有明の鬼人

緋色の一閃

七・五

　世の中は不公平だ。
　君もそう思うよね。
　人は生まれる場所も親も選べない。
　つまり、この世に生まれ落ちたときから環境はある程度決められているわけだ。
　本人の意思に関係なくね。
　運命なんてものはないという人は多いけれど実際はどうなんだろう。
　例えば裕福な家の子に生まれたなら何不自由なく暮らせると思わないかな？
　逆に貧乏な家に生まれたらこれは大変だ。生きていくのにはお金が必要だからね。働いて少しでも生活が楽になればいいけれどそれも出来なかったら。さらなる深みにはまる。けれど、盗みを行えば罰せられる。ジレンマだよ。
　悪い行いでもやっているのは仕方のないことなのにね。

　大丈夫？
　リラックスして話してくれていいよ。
　ここには僕しかいない。
　僕だけが君の話を聞いているからね。
　みんな生きていくのに必死なんだ。
　ここで生きるっていうのはただ息をしているっていう意味じゃない。
　心から笑ってなるべく楽して生きていたい。
　そう思うのは罪じゃない。
　実際みんなそんなものだし。
　けれどそれよりもっと慎ましやかな願い。
　明日が今日より少しでもいい日になっていますようにって毎日眠る前に祈る人もいるんだ。
　毎晩、毎晩ね。
　君もその一人だろう。
　君も、生きていくのに必死なんだね。
　大人は分かってくれない。
　自分はこんなに悩んでいるのに。
　そんなものだよね。
　大人だけじゃない。
　たいていの人間は周囲のことなんて分からないしもっと言えばどうでもいいものなんだ。
　例えば遠い国で起こっている戦争のニュースに心を痛める人も目の前の困っている人には手を差し伸べない。
　関心がない。
　その代わり打算がある。
　助けて何か自分に何かメリットはあるのかと考える。あるいはただ優しい人として周りに認められたいから行動を起こす。
　その点、君は偉いよ。
　自分に近しい人を無欲に助けようとしている。
　なかなか出来ることじゃない。
　そして、それを成し遂げるだけの能力もある。
　あとはそれをどう活かすかだけ。

　君は特別なんだ。