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第三章 魔法陣(進展)編

018_ガラクと作業場所(その2)

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 ビッグマンは互助会とは言え、有事に会員として登録された者が逃げ込むこともできるように建物には昼夜問わず事務局の人が詰めており、常に出入りが可能となっているとのこと。
 ガラクにとって都合が良すぎる設備であるためロードの申し出を受けて使用させてもらいたいと申し出ると、現状のガラクはビッグマンに所属してはいないので常時入館としてIDの登録と、部屋の使用条件についてお互いに合意したことを記録するための手続きをしてもらうこととなった。
 こういった遣り取りはR/R社に所属するときのみで、全く慣れていないガラクにセパスヤンは同意事項について一項目ずつ丁寧に教えてくれた内容で、一部ガラクの意見で修正を加えた内容を簡単に要約すると
 ① 使用料金は不要。ただし、光熱費については毎月一定額を支払うこと。
 ② 組織側は使用目的について詮索しない。ただし、一定の成果が見込まれた上でビッグマン側に公表可能となったときにはまずロードに直接報告すること。
 ③ 使用期間については1年間とする。ただしガラク本人から使用終了の申し出が無い限り自動的に更新するものとする。
 ④ ガラクがビッグマンに所属した場合も使用条件の変更はしない。
 ⑤ ガラク以外が設備を使用する場合は都度、事務局に許可をとること。
 ⑥ この同意に関わる内容についてはお互いに守秘義務を負うものとする。
 ⑦ ①~⑤について取り消す場合はロードとガラクの合意を持ってのみ可能とする。
 と言った内容が法律に基づいた言い回しで記載してあり、①の光熱費についてはガラクから全くの無料というわけにはいかないという話をすると、光熱費として可能な範囲で支払いを行うことで最終的な合意となった。
 説明の最後にセパスヤンがすでにロードの許可は出ているためガラクのサインとIDの登録で法的に拘束力のある有効なデータとなると教えてくれた。
 ガラクはもちろん使用したいと意向を伝えていたため、書類にサインとIDの登録を行った。
 今日から使用して問題ないと言われたため、一度帰宅して夜スクラを寝かせてから再度来ると話をすると、受付には話を通しておくので入館時にIDを提示してそのまま部屋を使用するように言われた。
 ただし、あくまでも会員としてではなく入館登録を行っての入館となるため、防犯や他の施設利用者に対する外聞などの理由から施設内の関係ない場所を彷徨くのは避けて欲しいと念を押された。
 帰宅するためにビッグマンの施設から退出したガラクはパリスに対してある疑問を投げかけてみた。
「本当にありがとう。でも、こんなすごい組織に所属してるのになんでシーカーなんかしてるの?」
「いや、ビッグマンは情報の共有なんかがメインで職業の斡旋とかはしてないす。情報共有の一環として俺の年齢でも働ける職場の情報を調べてもらってR/R社に行き着いたす」
「今回の話は?」
「事務局に親戚がいるす。事情を話して手頃な場所が無いか聞いたらこんなことになったす」
 本人も何故こんなことになったのかよくわかっていないので、それ以上は回答のしようがないとのこと。
 ガラクは重ねて礼を言って帰路に着いた。
 ガラクの自宅まで公共交通機関を使用して1時間超で辿り着ける程度の距離で、ヴィークルモドキを使えばさらに短時間で辿り着けるため、距離的に隔壁の外に出るよりも遥かに近くその分作業に時間を割けるため理想的な立地と言える。
 帰宅後、スクラに約束し詰め倒されたこともあって可及的速やかに食事を終わらせ、スクラの就寝時間ギリギリまで魔力操作の練習に付き合って寝かしつけてからビッグマンの設備に向かうことにし、自宅の前でヴィークルモドキを出して乗り込んだ。
 
 ビッグマンの設備の近くに到着してから人目に付かない場所でヴィークルモドキを収納魔法に格納。
 正面の入り口から入館し受付に向かうと、袖が他の職員と違ってノンスリーブで腕に皮膜があるおそらくコウモリの獣相の女性が受付として座っており、ガラクが入ってきたことを確認すると笑顔で声をかけてきた。
「ビッグマンへようこそ。会員様ではありませんね。失礼ですがどういったご用件でしょうか?」
 ガラクは夕方の経緯を話しつつIDを提示した。
「お話は伺っております。お部屋へのご案内は必要でしょうか?」
「あ、いえ。さっき行ったばっかなので自分で行けます・・・」
「左様でございますか、ではどうぞお通りください。お帰りの際は受付に一言お声がけ頂きますようお願い致します」
 ビッグマンほど有名な組織だと受付の職員も洗練されており、ガラクが今まで接したことのないタイプの人だったが、なんだかすごく仕事が出来そうな雰囲気の人だなと感心しながら部屋へ向かい、入室してセパスヤンに教えてもらった通り照明を点灯して中を見渡した。
 夕方にも確認していたが、部屋は作業用コンテナをそのまま出しても問題ないだけの広さがあり、部屋の各所にエネルギー供給用のソケットが設置されているためある程度のサイズの工具の設置が可能となっており、最奥にはごく簡易な水道施設にトイレも備えており、ガラクが支払える範囲の金額の光熱費のみで使用できるのは破格と言う言葉すら矮小表現と言えるほどの設備となっていた。
 それらを一つづずチェックしていきながら、ソケットについては現状では色々な作業が魔法で代用が効くため食料パックの調理器具程度しか繋がないと思われるが、水道とトイレが最もありがたい設備だと感じた。
 一通り設備を確認した後、部屋の扉を施錠してから収納魔法に格納してある作業用コンテナを部屋の中で取り出した。
 出した後に、コンテナ自体は床が設定されているものの、大気圏を通過させるために砲弾型をしているため、真っ平な床に設置しようとすると安定性が無いことに気がついた。
 慌てて収納魔法の中から楔になりそうなものを取り出して転がらないように固定し、そのついでにコンテナの外で使用できるように古いテーブルや椅子を取り出して設置していった。
 その直後に情報セキュリティ的には完全に隔離されていると言う話だったが完全に信用してしまうのもちょっと怖かったので、作業用コンテナの中で光源の魔法を発動してから部屋の照明を消してそのままコンテナ内に移動した。
 とは言え、作業用コンテナで行う作業は主に魔法陣の作成だが、現状では次に作成する魔法陣が決まっているわけではない。
 今後、この部屋を使用するにしてもコンテナごと持って歩けるのにわざわざ設置しっぱなしにする必要もないため、次に作る魔法陣を決めてその作成にまとまった作業時間の確保をする時が主な使用用途となりそうだ。
 今後の部屋の使用方法に思いを馳せている時にはたと、この組織の理念から考えると魔法陣作成の作業の際にスクラを連れてきて手伝ってもらうことは良くないのではないか気がつく。
 合意の内容的にも事務局にガラク以外の者を入れる許可を取れば問題なさそうではあるが、わざわざ小柄な住民同士の互助会10歳とは言えにすでにかなり大柄なスクラを連れてくるのは憚られた。
 と言うことはどんなに纏まった作業時間が確保できても、魔力結晶を粉末化する作業は自宅でスクラに手伝ってもらうか自分でやる必要があると言うことになる。
 そこまで思い至り、次に作成する魔法陣はガラクが作業の際に着用する強化服に使える魔法陣か、ガラクの作業自体をサポートできるようなゴーレムあたりが適当な気がしてきた。
 条件に基づいてタブレットで魔法を検索してみると、強化服については着用する服や鎧などに付与して着用者本人を強化するタイプの魔法が見つかり、非確的意図するところに近いと思われるものの、強化される効果は以前に魔力結晶の粉末化作業を自分でした時に使った筋力強化魔法と同じように使用者の筋力を割合で強化する効果のため、都度魔法を発動する手間が省けるとは言えさして筋力のないガラクが使用してもあまり役に立つものではないと判断できた。
 正直な話、強化服はガラクが使うよりそもそもの身体能力がはるかに高いR/R社の社長やスクラにでも着用させた方が強化効率が高いが、10歳の女の子がそんなに腕力や脚力を底上げする意味がわからない。
 結論として今のガラクが知っている人の中では、R/R社の社長に使わせるのが一番強化効率が高くて役に立つ魔法陣であり、ガラク本人やビッグマンに所属しているタイプの人間の役に立つものではないとの結論に至った。
 ゴーレムの魔法については大別すると詠唱魔法と魔法陣を刻印した場合の2種類について記載があった。
 詠唱魔法の場合は魔力が尽きるまで単純作業を行って魔力が尽きると素材に戻ってしまうもので、込めた魔力によってサイズを変更できて大きいほど力が強いという汎用性や、その場に魔法に適した素材さえあれば特に事前準備が必要ないことがメリットだが、デメリットとしては器用な作業はほぼできず荷運びや単純な破壊工作などにしか使用用途のない魔法だ。
 魔法陣の刻印によるゴーレムは、事前にある程度の形を整えたものに魔法陣を刻印し、魔力を流すと詠唱魔法と同様に単純作業をこなして魔力が切れると稼働を停止するもので、事前に準備したゴーレムの形状に合わせて魔法陣をある程度改良する必要があるものの、詠唱魔法と同様に指示できるのは単純作業とは言え稼働のスムーズさがかなり高くなりある程度器用な作業もこなせるようになると言うものだ。
 スクラに力仕事の手伝いをして貰えないのが悩みのガラクにとっては多少の研究や改良に時間が取られても必要な魔法陣型のゴーレムの魔法陣作成を次の目標に定めた。
 今後、サポート用のゴーレム作成に必要な工程として考えられるのは、まず魔法陣を描き越しを行なって内容の検証、並行してゴーレムの素体を作成、作成した素体に合わせて魔法陣の改良を行なってから素体に魔法陣の刻印をして完成となる。
 この衛星で一番簡単に手に入る素材は鉄材で次がセラミックなので、アイアンゴーレムとマッドゴーレムの魔法陣を最初の検証対象にすることにした。
 それぞれの魔法陣について検索し、まずはアイアンゴーレムの魔法陣を描き起こしながら、どちらの素材も簡単に形成が可能な素材ではないためそれらを加工するための魔法についても別途調べて覚える必要があることに気がついた。
 これからの目標が定まり目の前にやるべきことが山積みになっていくにつれて、ガラクはまるで楽しいことを目前に控えた眠れない前夜のように心がザワザワと落ち着かない気分になってきたことに気がついた。
 廃棄物堆積層から生きて帰るための、そのあとは生きていくための手段だった魔法が、今ではすっかり好きになっていることに気がついたガラクは、今後はできるだけ魔法に関することに時間を費やそうと心に決めた。
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