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第七部
第50話「幼馴染の魅力を、私は正確に捉えられない」
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「──もしかしてなんだけど、凪宮君って結構有名人だったりする?」
時刻はお昼休憩の真っ只中。
賑やかな教室の一スペースで、私は以前約束した通りに佐倉美穂さんとお昼を取っていた。
晴斗……幼馴染である彼と食事しないのは、実に久しぶりのことだった。
けれどこれはこれで楽しい。
何気ない話をしながら箸を進めて、お弁当のおかずの交換っこもして。憧れだった友達とのひととき。こういうのも、悪くないと思っていた。
そんな矢先、不意を衝く形で佐倉さんにそんなことを訊かれた。
「なななな、なんで、そんなこと……っ!!」
あまりにも突拍子もない質問に動揺が隠せなかった。
私の反応を見た佐倉さんは眉を下げ困った様子を浮かべ、そしてくすっと嘲笑した。
「そんなに動揺しますかね~?」
「だ、だって……!! お、幼馴染のこと、いきなりそんな風に訊ねられたら、そりゃ動揺するよ……。でも、何でそんなことを?」
佐倉さんが晴斗のことについて興味津々なのもそうだがそれは一旦置いておき──問題なのは、どうしてその話題を掘り下げたのか。
彼は突発的な容姿はしていないものの、程々の風貌は兼ね備えている。
雑誌とかで取り上げられるような感じではないものの、彼が突出した性格をしていないことや、同じ読書仲間(晴斗にとってはその他大勢の1人)などに人気が高かったりする。
何故そう言い切れるか。決まっている──過去にそういう事例があったから。
それに、才色兼備と勝手に思われている私よりも頭がいい。……認めるけど、これは決して敗北の意を表明したわけじゃないから!
……とにかく、そういう事例がある以上確かめることは大切なのである。
「えっとね。さっきお手洗いに行ったときなんだけど。そのときにね、偶々近くにいた女子に訊かれたんだよね。『私のクラスに凪宮君って子いませんか?』って」
「…………」
「それで『いるけど』って答えたの。そしたら『凪宮君に、カノジョとかっていませんか?』って、もじもじしながら訊いてきたんだよね。……これはもしかして? って思って訊いてみたってわけ!」
「……………………」
「脈アリ……とか思ってる?」
「な、な、ななななななな────っ!!」
佐倉さんからの不意打ちを喰らい、思わず席を勢いよく立ち上がってしまう。がやがやとしていた空気が一気に冷め、クラスに残る全員が私に視線を向けていた。
クラス内から「何事?」とか「えっ? 凪宮君って誰?」とか、四方八方から感じる視線がそう語っているように思えてならない。
ぐ、ぐぬぬ……これは、さすがに恥ずい! 完全に勢いに任せて立ち上がってしまったけれど、元々の私のキャラはそんなんじゃない。
周りに気配りができ、容姿端麗の美少女。──少なくとも、学校の奴らは私を“そういう目”で評価している。私にとっても都合がいい解釈だった。だから利用してきた。……それを、自ら手放すようなことは絶対したくない!
