毛利隆元 ~総領の甚六~

秋山風介

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第3章:厳島決戦編

10話

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 「て、敵襲! 東の山から毛利勢にございます!」

 叩き起こされた陶くん・弘中くんは、すぐに兵をまとめ、迎撃に移ります。
 しかし狭い島内、バラバラに宿営していた事が災いし、なかなか数的有利を形成することが出来ません。

 「案ずるな! 持ちこたえればすぐ次の兵が来る! しばしの辛抱じゃ!」

 が、それも束の間。
 宮尾攻めの兵まで迎撃に駆り出されたのを確認すると、手薄になった本陣めがけ、隆景の軍勢が奇襲をかけたのです。

 「いかん! 陶! 退け!」

 「し、しかし兵を見捨てて、」

 「大将が生きていれば負けたことにはならぬ! 岩国まで戻れ! ここは俺が食い止める!」

 ふたりは、わずかにアイコンタクトを交わすと、
 それぞれの道へと駆け出して行きました。

 -*-*-*-*-*-*-*-

 「どけどけぇ! 俺が用があるのは陶殿だけだ!」

 先陣を任された元春は、猛烈な勢いで大鳥居付近まで攻め上がりました。
 しかし、そこは戦上手の弘中隆包。宮尾からの小早川勢(北東)と山からの吉川勢(南東)に挟み撃ちにされぬよう、早々に大鳥居を捨て、島の西側を背に陣形を組み直しておりました。

 「……ふふっ、あいつを慕うような者がおるとはな。なんて言ったら、また拗ねられてしまうな」

 島の西部に陶を逃がすと、弘中勢の反撃が始まります。
 突出しすぎた吉川勢は徐々に劣勢に陥ります──が、すぐに援軍が到着します。

 「元春様! 我らが来たからには安心ですよ!」

 「……誰?」

 「天野です、あ・ま・の! 殿のお友達!」

 天野くんら安芸国人衆も加勢し、さらには隆景の軍勢も到着すると、さすがの弘中くんも支えきれなくなります。
 弘中勢は島の南部、いわゆる白糸の滝がある方へと撤退を始めます。しかもこの時、弘中くんの指示で、島に火が放たれました。

 「いかん! 神社を焼いては末代までの恥じゃ!」

 「兄上は火消しを優先してください! 私は陶を追います!」

 「わかった! そちらは任せた!」

 弘中くんの機転で思わぬ足止めを食らった毛利勢。
 一方、陶くんは西へ西へと歩みを進めておりました──。

 -*-*-*-*-*-*-*-

 陶軍は、海岸線沿いに兵を駐屯させていたため、進んでいけばいつかは舟が見つかるだろう──と陶くんは思っておりました。
 しかしその予想は外れます。どこを探しても、一艘も舟がないのです。
 それもそのはず、攻撃開始と共に後方の隆元が狼煙をあげ、村上水軍が島中の舟を残らず破壊し尽くしてしまったのです。

 そして徐々に、小早川勢の追手に捕まり始めます。
 撃退する度に仲間は減り、息は乱れ、

 やがて陶くんは、
 体力の限界を迎えてしまいます。

 「──ここまでか」

 「し、しかし殿! 次の浜には舟が、」

 「ないよ。敵の大将はそんな下手は打たん」

 いや、大将の父親か。
 なんて考えて、陶くんは小さく笑います。

 「腹を切る故、介錯を頼む。最期は武士らしく逝こうではないか」

 鎧を脱ぎ、短刀を手に取ると、陶くんはすぐに腹を──切りませんでした。

 「……この刀、よく切れると評判でな」

 心を整えようと、少し会話を楽しみます。

 「地味だが実用的だと、父上も褒めておった。まさかこんなところで使うとはな」

 「どなたかからの贈答品で?」

 「ああ、敵の大将からだ」

 午前10時頃、
 陶晴賢、自刃。

 その後、山に籠った弘中勢を除き、午後2時頃までに戦闘は終了しました。
 弘中くんはその後、10月3日まで抵抗を続けるも、やがては玉砕されたと言います。

 これをもって、厳島合戦は終了。
 中国地方の勢力図は大きく塗り変わることになるのでした。
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