して仕事を始めることができるだけの金額に到達していると考えられる。
 脱出に欠かすことのできなかったホワイトチップ等が格納されていた箱については、発動されていた魔法は【魔法全般】と【魔導全般】を複合しないと再現できない技術であることは判明しているものの、その全用を明らかにするには流石に状況が切羽詰まりすぎており、脱出後に研究することにしていた。
 また、箱にスチールケースで格納されていた色々な資材については【魔導全般】のデータを使用することによって判明しているが、物質に固定の魔法陣を作成する場合には必要となる材料など、そちらも今後研究やデータの習熟度が進めば必要となってくる資源のようで、ものによっては箱に格納してある量を確保するために宇宙中をくまなく探索する必要があるほど希少なものも含まれていた。
 ちなみにタブレットにもそれらの資材がふんだんに使用されており、普通にタブレットを作成したても魔法陣を画面上に画像として表示しただけで使えるようにはならないため、そちらも【魔法全般】と【魔導全般】の技術の集大成とも言えるアイテムだ。
 そして最も重要なものはガラク自身がダウンロードしたデータ【魔法全般】と【魔導全般】の内容だ。
 ダウンロード当初に発覚していた通り、通常のチップであればダウンロードされたデータは最初から使用方法などもわかるようになっているものの、このデータはその使用方法による知識が含まれておらず、タブレットによる検索などにより別途使用方法を調べる必要がある。
 ただし、ダウンロードした【魔法全般】の中にある【魔力操作】や【魔法発動】といったデータが重要なようで、それらの知識は使用方法が明確ではなくても運用が可能なようで、そのデータを所有していない者がタブレットの魔法陣を使用しても発動することができない。
 なお、脱出までの体感300日弱の間に発動した魔法の数はタブレットと詠唱を合わせれば数万回に及び、その数多の魔法の発動がデータの習熟度を押し上げたことにより、【魔力操作】や【魔法発動】等の魔法発動に必要な技術はただのデータとしてではなく、データを意識することなく使用できる本人の技術として昇華されているし、【魔法文字認識】は魔法陣をなん度も見る機会があったためある程度学習が進んでいるものの、それ以外のデータは学習や研究をするには環境が整っていなかったため、【各テータ説明】を一通り読むだけで知識としてのみで実際に使用はしていない。
「今、思いつく現状としてはこんなものか・・・」
 長い期間1人で単純な作業を続けていたため癖がついてしまった独り言で現状を一つずつ言語化してみると、かなり濃密な時間を過ごしたとはいえ、崩落前と現在を比較すると 300日弱の時間の成果としては驚くほどの変化だ。
 
 ひとまず現状の把握はこれ以上思いつかないので完了として、今後の行動方針を定めていく必要がある。
 最も重要なこととして、魔法について誰に話すべきか。
 学生だったガラクは現在休学していることにより同級生との繋がりがほぼ絶たれており、ガラクにとって身近な人物は片手で数えられる程度に激減してしまっていた。
 その中でも唯一の血縁者であるスクラには、ガラクの許可なく他言しないことを約束させた上でできるだけ早く説明すると決めている。
 最大の理由としてはホワイトチップのデータはガラク本人以外に使用ができなため、スクラに魔法を覚えさせようとした場合、ガラクが直接指導する必要があるのだが、【魔法全般】の中でも特に【魔力操作】については年齢が低い方が習得が容易になる。
 体感300日の間に調べられた範囲ではあるが、スクラに覚えさせれば生活が楽になる魔法もいくつか発見できているため、今後のことを考えればできるだけ早く話をして【魔力操作】の練習を開始した方がいい。
 と言うのは建前で、単純にスクラを信用しているというのもあるが、有用な技術は身につけさせてあげたいという完全なる身内贔屓だ。
 正直、この【魔法】と言う技術は、魔法を発動させるための前提条件が多いので習得には時間がかかるものの、習得した上でいくつかの魔法を覚えればそれだけで暮らしていける。
 例えば廃棄物の山に向かって歩き、目に入る範囲の廃棄物を適当に収納魔法に格納、それを売るだけでほとんどリスクなく一生生活には困らないだけの収入が得られる。
 自分の身の回りの大人はどうだろうか。
 考えらえる範囲としてはR/R社の社長や社員が一番身近な大人だが、単純にガラク本人が利用されたり悪用されるだけならまだしも、この技術を手に入れるために唯一の家族であるスクラに危害を加えられる可能性を考慮しなければならないと考えられる。
 価値あるものを手に入れるためにあっさりと犯罪に手を染める者がいくらでもおり、その程度にはこの衛星の治安は良くない。
 R/R社の社長であるガベガバは漢気に溢れた親分肌の人物であり人として信用はできるが裏表がなさすぎて秘密の共有と言う意味では情報漏洩の不安があるため、もし話す可能性があるとしても先々の話になりそうだ。
 彼の妻である副社長のセーニケーハはどうだろうか。
 ガラクが仕事探しに困っている時期に、危険な仕事であることをガラクに納得させた上で仕事を紹介してくれたのはR/R社の社長令嬢であるクロスタであり、彼女が最初にガラクを雇用することについて相談を持ちかけたのは社長の父親ではなく副社長で母親のセーニケーハだ。
 副社長は金銭にかなり細かい部分はあるもののR/R社のナンバー2で実質的な経営者であり、それはR/R社に勤める職員の間では周知の事実だ。
 廃棄物回収業社といえば高額換金が可能な資源が大量に格納されたコンテナを発掘した運のいいシーカーが、それまでに溜め込んでいた金に高額換金した資源の売却益を合わせたお金を起業資金として自分が代表となって会社を立ち上げ、ある程度の規模になるj頃に様々な理由で潰れていく業種、と言うイメージが一般的だ。
 R/R社も当初は同じ轍を踏む傾向があったものの、セーニケーハが経営陣として参画して以来、その手腕により荷捌き場と倉庫を備えた社屋を自社の資産として保有できるほど業務が拡大している現在も業態が安定しており廃業の気配もない。
 ガラクが知っている範囲の情報で判断すると、人として信用できるかはわからないが経営者としては有能なため、こちらと本人の利害を考慮に入れてWinWinな判断が下せる人物であると思われる。
 2人の子供である社長令嬢クロスタは学生時代も同級生として仲良くしてくれていたし、仕事探しに行き詰まっていた時に今の仕事を紹介してくれたのも彼女だ。
 休学により縁の切れてしまった他の同級生だった友人と比較しても信用して良い人物での様に思え、スクラに話をした後であれば彼女には魔法の話をしても良いと思っている。
 そう言う意味では、彼女の母親である副社長に魔法の話をするかどうかは彼女に話をした上で相談し、判断を仰いでからで良さそうだ。
 それ以外では、収穫した高額換金可能な資源については換金せずに収納魔法に格納しておいて、当面は廃棄物資源の売却のみで生計を立てていくことにした。
 と言うのも、収納魔法に格納した際に更新される収納リストでチップに保存されいているデータの中身が判別可能だったのだ。
 例えば、収納リスト上では、【レッドチップ(帝国歴3258年度:最先端外科医療知識及び技術)】と表記されており、カッコ内の記載に年度表記があるチップなど、ガラクの知る限り聞いたこともないしそもそも帝国歴がどこの国の暦で記載の年代が何年前なのか、少なくともこの衛星では使用されていないので不明だ。
 とにかくレッドチップに限らずデータの内容がわかるので、纏った資金が必要な時にまとめて売却することにした。
 それから、タブレットに入っている未知の魔法を研究したりもしたいが、タブレットや箱は解説の中では【魔導具】と呼称されており、それら魔導具作成には必ず魔力結晶と言うものが必要になると説明されている。
 魔力結晶自体は箱に格納されていたスチールケースにある程度の量が入っていたものの、魔力結晶自体は資源としてどこかで採掘できる類のものではなく、それを精製する魔導具を一から作成する必要がある。
 そのため、今後の行動方針としても、まずは魔力結晶を作り出すための魔導具を作成・完成させることを目標とした。
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