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緋色の一閃
三
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妖怪。
困惑しながらアキラは少し考えてから言う。
「いたらいいな、とは思いますけれど。まだ出会ったことはありませんし望み薄ですね」
ハハ、と笑う。いきなりどういう冗談なのだろうか。
「妖怪は好きですけど。俺、大学で研究していることもそっち方面なんです。いろんな地域の妖怪文化を調査していて……」
「へえ」
双葉の目がスッと細くなった。
「妖怪はいないと思っているのに妖怪について研究しているというわけかい。奇特だね」
「いや、だから厳密にいるかどうかは」
「妖怪は存在する」
重吾がアキラの言葉を遮ってきっぱりと言う。
断言する口調に疑問が湧く。
「なぜですか?」
「だって」
双葉がクスリと笑う。
「私と重吾はまさに今話している妖怪だからね」
「は……?」
いきなりの言葉にアキラは混乱する。
「まあ、ほとんどの妖怪は人に紛れて人に近い姿で存在している。だから分からないのも無理はないけれど」
「ちょ、ちょっと待ってください」
理解が追いつかない。
「重吾さんと双葉さんが妖怪……。えっと……」
二人の間で視線を交差させる。
混乱しながら思わず言った。
「さ、触らせてもらってもいいですか……?」
場の空気が凍る。
アキラはハッと我に返った。言葉だけを聞くと変態だ。
「いや!違います。これはそういうことじゃなくて!」
「重吾。触らせてあげたらどうだい?」
「俺は犬猫じゃない。悪ノリはやめろ」
「そうだね。アキラくん、何か質問はある?」
聞きたいことはいろいろあるが、アキラはまず家に来たとき感じた疑問を聞いた。
「えっと……。まずお二人はどんな関係で」
ふむと双葉は手を顎に当てる。
「どこから話したものかね……。関係、か」
重吾をチラリと見てから言う。
「まず重吾は私の養子だよ。結構前からいっしょに暮らしている」
「よ、養子……」
重吾と双葉は兄弟くらいの歳の差に見えたが双葉さんの年齢が怪しくなったな、とアキラは思う。本当は何歳なのだろう。
「初めて会ったときはこーんなに小さくて可愛くてね」
双葉は座高より少し下を示す。
薄々前から思ったのだが双葉は重吾に対して親バカではないだろうか。いや、仮親バカか。
「……双葉」
険しい顔で重吾は言う。もしかして小さい頃の話をされて照れているのか。
「話がそれたね」
双葉はコホンと咳払いする。
「私は半妖。重吾は君たちにとってはクォーターというのかな?四分の一が妖怪の血だ」
四分の一。
頭の中で円グラフを浮かべて四分の一を塗りつぶす。パーセンテージで表すなら二十五パーセントだなと思った。
「なんか格好良いですね」
思わずアキラがそう言うと探るように双葉は目を細めた。
「君は怖いとは思わないのかい?」
「こわい?」
「ほら昔話でよくあるだろう?妖怪というのは怖がられたりときには忌み嫌われたりするものだ」
妖怪は人間とは違う。
だから、分からない。
分からないものは怖い。
「自分とは違うものを怖いと思う。人間にとっては当たり前の感情さ」
双葉の表情は意地悪く笑っているようだった。
こんなとき、どう返すのが正解なのだろう。
分からないけれど何か言わなきゃいけない。言いたいことは……。
頭の中で言葉を噛み砕きながら、アキラは自分の考えを言う。
「人間とは違うということについては俺自身、よく分かっていないと思っています。妖怪のお二人に対して妖怪のことを研究しているなんて……失礼ですよね。軽口叩いたのは謝ります。でも、俺は」
何となく頭を上げられなくて徐々に俯きながらアキラは言う。
「どんなものでもやっぱり妖怪が好きです。重吾さんや双葉さんと仲良くしたいです」
沈黙が流れる。おそるおそる顔を上げると重吾と双葉はなぜか互いに逆方向に顔を背けていた。
「こいつは……」
「この子は……」
再び場が沈黙する。
「あの……」
「いいでしょう」
双葉が膝を叩いた。
「その言葉、口だけじゃないことを証明してもらおう。ねえ、重吾?」
「何で俺に聞くんだよ」
「とりあえず君には先にこの現実を受け入れてもらわないと話にならないからね。ここまでは前置きだ」
長かったが本題はまだなのか。
アキラは神妙な気持ちで聞く。
双葉は言った。
「端的に言うと、アキラくんには妖怪絡みの事件で重吾の助手をしてもらいたい」
「事件、ですか」
「そうだよ。アキラくん、私たちはね自分の立場を利用して人間と妖怪の橋渡しをしているんだ。両者が安全に生活しやすい関係を保っていけるようにね」
はあ、と重吾はため息をつく。
「……出来ればお前には関わらせたくねえんだけどな。こっちも人手が足りないってのは本音だ」
アキラを目を真正面から見て言う。
「頼めるか?」