周りからの威圧ある視線を背中越しからもろに喰らった私は、その場で弁明を何もせず、大人しく椅子に着席した。
「(ご、ごめん! 変なこと訊いて……)」
「い、いえ……」
佐倉さんはそんな私を見て、申し訳なさそうに両手を合わせた。
まぁ、元の原因は佐倉さんでしょうけど、私だって何も碌でなしじゃない。絶頂になってしまった感情を殺しきれなかった私のせいでもある。だからこのことは、佐倉さんだけに責任を押し付けることはない。
なので今回は、お互い様ということでカタがついた。
「前から気になってたけどさ、渚ちゃんって凪宮君のどこが好きなの? 好きになったからには、何かしら理由があるんでしょ?」
佐倉さんは小声で、私に聞こえる程度の声量で訊ねてきた。
私への配慮もあるだろうけど、1番の理由は──私が“根暗ぼっち”で“影役”みたいなラノベマニアである晴斗のことが好きなのだと、クラスメイトに知られないようにするためだろう。
でなければ、私への目線だけでなく、無実な晴斗にまで危害が及ぶ。……こういうところ、本っ当に世間は恐ろしい。
「どこって言われても……。うーーん……ピンポイントでこれっていうのは、率直には浮かばないかも」
「ほえぇ……意外」
「そう、なの?」
「だって『好き』って告白したんでしょ? だったら、好きになった根拠っていうのがあるもんじゃないの?」
そっか。佐倉さん藤崎君の幼馴染兼恋人……だったっけ。
唐突に突きつけられたあの日は、結構な衝撃シーンだった気がするけど……。
「……それじゃあ、佐倉さんは藤崎君を好きになったきっかけがあるの?」
「私? そりゃああるよ。そうだなぁ、気配りができるところとか。友達が多いところとか。後、何気に器用だったりするんだよね!」
「……へぇ。ちょっと意外かも」
「あ、でも家事とかは別だから。あいつ、料理ダメダメだからね?」
「わぁお……」
「ま、それを差し引いてもいいところの方が多いから困るんだよね。……ああいうのに一瞬でも惚れるとさ、後戻りとか出来ないよ。尚且つ幼馴染で、ずっと隣に居ればさ」
頬杖をつきながらも、佐倉さんの意見は藤崎君の魅力を、彼女の見解によって全てが表現されていたように感じた。
……そっか。これが、両想いってやつなのかな。
「──それで、だ。私の意見を参考にして、凪宮君のことを説明出来ますでしょうか?」
「そ、それわぁぁ……」
「ダメだこりゃ……」
「……すみません」
佐倉さんに苦笑いをされダメ出しを喰らった私は慌てて両手で顔を覆い隠す。
好きになったきっかけもわからないようじゃ、告白をするときどうすれば──って! その点についてはもうアウトじゃん!
……もう一度告白する、とか? でもそれをするのは、ちょっと勇気要るなぁ。
たとえ諦めきれずに告白をして、それを受け入れてくれるのか。……一度は降られた身。何度だって挑戦したいけど、それは無謀にも近い賭け。
──彼が受け入れてくれる保証は、どこにもない。
時刻はお昼休憩の真っ只中。
賑やかな教室の一スペースで、私は以前約束した通りに佐倉美穂さんとお昼を取っていた。
晴斗……幼馴染である彼と食事しないのは、実に久しぶりのことだった。
けれどこれはこれで楽しい。
何気ない話をしながら箸を進めて、お弁当のおかずの交換っこもして。憧れだった友達とのひととき。こういうのも、悪くないと思っていた。
そんな矢先、不意を衝く形で佐倉さんにそんなことを訊かれた。
「なななな、なんで、そんなこと……っ!!」
あまりにも突拍子もない質問に動揺が隠せなかった。
私の反応を見た佐倉さんは眉を下げ困った様子を浮かべ、そしてくすっと嘲笑した。
「そんなに動揺しますかね~?」
「だ、だって……!! お、幼馴染のこと、いきなりそんな風に訊ねられたら、そりゃ動揺するよ……。でも、何でそんなことを?」
佐倉さんが晴斗のことについて興味津々なのもそうだがそれは一旦置いておき──問題なのは、どうしてその話題を掘り下げたのか。
彼は突発的な容姿はしていないものの、程々の風貌は兼ね備えている。
雑誌とかで取り上げられるような感じではないものの、彼が突出した性格をしていないことや、同じ読書仲間(晴斗にとってはその他大勢の1人)などに人気が高かったりする。
何故そう言い切れるか。決まっている──過去にそういう事例があったから。
それに、才色兼備と勝手に思われている私よりも頭がいい。……認めるけど、これは決して敗北の意を表明したわけじゃないから!
