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第1章:山口青春編
6話
あやちゃんぶちギレ事件からまたしばらくして、お城ではパーティーが開かれることになりました。
タイトルは『陶隆房くん、家督相続&従五位下叙任おめでとうの会』──まあ、早い話が、陶家主催の自画自賛パーティーでございます。
隆元たち人質も、末席に名を連ねることが許されたのですが、パーティーとなるとプレゼントを持参しなければ行けません。
というわけで、隆元と天野くんは、山口の街に買い物に来ておりました。
「贈答品といえば馬か、鎧か、後は刀ですかね」
「僕らの小遣いで買えるのは……小刀ぐらいかな」
「でも贈答用のやつって結構しますよ」
「伊勢屋さんに行ってみない? あそこは職人気質で客は少ないけど、腕は確かだから。次の次の角を曲がった三軒目に、」
「……毛利殿、お詳しいですね」
銀座をブラブラ歩くことを銀ブラなんて言いますが、隆元くんは山ブラ、つまり山口をブラブラするのが趣味でした。
別段何を買うわけでもありませんが、大好きなお金が動いているのを眺めているだけでも、彼にとっては心安らぐ時間だったのかも知れません。
-*-*-*-*-*-*-*-
パーティー当日。
隆元と天野くんは、切れ味のいい小刀を持参して、陶家の控え室を訪ねました。
「……これは何だ」
「小刀です」
「お主ら、これを贈答品と申すか?」
だっせえ。何だこのデザイン。
陶ジュニア・隆房くんの顔には、はっきりそう書いてあります。
しかし隆元は負けません。
「我々田舎者は、端から洒落たものなど選べませぬ。であれば、普段使い出来る品の方が喜ばれるかと思いまして」
「ほう、モノは言いようだな」
「これからますますご活躍され、敵の大将の首を取る機会も増えましょう。そんな時、名刀を汚すのは気が引けてしまうもの。何も考えずに使える雑刀がひとつあると、何かと便利かと」
「伊勢屋さんは腕は確かなんです! ね、毛利殿!」
隆房がつーんとした顔で小刀を眺めていると、「ほう、伊勢屋か」と言いながら、陶パパ・興房さんが部屋に入ってきました。
一同、一気に姿勢を正します。
「伊勢屋と上総屋は、わしも若い頃から贔屓にしておる。毛利の倅、お主なかなか目利きであるな」
「ははっ、もったいなきお言葉に、」
「そんなことより隆房、そろそろ着替えねばならんぞ。奥の間に女中たちを待たせてある故、早く参ろう」
「承知いたしました! では主ら、また後でな」
小刀をその辺に置くと、隆房は奥の部屋へ消えていきました。
-*-*-*-*-*-*-*-
その晩、パーティーは華やかに執り行われました。
大内義隆、晴持の他、主だった家臣たちも皆出席し、家をあげての大宴会でございます。
隆元と天野くんは、その隅っこのさらに隅っこで、こそこそと酒を飲んでおりました。
「いやー、すごい人ですね!」
「僕が尼子家の人間なら、この部屋に毒霧でも撒くね」
「や、やめてくださいよ……あ、あれ、あや殿じゃないですか?」
部屋の奥の方、晴持の席の近くに、お酒を持ったあやちゃんが座っておりました。
内藤先生と太守様がお話をしている傍らで、子供二人が若干気まずそうに対面しております。
「……面白そうだから、ちょっと見とこうか」
と言って、しばらく観察しておったのですが、会話が盛り上がる気配はありません。
盛り上がるどころか、無言の間が流れてしまっています。
「……若様、意外と奥手なんですね」
「意外じゃないでしょ、話した感じ奥手だよ」
「話したことなんかないですよ」
「あ、そっか。天野くんはないんだっけ」
「……え、毛利殿あるんですか!?」
と、気まずい二人の前に、救いの手(?)が差し伸べられます。
主賓・陶ジュニアが、親友の弘中くんを連れて、晴持の席を訪れたのです。
ヤンチャで明るい二人ですから、先ほどまでが嘘のように会話も弾みます。
あやちゃんの顔にも自然と笑みが浮かんで、一件落着かなと思ったのも束の間、
晴持くんが、急に席を立ってしまいます。
「……これは、」
残った3人は、楽しそうに会話を続けています。
ですから、表向きには厠(トイレ)だとか何とか言って、部屋を出たのでしょう。
しかし、隆元たちにはわかります。この痛みは、シャイな男にしかわからない痛みなのです。
「……恋文、結局どうされたのでしょうね」
「あの様子だと、自分で書いて返したか、それとも返してないか……」
と、無駄口を叩いてると、さらに動きがありました。
弘中くんが席を立ち、事もあろうか、隆元たちの方に向かってくるのです。
二人は急いで視線をそらし、平静を装いました。
「よう、楽しんでおるか、ご両人」
弘中くんはエリートな家柄ですが、陶くんよりも人当たりが良く、サッカー部のキャプテンのような爽やかさのある人物でした。
ただ、こうして面と向かって話すのは、この時が初めてです。
「陶から聞いたぞ。あえて質素な小刀をお送りして、興房様から褒められたそうじゃないか。毛利・天野はなかなかに目の利く男たちである、と」
「まあ、あえてだったかと言われると……」
「そんな御二人にお聞きしたい。主ら、あれをどう見る?」
弘中くんの視線の先──そこには、陶ジュニアとあやちゃんが仲睦まじく話している姿がありました。
「なかなか、似合いだとは思わんか?」
隆元と天野くんは、言葉につまってしまいました。
晴持様があやちゃんにラブレターを……なんて話は出来るわけもありませんし、かと言って、似合いでないと答えるのも違う気がします。
「……陶様は、あや殿を好いておられるのですか?」
「いや、面と向かって話したのは今日が初めてだと……というか毛利殿、お主、あや殿と面識があるのか?」
「え、あ、いや、め、面識というほどでも」
バリン。
その時不意に、お猪口が割れる音が響き渡りました。
いったい誰の粗相だと、音の鳴る方へ皆が視線を向けると、
そこには、
倒れ込む老将の姿がありました。
「……父上!!」
陶興房。
ちょうど我が子に家督を譲ったばかりのこの男に、非情にも神は、病の蟲を放ちました。
混乱する大広間。父上、父上、と繰り返し父を呼ぶ隆房の声も、ただただ喧騒に吸い込まれていくばかりでございました──。
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