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尖閣諸島近海
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◆
尖閣諸島、北西海域。
一帯の海域には、千隻余りの中国漁船が認められた。
海上を覆い尽くすように展開した船は穏やかな海に船足を止め、しばしの休息を
楽しんでいる、そんな風にも見えた。
尖閣諸島まで三十数キロ。これらの船は明らかに、尖閣諸島上陸を目指している
ものと思われる。
上空から船団の様子を覗う海上保安庁の航空機:MAJファルコン2000。
「凄い数だな。これじゃカウントするのも楽じゃない」
「ああ、そうだな。NSCからの報告では、中国空軍のカバーは無いと言うから、
安心していいぞ」
中国漁船団の周囲には、中国の海上保安庁にあたる、十数隻の中国公船が護衛と
警戒にあたっている様子だ。
しかしその中国公船でさえ、その動きを止めているようなのだ。
(なんで動かない? 何かがおかしい……何が起こってるんだ?)
上空を飛び交う、海保の航空機や報道陣を乗せた飛行機のクルーは、
一様にそう感じていた。
漁船の真上を旋回した、海保のジェット機MAJに搭乗する通信士が、
声高に報告を始めた。
「中国漁船はこれまでの目視で、千隻に及ぶものと思われます。
なお中国公船は十隻が確認されています。
現在、全ての船が魚釣島北方三十キロ海域、領海外で留まっています。
このまま監視を続け随時、動静を報告します」
尖閣諸島の領海内では、海上保安庁の艦船が集結し、上陸を阻止すべく待機している。
海はまだ穏やかだったが、南半球の熱帯では突如発生した台風が巨大化し、
その速度を早めていて今後東シナ海が、徐々に荒れ模様になることは必至と
予想されていた。
しかし漁船団が海域に留まっていると言ったものの、その様子は明らかにおかしかった。
千隻の船が波に揺られ、海域に漂っている、そんな風にしか見えなかったのだ。
◆
同時刻。
首相官邸内、『NSC/国家安全保障会議』特別会議室。
そこには石葉首相をはじめ、関係閣僚と防衛省を中心としたスタッフが集まっていた。
秘密保護法の関連法案が成立しその後、それとセットのようにNSCが創設される
ことになった。それ以来、始めて生じた国家の危機的状況だ。参集した関係者の顔には、
一様に緊張の表情が見て取れる。
明かりが落とされた会議室。
長方形に近い丸テーブルの前面には、大きなモニターが掛けられていた。
モニターには尖閣沖に浮かぶ、中国漁船の映像が映っている。
二分割された映像は、上空からのものと、至近の海上からの二つのものがあった。
上空からの映像には、海に漂う漁船がアップになり、人の姿まで確認できる。
石葉首相がモニターを見つめながら、隣に座る防衛省のスタッフと思われる男に
問いかけた。
「キンチョールと言ったっけ、あれは? 君たちが放った、モスキートロボットの
情報通りだったじゃないか。『蚊』型ロボット等と言う日本の微細技術とは、
恐ろしいものだな」
防衛軍の制服を着た男、大町二佐が苦笑いをする。
「総理、冗談は勘弁して下さい。キンチョーですよ、キンチョー。
まぁ似たようなもんですが」
『キンチョー』は七ミリサイズの蚊型ロボットで、昆虫の動態研究によって
もたらされたものだった。
このマイクロマシンのモデルとなったのが『蚊』で、日本の技術は蚊のレベルまでの
微細化に成功していた。
潰されると血が出るという、凝った造りの優れものだ。
それは民生品から無断転用され、諜報用の技術として開発されたものだった。
石葉も笑っていた。
普段は強面だが、笑うと意外と人懐っこい顔になる。
「ははは。キンチョー、そうだったな。ところで、このNSCの防諜対策は
大丈夫なんだろうな?」
偉丈夫で、いかにも軍人という姿の大町二佐が胸を張る。
「どうぞ、その辺のことはご心配なく。情報管理には万全を期しております。
NSCの人間に行動の自由はありません。内部にいる全ての人間は監視つきですから、
情報漏えいなど、心配ご無用です」
秘密保護法、石葉が求めて出来た法律とはいえ自身が常時監視されているというのは、気持ちの良い話ではない。
首相が一瞬『いやな顔』をして、モニターに目を移す。
「この海上からの映像は、例のカブトの映像かね?」
「仰るとおりです。偵察用のカブトを十機ほど流してあります」
大町の説明に、石葉は更に問いかける。
「この漂流している中国漁船は、すべてカブトによる攻撃の結果なんだろうな?」
「はい、カブトはほぼ完ぺきに機能しました。千隻の船を航行不能にするなど、
前代未聞の威力です。結果が確認できましたので現在、全て母船に回収すべく
行動中です」
「ほぼ、と言うことは全部では無いと言うことか?」
「はい、十数隻の船には手を出していません。これは保安庁の巡視船に対応して
もらいます。完全と言う形を作る必要はないかと」
首相が全員を見まわし、余裕の表情で話し出す。
「これが去年だったら、大変なことになっていたな」
大町も笑いながら応える
「そうですね、昨年の大震災発生中にこのことが重なったら、とんでもない事態に
なっていたかもしれません。まぁ去年の中国は大変な国内問題を抱えていたので、
そんな余力はありませんでしたがね。 不幸中の幸いと言えます」
石葉首相は、顔の表情を引き締め、
「それにしても中国の反応がどうなるか、それが問題だな。メンツ丸つぶれだから、
なにを言ってくるか判らんぞ。
三日後には予想外の台風がくると言うじゃないか。
予定通り中国船員の救助には、全力で対応してくれ」
漁船や中国公船の動力を止めることには成功したものの、そのまま放置して
置くわけにはいかない。放置すれば未曽有の大惨事を招くことは明白だ。
日本としても犠牲者は出したくなかった。
尖閣諸島、北西海域。
一帯の海域には、千隻余りの中国漁船が認められた。
海上を覆い尽くすように展開した船は穏やかな海に船足を止め、しばしの休息を
楽しんでいる、そんな風にも見えた。
尖閣諸島まで三十数キロ。これらの船は明らかに、尖閣諸島上陸を目指している
ものと思われる。
上空から船団の様子を覗う海上保安庁の航空機:MAJファルコン2000。
「凄い数だな。これじゃカウントするのも楽じゃない」
「ああ、そうだな。NSCからの報告では、中国空軍のカバーは無いと言うから、
安心していいぞ」
中国漁船団の周囲には、中国の海上保安庁にあたる、十数隻の中国公船が護衛と
警戒にあたっている様子だ。
しかしその中国公船でさえ、その動きを止めているようなのだ。
(なんで動かない? 何かがおかしい……何が起こってるんだ?)