「はい、俺に出来ることがあれば」
「威勢がいいな」
重吾は口の端を上げる。
もしかして今笑ったのか?とアキラが確認する前にそれはかき消えていたが。
「最近この近辺に妖怪の鎌鼬が出るという噂が広まっている」
重吾はそう言った。
「人が夜道で切りつけられる事件が多発しているんだ」
「切られる……。それで鎌鼬ですか」
先ほど大学で耳にした話だな、と思う。
「ときにアキラくん。君は鎌鼬という妖怪についてどんなことを知っている?」
「鎌鼬」
そう言ってアキラは頭の中の情報を探る。
「鎌鼬はつむじ風と同時に現れて人を切りつける妖怪ですよね。切られた傷はけっこう大きいけれど血は出ていないから不可思議だと言われています。妖怪の姿として描かれている絵ではそれこそイタチの手が鎌になっているそのままの形で描かれていますね。傷がすぐに塞がっているのは鎌鼬は三匹いて一匹が人を倒して一匹が切りつけ、最後の一匹が薬を塗るから傷がすぐに塞がるとかいう説があったような……」
ペラペラと話すアキラを二人はジッと見つめている。
「……あの何かまずいこと言ったでしょうか」
「いや、別に」
「同級生にはいてほしくないタイプだと思ったね」
「それひどくないですか?ていうかどういうことですか」
「とにかくね」
双葉が軌道修正する。
「鎌鼬の認識としてはそれで間違いないよ。事件の話をするからよく聞いておくれ」
重吾、と目配せする。
「分かっているだけでも現在の被害者は三人。一人は会社員の女で夜道に襲われてバッグの持ち手を切られた。幸い本人に怪我はなかったが財布を持ち去られていたことからこれは強盗目的だと思われる。もう一人、女……学生が同様の手口で襲われている。あと一人は動機は分からないが……」
そこで一旦区切って重吾は目を不機嫌そうに細める。普段の強面に一段と迫力が増して見えた。
「刃物で切りつけられた傷で亡くなっていたそうだ」
しばらく考えて授業でするようにアキラは挙手する。
「えっと、一ついいですか?」
「どうぞ、アキラくん」
双葉が懐から扇子を取り出してアキラを差し示す。
「えっと、今の話で鎌鼬ということですがつまり凶器に使われた刃物が鎌でイコール鎌鼬ということですか?安直というか話が繋がっていないような……」
アキラの疑問に重吾は冷静な口調で答えた。
「お前の疑問も最もだが、どの事件の犯人もあることを口走っている」
「あること?」
重吾は重々しい、または苦々しいだろうか。
そんな表情で言った。
「本人が名乗ったそうだ。自分は鎌鼬だと」
困惑しながらアキラは少し考えてから言う。
「いたらいいな、とは思いますけれど。まだ出会ったことはありませんし望み薄ですね」
ハハ、と笑う。いきなりどういう冗談なのだろうか。
「妖怪は好きですけど。俺、大学で研究していることもそっち方面なんです。いろんな地域の妖怪文化を調査していて……」
「へえ」
双葉の目がスッと細くなった。
「妖怪はいないと思っているのに妖怪について研究しているというわけかい。奇特だね」
「いや、だから厳密にいるかどうかは」
「妖怪は存在する」
重吾がアキラの言葉を遮ってきっぱりと言う。
断言する口調に疑問が湧く。
「なぜですか?」
「だって」
双葉がクスリと笑う。
「私と重吾はまさに今話している妖怪だからね」
「は……?」
いきなりの言葉にアキラは混乱する。
「まあ、ほとんどの妖怪は人に紛れて人に近い姿で存在している。だから分からないのも無理はないけれど」
「ちょ、ちょっと待ってください」
理解が追いつかない。
「重吾さんと双葉さんが妖怪……。えっと……」
二人の間で視線を交差させる。
混乱しながら思わず言った。
「さ、触らせてもらってもいいですか……?」
場の空気が凍る。
アキラはハッと我に返った。言葉だけを聞くと変態だ。
「いや!違います。これはそういうことじゃなくて!」
「重吾。触らせてあげたらどうだい?」
「俺は犬猫じゃない。悪ノリはやめろ」
「そうだね。アキラくん、何か質問はある?」
聞きたいことはいろいろあるが、アキラはまず家に来たとき感じた疑問を聞いた。
「えっと……。まずお二人はどんな関係で」
ふむと双葉は手を顎に当てる。
「どこから話したものかね……。関係、か」
重吾をチラリと見てから言う。
「まず重吾は私の養子だよ。結構前からいっしょに暮らしている」
「よ、養子……」
重吾と双葉は兄弟くらいの歳の差に見えたが双葉さんの年齢が怪しくなったな、とアキラは思う。本当は何歳なのだろう。
「初めて会ったときはこーんなに小さくて可愛くてね」
双葉は座高より少し下を示す。
薄々前から思ったのだが双葉は重吾に対して親バカではないだろうか。いや、仮親バカか。
「……双葉」
険しい顔で重吾は言う。もしかして小さい頃の話をされて照れているのか。
「話がそれたね」
双葉はコホンと咳払いする。
