毛利隆元 ~総領の甚六~

秋山風介

文字の大きさ
6 / 34
第1章:山口青春編

6話


 あやちゃんぶちギレ事件からまたしばらくして、お城ではパーティーが開かれることになりました。
 タイトルは『陶隆房くん、家督相続&従五位下叙任おめでとうの会』──まあ、早い話が、陶家主催の自画自賛パーティーでございます。

 隆元たち人質も、末席に名を連ねることが許されたのですが、パーティーとなるとプレゼントを持参しなければ行けません。
 というわけで、隆元と天野くんは、山口の街に買い物に来ておりました。

 「贈答品といえば馬か、鎧か、後は刀ですかね」

 「僕らの小遣いで買えるのは……小刀ぐらいかな」

 「でも贈答用のやつって結構しますよ」

 「伊勢屋さんに行ってみない? あそこは職人気質で客は少ないけど、腕は確かだから。次の次の角を曲がった三軒目に、」

 「……毛利殿、お詳しいですね」

 銀座をブラブラ歩くことを銀ブラなんて言いますが、隆元くんは山ブラ、つまり山口をブラブラするのが趣味でした。
 別段何を買うわけでもありませんが、大好きなお金が動いているのを眺めているだけでも、彼にとっては心安らぐ時間だったのかも知れません。

 -*-*-*-*-*-*-*-

 パーティー当日。
 隆元と天野くんは、切れ味のいい小刀を持参して、陶家の控え室を訪ねました。

 「……これは何だ」

 「小刀です」

 「お主ら、これを贈答品と申すか?」

 だっせえ。何だこのデザイン。
 陶ジュニア・隆房くんの顔には、はっきりそう書いてあります。
 しかし隆元は負けません。

 「我々田舎者は、端から洒落たものなど選べませぬ。であれば、普段使い出来る品の方が喜ばれるかと思いまして」

 「ほう、モノは言いようだな」

 「これからますますご活躍され、敵の大将の首を取る機会も増えましょう。そんな時、名刀を汚すのは気が引けてしまうもの。何も考えずに使える雑刀がひとつあると、何かと便利かと」

 「伊勢屋さんは腕は確かなんです! ね、毛利殿!」

 隆房がつーんとした顔で小刀を眺めていると、「ほう、伊勢屋か」と言いながら、陶パパ・興房さんが部屋に入ってきました。
 一同、一気に姿勢を正します。

 「伊勢屋と上総屋は、わしも若い頃から贔屓にしておる。毛利の倅、お主なかなか目利きであるな」

 「ははっ、もったいなきお言葉に、」

 「そんなことより隆房、そろそろ着替えねばならんぞ。奥の間に女中たちを待たせてある故、早く参ろう」

 「承知いたしました! では主ら、また後でな」

 小刀をその辺に置くと、隆房は奥の部屋へ消えていきました。

 -*-*-*-*-*-*-*-

 その晩、パーティーは華やかに執り行われました。
 大内義隆、晴持の他、主だった家臣たちも皆出席し、家をあげての大宴会でございます。
 隆元と天野くんは、その隅っこのさらに隅っこで、こそこそと酒を飲んでおりました。

 「いやー、すごい人ですね!」

 「僕が尼子家の人間なら、この部屋に毒霧でも撒くね」

 「や、やめてくださいよ……あ、あれ、あや殿じゃないですか?」 

 部屋の奥の方、晴持の席の近くに、お酒を持ったあやちゃんが座っておりました。
 内藤先生と太守様がお話をしている傍らで、子供二人が若干気まずそうに対面しております。

 「……面白そうだから、ちょっと見とこうか」

 と言って、しばらく観察しておったのですが、会話が盛り上がる気配はありません。
 盛り上がるどころか、無言の間が流れてしまっています。

 「……若様、意外と奥手なんですね」

 「意外じゃないでしょ、話した感じ奥手だよ」

 「話したことなんかないですよ」

 「あ、そっか。天野くんはないんだっけ」

 「……え、毛利殿あるんですか!?」

 と、気まずい二人の前に、救いの手(?)が差し伸べられます。
 主賓・陶ジュニアが、親友の弘中くんを連れて、晴持の席を訪れたのです。

 ヤンチャで明るい二人ですから、先ほどまでが嘘のように会話も弾みます。
 あやちゃんの顔にも自然と笑みが浮かんで、一件落着かなと思ったのも束の間、

 晴持くんが、急に席を立ってしまいます。
 
 「……これは、」

 残った3人は、楽しそうに会話を続けています。
 ですから、表向きには厠(トイレ)だとか何とか言って、部屋を出たのでしょう。
 しかし、隆元たちにはわかります。この痛みは、シャイな男にしかわからない痛みなのです。

