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緋色の一閃
一・五
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*
いやだな。
そう思いながら女は夜道を歩いていた。
残業をしてから電車に乗って、帰っていたらもう夜中になってしまっていた。
連日の遅い帰宅で疲れていたから今日はさっさと帰ろうと思った。
コンビニに寄るのさえ気怠い。たしか冷蔵庫に残っている食材があるはず、と頭の中で思い描きながら歩く。
ざわざわと木の葉が揺れる。
風が吹いてきた。
花冷えというのだろうか。春になっても夜はまだ寒い日が続いている。
薄手のコートの前を無意識に合わせた。
カツカツ。カツカツ。
自分が履いているハイヒールの音が夜道に響く。
しばらくしておかしい、と思った。
駅を出たときから何か視線を感じるのだ。
いま、背後から足音が聞こえた気がする。気のせいだろうか。
きっと風の音だ。そう無視を決めこんで先を急ぐことにした。
まだ自宅までは半分ほどの道のりだ。
風がふと止んだ。
トン、という音が聞こえた気がして思わず立ち止まった。やはり気のせいじゃないのか。
走ってこの場から逃げるか、気がつかなかったふりをして歩き続けるか。
それでも気づかなかったふりをすることはできないと思った。
もしかしたら自分の空耳かもしれない。いや、きっとそうに違いない。
見てみれば分かるはずだ。
女は勢いよく振り向いた。
夜の暗い道が続いているだけで誰の姿もない。
ほっとして前を向いた瞬間、何かが掴み掛かってきた。
悲鳴をあげる暇もない。黒い影が何かを振り上げる。銀色に鈍く光る刃物に足がすくむ。
ザクリ、と何かが切れた音がした。不審な人影は女を突き飛ばし逃げていく。
女はあまりの出来事に震えながらペタペタと自分の体を触った。切られたわけではないようだ。どこも痛くない。
ハッとした。
持っていた肩かけ鞄が道に転がっている。持ち手が切られていた。混乱したまま持ち上げて中身を見てみると財布が消えていた。
一瞬の出来事だった。
いやだな。
そう思いながら女は夜道を歩いていた。
残業をしてから電車に乗って、帰っていたらもう夜中になってしまっていた。
連日の遅い帰宅で疲れていたから今日はさっさと帰ろうと思った。
コンビニに寄るのさえ気怠い。たしか冷蔵庫に残っている食材があるはず、と頭の中で思い描きながら歩く。
ざわざわと木の葉が揺れる。
風が吹いてきた。
花冷えというのだろうか。春になっても夜はまだ寒い日が続いている。
薄手のコートの前を無意識に合わせた。
カツカツ。カツカツ。
自分が履いているハイヒールの音が夜道に響く。
しばらくしておかしい、と思った。
駅を出たときから何か視線を感じるのだ。
いま、背後から足音が聞こえた気がする。気のせいだろうか。
きっと風の音だ。そう無視を決めこんで先を急ぐことにした。
まだ自宅までは半分ほどの道のりだ。
風がふと止んだ。
トン、という音が聞こえた気がして思わず立ち止まった。やはり気のせいじゃないのか。
走ってこの場から逃げるか、気がつかなかったふりをして歩き続けるか。
それでも気づかなかったふりをすることはできないと思った。
もしかしたら自分の空耳かもしれない。いや、きっとそうに違いない。
見てみれば分かるはずだ。
女は勢いよく振り向いた。
夜の暗い道が続いているだけで誰の姿もない。
ほっとして前を向いた瞬間、何かが掴み掛かってきた。
悲鳴をあげる暇もない。黒い影が何かを振り上げる。銀色に鈍く光る刃物に足がすくむ。
ザクリ、と何かが切れた音がした。不審な人影は女を突き飛ばし逃げていく。
女はあまりの出来事に震えながらペタペタと自分の体を触った。切られたわけではないようだ。どこも痛くない。
ハッとした。
持っていた肩かけ鞄が道に転がっている。持ち手が切られていた。混乱したまま持ち上げて中身を見てみると財布が消えていた。
一瞬の出来事だった。
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