「私は半妖。重吾は君たちにとってはクォーターというのかな?四分の一が妖怪の血だ」
四分の一。
頭の中で円グラフを浮かべて四分の一を塗りつぶす。パーセンテージで表すなら二十五パーセントだなと思った。
「なんか格好良いですね」
思わずアキラがそう言うと探るように双葉は目を細めた。
「君は怖いとは思わないのかい?」
「こわい?」
「ほら昔話でよくあるだろう?妖怪というのは怖がられたりときには忌み嫌われたりするものだ」
妖怪は人間とは違う。
だから、分からない。
分からないものは怖い。
「自分とは違うものを怖いと思う。人間にとっては当たり前の感情さ」
双葉の表情は意地悪く笑っているようだった。
こんなとき、どう返すのが正解なのだろう。
分からないけれど何か言わなきゃいけない。言いたいことは……。
頭の中で言葉を噛み砕きながら、アキラは自分の考えを言う。
「人間とは違うということについては俺自身、よく分かっていないと思っています。妖怪のお二人に対して妖怪のことを研究しているなんて……失礼ですよね。軽口叩いたのは謝ります。でも、俺は」
何となく頭を上げられなくて徐々に俯きながらアキラは言う。
「どんなものでもやっぱり妖怪が好きです。重吾さんや双葉さんと仲良くしたいです」
沈黙が流れる。おそるおそる顔を上げると重吾と双葉はなぜか互いに逆方向に顔を背けていた。
「こいつは……」
「この子は……」
再び場が沈黙する。
「あの……」
「いいでしょう」
双葉が膝を叩いた。
「その言葉、口だけじゃないことを証明してもらおう。ねえ、重吾?」
「何で俺に聞くんだよ」
「とりあえず君には先にこの現実を受け入れてもらわないと話にならないからね。ここまでは前置きだ」
長かったが本題はまだなのか。
アキラは神妙な気持ちで聞く。
双葉は言った。
「端的に言うと、アキラくんには妖怪絡みの事件で重吾の助手をしてもらいたい」
「事件、ですか」
「そうだよ。アキラくん、私たちはね自分の立場を利用して人間と妖怪の橋渡しをしているんだ。両者が安全に生活しやすい関係を保っていけるようにね」
はあ、と重吾はため息をつく。
「……出来ればお前には関わらせたくねえんだけどな。こっちも人手が足りないってのは本音だ」
アキラを目を真正面から見て言う。
「頼めるか?」
「はい、俺に出来ることがあれば」
「威勢がいいな」
重吾は口の端を上げる。
もしかして今笑ったのか?とアキラが確認する前にそれはかき消えていたが。
「最近この近辺に妖怪の鎌鼬が出るという噂が広まっている」
重吾はそう言った。
「人が夜道で切りつけられる事件が多発しているんだ」
「切られる……。それで鎌鼬ですか」
先ほど大学で耳にした話だな、と思う。
「ときにアキラくん。君は鎌鼬という妖怪についてどんなことを知っている?」
「鎌鼬」
そう言ってアキラは頭の中の情報を探る。
「鎌鼬はつむじ風と同時に現れて人を切りつける妖怪ですよね。切られた傷はけっこう大きいけれど血は出ていないから不可思議だと言われています。妖怪の姿として描かれている絵ではそれこそイタチの手が鎌になっているそのままの形で描かれていますね。傷がすぐに塞がっているのは鎌鼬は三匹いて一匹が人を倒して一匹が切りつけ、最後の一匹が薬を塗るから傷がすぐに塞がるとかいう説があったような……」
ペラペラと話すアキラを二人はジッと見つめている。
「……あの何かまずいこと言ったでしょうか」
「いや、別に」
「同級生にはいてほしくないタイプだと思ったね」
「それひどくないですか?ていうかどういうことですか」
「とにかくね」
双葉が軌道修正する。
「鎌鼬の認識としてはそれで間違いないよ。事件の話をするからよく聞いておくれ」
重吾、と目配せする。
「分かっているだけでも現在の被害者は三人。一人は会社員の女で夜道に襲われてバッグの持ち手を切られた。幸い本人に怪我はなかったが財布を持ち去られていたことからこれは強盗目的だと思われる。もう一人、女……学生が同様の手口で襲われている。あと一人は動機は分からないが……」
そこで一旦区切って重吾は目を不機嫌そうに細める。普段の強面に一段と迫力が増して見えた。
「刃物で切りつけられた傷で亡くなっていたそうだ」
しばらく考えて授業でするようにアキラは挙手する。
「えっと、一ついいですか?」
「どうぞ、アキラくん」
双葉が懐から扇子を取り出してアキラを差し示す。
「えっと、今の話で鎌鼬ということですがつまり凶器に使われた刃物が鎌でイコール鎌鼬ということですか?安直というか話が繋がっていないような……」
アキラの疑問に重吾は冷静な口調で答えた。
「お前の疑問も最もだが、どの事件の犯人もあることを口走っている」
「あること?」
重吾は重々しい、または苦々しいだろうか。
そんな表情で言った。
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