上空を飛び交う、海保の航空機や報道陣を乗せた飛行機のクルーは、
一様にそう感じていた。
漁船の真上を旋回した、海保のジェット機MAJに搭乗する通信士が、
声高に報告を始めた。
「中国漁船はこれまでの目視で、千隻に及ぶものと思われます。
なお中国公船は十隻が確認されています。
現在、全ての船が魚釣島北方三十キロ海域、領海外で留まっています。
このまま監視を続け随時、動静を報告します」
尖閣諸島の領海内では、海上保安庁の艦船が集結し、上陸を阻止すべく待機している。
海はまだ穏やかだったが、南半球の熱帯では突如発生した台風が巨大化し、
その速度を早めていて今後東シナ海が、徐々に荒れ模様になることは必至と
予想されていた。
しかし漁船団が海域に留まっていると言ったものの、その様子は明らかにおかしかった。
千隻の船が波に揺られ、海域に漂っている、そんな風にしか見えなかったのだ。
◆
同時刻。
首相官邸内、『NSC/国家安全保障会議』特別会議室。
そこには石葉首相をはじめ、関係閣僚と防衛省を中心としたスタッフが集まっていた。
秘密保護法の関連法案が成立しその後、それとセットのようにNSCが創設される
ことになった。それ以来、始めて生じた国家の危機的状況だ。参集した関係者の顔には、
一様に緊張の表情が見て取れる。
明かりが落とされた会議室。
長方形に近い丸テーブルの前面には、大きなモニターが掛けられていた。
モニターには尖閣沖に浮かぶ、中国漁船の映像が映っている。
二分割された映像は、上空からのものと、至近の海上からの二つのものがあった。
上空からの映像には、海に漂う漁船がアップになり、人の姿まで確認できる。
石葉首相がモニターを見つめながら、隣に座る防衛省のスタッフと思われる男に
問いかけた。
「キンチョールと言ったっけ、あれは? 君たちが放った、モスキートロボットの
情報通りだったじゃないか。『蚊』型ロボット等と言う日本の微細技術とは、
恐ろしいものだな」
防衛軍の制服を着た男、大町二佐が苦笑いをする。
「総理、冗談は勘弁して下さい。キンチョーですよ、キンチョー。
まぁ似たようなもんですが」
『キンチョー』は七ミリサイズの蚊型ロボットで、昆虫の動態研究によって
もたらされたものだった。
このマイクロマシンのモデルとなったのが『蚊』で、日本の技術は蚊のレベルまでの
微細化に成功していた。
潰されると血が出るという、凝った造りの優れものだ。
それは民生品から無断転用され、諜報用の技術として開発されたものだった。
石葉も笑っていた。
普段は強面だが、笑うと意外と人懐っこい顔になる。
「ははは。キンチョー、そうだったな。ところで、このNSCの防諜対策は
大丈夫なんだろうな?」
偉丈夫で、いかにも軍人という姿の大町二佐が胸を張る。
「どうぞ、その辺のことはご心配なく。情報管理には万全を期しております。
NSCの人間に行動の自由はありません。内部にいる全ての人間は監視つきですから、
情報漏えいなど、心配ご無用です」
秘密保護法、石葉が求めて出来た法律とはいえ自身が常時監視されているというのは、気持ちの良い話ではない。
首相が一瞬『いやな顔』をして、モニターに目を移す。
「この海上からの映像は、例のカブトの映像かね?」
「仰るとおりです。偵察用のカブトを十機ほど流してあります」
大町の説明に、石葉は更に問いかける。
「この漂流している中国漁船は、すべてカブトによる攻撃の結果なんだろうな?」
「はい、カブトはほぼ完ぺきに機能しました。千隻の船を航行不能にするなど、
前代未聞の威力です。結果が確認できましたので現在、全て母船に回収すべく
行動中です」
「ほぼ、と言うことは全部では無いと言うことか?」
「はい、十数隻の船には手を出していません。これは保安庁の巡視船に対応して
もらいます。完全と言う形を作る必要はないかと」
首相が全員を見まわし、余裕の表情で話し出す。
「これが去年だったら、大変なことになっていたな」
大町も笑いながら応える
「そうですね、昨年の大震災発生中にこのことが重なったら、とんでもない事態に
なっていたかもしれません。まぁ去年の中国は大変な国内問題を抱えていたので、
そんな余力はありませんでしたがね。 不幸中の幸いと言えます」
石葉首相は、顔の表情を引き締め、
「それにしても中国の反応がどうなるか、それが問題だな。メンツ丸つぶれだから、
なにを言ってくるか判らんぞ。
三日後には予想外の台風がくると言うじゃないか。
予定通り中国船員の救助には、全力で対応してくれ」
漁船や中国公船の動力を止めることには成功したものの、そのまま放置して
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