 「……恋文、結局どうされたのでしょうね」

 「あの様子だと、自分で書いて返したか、それとも返してないか……」

 と、無駄口を叩いてると、さらに動きがありました。
 弘中くんが席を立ち、事もあろうか、隆元たちの方に向かってくるのです。
 二人は急いで視線をそらし、平静を装いました。

 「よう、楽しんでおるか、ご両人」

 弘中くんはエリートな家柄ですが、陶くんよりも人当たりが良く、サッカー部のキャプテンのような爽やかさのある人物でした。
 ただ、こうして面と向かって話すのは、この時が初めてです。

 「陶から聞いたぞ。あえて質素な小刀をお送りして、興房様から褒められたそうじゃないか。毛利・天野はなかなかに目の利く男たちである、と」

 「まあ、あえてだったかと言われると……」

 「そんな御二人にお聞きしたい。主ら、あれをどう見る?」

 弘中くんの視線の先──そこには、陶ジュニアとあやちゃんが仲睦まじく話している姿がありました。

 「なかなか、似合いだとは思わんか?」 

 隆元と天野くんは、言葉につまってしまいました。
 晴持様があやちゃんにラブレターを……なんて話は出来るわけもありませんし、かと言って、似合いでないと答えるのも違う気がします。
 
 「……陶様は、あや殿を好いておられるのですか?」

 「いや、面と向かって話したのは今日が初めてだと……というか毛利殿、お主、あや殿と面識があるのか?」

 「え、あ、いや、め、面識というほどでも」

 バリン。
 その時不意に、お猪口が割れる音が響き渡りました。
 いったい誰の粗相だと、音の鳴る方へ皆が視線を向けると、

 そこには、
 倒れ込む老将の姿がありました。

 「……父上!!」

 陶興房。
 ちょうど我が子に家督を譲ったばかりのこの男に、非情にも神は、病の蟲を放ちました。
 混乱する大広間。父上、父上、と繰り返し父を呼ぶ隆房の声も、ただただ喧騒に吸い込まれていくばかりでございました──。
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】『いくさ飯の若武者 ~乾坤一擲、兵糧奮闘記~』

月影 朔
歴史・時代
刀より強い? 腹が減っては戦はできぬ! 戦国乱世、食に命をかける若武者の兵糧奮闘記、開幕! 血と硝煙の戦国乱世。一大大名家が歴史を変える大いくさを前に、軍全体がかつてない危機に喘いでいた。それは、敵の奇襲でも、寡兵でもない――輸送路の遮断による、避けようのない「飢餓」だった! 武功に血道を上げる武士たちの中で、ひっそりと、だが確かに異彩を放つ若者が一人。伊吹千兵衛。刀の腕は今ひとつだが、「食」の道を探求し、戦場の兵糧に並々ならぬ情熱をかける兵糧奉行補佐だ。絶望的な食糧不足、日に日に失われる兵士たちの士気。この危機に、千兵衛は立ち上がる。 彼の武器は、限られた、乏しい食材から、想像もつかない「いくさ飯」を生み出す驚きの創意工夫! いつもの硬いだけの干飯は、野草と胡麻を加え、香ばしく焼き上げた「魂を焦がす焼きおにぎり」に。 そして、戦場の重苦しい空気を忘れさせる、兵士たちの「ささやかな甘味」まで――。 『乏しき中にこそ、美味は宿る。これぞ、いくさ飯。』 千兵衛が心を込めて作る一品一品は、単なる食事ではない。 それは、飢えと疲労に倒れかけた兵士たちの失われた力となり、荒んだ心を癒やす温もりとなり、そして明日を信じる希望となるのだ。 彼の地道な、しかし確かな仕事が、戦場の片隅で、確実に戦の行方に影響を与えていく。 読めばきっとお腹が空く、創意工夫あふれる戦国グルメの数々。次にどんな驚きの「いくさ飯」が生まれるのか? それが兵士たちを、そしてこの大戦をどう動かすのか? これは、「あの時代の名脇役」が、食という最も人間臭く、最も根源的な力で、乾坤一擲の大戦に挑む物語。 歴史の裏側で紡がれる、もう一つの、心熱くなる戦場ドラマ。 腹ペコを連れて、戦国の陣中へ――いざ、参らん!

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

天正の黒船

KEYちゃん
歴史・時代
幕末、日本人は欧米諸国が日本に来た時の黒船に腰を抜かした。しかしその300年前に日本人は黒船を作っていた。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!