……とにかく、そういう事例がある以上確かめることは大切なのである。
「えっとね。さっきお手洗いに行ったときなんだけど。そのときにね、偶々近くにいた女子に訊かれたんだよね。『私のクラスに凪宮君って子いませんか?』って」
「…………」
「それで『いるけど』って答えたの。そしたら『凪宮君に、カノジョとかっていませんか?』って、もじもじしながら訊いてきたんだよね。……これはもしかして? って思って訊いてみたってわけ!」
「……………………」
「脈アリ……とか思ってる?」
「な、な、ななななななな────っ!!」
佐倉さんからの不意打ちを喰らい、思わず席を勢いよく立ち上がってしまう。がやがやとしていた空気が一気に冷め、クラスに残る全員が私に視線を向けていた。
クラス内から「何事?」とか「えっ? 凪宮君って誰?」とか、四方八方から感じる視線がそう語っているように思えてならない。
ぐ、ぐぬぬ……これは、さすがに恥ずい! 完全に勢いに任せて立ち上がってしまったけれど、元々の私のキャラはそんなんじゃない。
周りに気配りができ、容姿端麗の美少女。──少なくとも、学校の奴らは私を“そういう目”で評価している。私にとっても都合がいい解釈だった。だから利用してきた。……それを、自ら手放すようなことは絶対したくない!
周りからの威圧ある視線を背中越しからもろに喰らった私は、その場で弁明を何もせず、大人しく椅子に着席した。
「(ご、ごめん! 変なこと訊いて……)」
「い、いえ……」
佐倉さんはそんな私を見て、申し訳なさそうに両手を合わせた。
まぁ、元の原因は佐倉さんでしょうけど、私だって何も碌でなしじゃない。絶頂になってしまった感情を殺しきれなかった私のせいでもある。だからこのことは、佐倉さんだけに責任を押し付けることはない。
なので今回は、お互い様ということでカタがついた。
「前から気になってたけどさ、渚ちゃんって凪宮君のどこが好きなの? 好きになったからには、何かしら理由があるんでしょ?」
佐倉さんは小声で、私に聞こえる程度の声量で訊ねてきた。
私への配慮もあるだろうけど、1番の理由は──私が“根暗ぼっち”で“影役”みたいなラノベマニアである晴斗のことが好きなのだと、クラスメイトに知られないようにするためだろう。
でなければ、私への目線だけでなく、無実な晴斗にまで危害が及ぶ。……こういうところ、本っ当に世間は恐ろしい。
「どこって言われても……。うーーん……ピンポイントでこれっていうのは、率直には浮かばないかも」
「ほえぇ……意外」
「そう、なの?」
「だって『好き』って告白したんでしょ? だったら、好きになった根拠っていうのがあるもんじゃないの?」
そっか。佐倉さん藤崎君の幼馴染兼恋人……だったっけ。
唐突に突きつけられたあの日は、結構な衝撃シーンだった気がするけど……。
「……それじゃあ、佐倉さんは藤崎君を好きになったきっかけがあるの?」
「私? そりゃああるよ。そうだなぁ、気配りができるところとか。友達が多いところとか。後、何気に器用だったりするんだよね!」
「……へぇ。ちょっと意外かも」
「あ、でも家事とかは別だから。あいつ、料理ダメダメだからね?」
「わぁお……」
「ま、それを差し引いてもいいところの方が多いから困るんだよね。……ああいうのに一瞬でも惚れるとさ、後戻りとか出来ないよ。尚且つ幼馴染で、ずっと隣に居ればさ」
頬杖をつきながらも、佐倉さんの意見は藤崎君の魅力を、彼女の見解によって全てが表現されていたように感じた。
……そっか。これが、両想いってやつなのかな。
「──それで、だ。私の意見を参考にして、凪宮君のことを説明出来ますでしょうか?」
「そ、それわぁぁ……」
「ダメだこりゃ……」
「……すみません」
佐倉さんに苦笑いをされダメ出しを喰らった私は慌てて両手で顔を覆い隠す。
好きになったきっかけもわからないようじゃ、告白をするときどうすれば──って! その点についてはもうアウトじゃん!
……もう一度告白する、とか? でもそれをするのは、ちょっと勇気要るなぁ。
たとえ諦めきれずに告白をして、それを受け入れてくれるのか。……一度は降られた身。何度だって挑戦したいけど、それは無謀にも近い賭け。
──彼が受け入れてくれる保証は、どこにもない。
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