3 / 13
緋色の一閃
一・五
しおりを挟む
*
いやだな。
そう思いながら女は夜道を歩いていた。
残業をしてから電車に乗って、帰っていたらもう夜中になってしまっていた。
連日の遅い帰宅で疲れていたから今日はさっさと帰ろうと思った。
コンビニに寄るのさえ気怠い。たしか冷蔵庫に残っている食材があるはず、と頭の中で思い描きながら歩く。
ざわざわと木の葉が揺れる。
風が吹いてきた。
花冷えというのだろうか。春になっても夜はまだ寒い日が続いている。
薄手のコートの前を無意識に合わせた。
カツカツ。カツカツ。
自分が履いているハイヒールの音が夜道に響く。
しばらくしておかしい、と思った。
駅を出たときから何か視線を感じるのだ。
いま、背後から足音が聞こえた気がする。気のせいだろうか。
きっと風の音だ。そう無視を決めこんで先を急ぐことにした。
まだ自宅までは半分ほどの道のりだ。
風がふと止んだ。
トン、という音が聞こえた気がして思わず立ち止まった。やはり気のせいじゃないのか。
走ってこの場から逃げるか、気がつかなかったふりをして歩き続けるか。
それでも気づかなかったふりをすることはできないと思った。
もしかしたら自分の空耳かもしれない。いや、きっとそうに違いない。
見てみれば分かるはずだ。
女は勢いよく振り向いた。
夜の暗い道が続いているだけで誰の姿もない。
ほっとして前を向いた瞬間、何かが掴み掛かってきた。
悲鳴をあげる暇もない。黒い影が何かを振り上げる。銀色に鈍く光る刃物に足がすくむ。
ザクリ、と何かが切れた音がした。不審な人影は女を突き飛ばし逃げていく。
女はあまりの出来事に震えながらペタペタと自分の体を触った。切られたわけではないようだ。どこも痛くない。
ハッとした。
持っていた肩かけ鞄が道に転がっている。持ち手が切られていた。混乱したまま持ち上げて中身を見てみると財布が消えていた。
一瞬の出来事だった。
いやだな。
そう思いながら女は夜道を歩いていた。
残業をしてから電車に乗って、帰っていたらもう夜中になってしまっていた。
連日の遅い帰宅で疲れていたから今日はさっさと帰ろうと思った。
コンビニに寄るのさえ気怠い。たしか冷蔵庫に残っている食材があるはず、と頭の中で思い描きながら歩く。
ざわざわと木の葉が揺れる。
風が吹いてきた。
花冷えというのだろうか。春になっても夜はまだ寒い日が続いている。
薄手のコートの前を無意識に合わせた。
カツカツ。カツカツ。
自分が履いているハイヒールの音が夜道に響く。
しばらくしておかしい、と思った。
駅を出たときから何か視線を感じるのだ。
いま、背後から足音が聞こえた気がする。気のせいだろうか。
きっと風の音だ。そう無視を決めこんで先を急ぐことにした。
まだ自宅までは半分ほどの道のりだ。
風がふと止んだ。
トン、という音が聞こえた気がして思わず立ち止まった。やはり気のせいじゃないのか。
走ってこの場から逃げるか、気がつかなかったふりをして歩き続けるか。
それでも気づかなかったふりをすることはできないと思った。
もしかしたら自分の空耳かもしれない。いや、きっとそうに違いない。
見てみれば分かるはずだ。
女は勢いよく振り向いた。
夜の暗い道が続いているだけで誰の姿もない。
ほっとして前を向いた瞬間、何かが掴み掛かってきた。
悲鳴をあげる暇もない。黒い影が何かを振り上げる。銀色に鈍く光る刃物に足がすくむ。
ザクリ、と何かが切れた音がした。不審な人影は女を突き飛ばし逃げていく。
女はあまりの出来事に震えながらペタペタと自分の体を触った。切られたわけではないようだ。どこも痛くない。
ハッとした。
持っていた肩かけ鞄が道に転がっている。持ち手が切られていた。混乱したまま持ち上げて中身を見てみると財布が消えていた。
一瞬の出来事だった。
0
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
睿国怪奇伝〜オカルトマニアの皇妃様は怪異がお好き〜
猫とろ
キャラ文芸
大国。睿(えい)国。 先帝が急逝したため、二十五歳の若さで皇帝の玉座に座ることになった俊朗(ジュンラン)。
その妻も政略結婚で選ばれた幽麗(ユウリー)十八歳。 そんな二人は皇帝はリアリスト。皇妃はオカルトマニアだった。
まるで正反対の二人だが、お互いに政略結婚と割り切っている。
そんなとき、街にキョンシーが出たと言う噂が広がる。
「陛下キョンシーを捕まえたいです」
「幽麗。キョンシーの存在は俺は認めはしない」
幽麗の言葉を真っ向否定する俊朗帝。
だが、キョンシーだけではなく、街全体に何か怪しい怪異の噂が──。 俊朗帝と幽麗妃。二人は怪異を払う為に協力するが果たして……。
皇帝夫婦×中華ミステリーです!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる