王宮侍従テミスの、愛と欲望のサスペンスな日常

たまとら

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社交シーズンのドタバタ

2 アフロディの回想

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「貴方、綺麗ね。」

目を見張るような縦ロールに囲まれてそう言われた。
当たり前だがその目は笑っていない。
口元はお金持ちの象徴、フッサフサの羽毛で飾った扇で隠されている。

全員を見渡す。
どう見てもここでは自分が1格下。

「いえ、そんな事は御座いません。」

お約束の様に、恥じらう様にそう言ったら

「あら、謙遜なさってるわよ。」
「わたくし達を馬鹿にしているのかしら。」
「過度な遠慮は見苦しくてよ。」

次々と言葉が溢れ。
ホッホッホとその人達は嗤った。

う~ん。

ゆるいゆるい。

取り囲んで虐めるつもりだろうけど、こんなの慣れてるしなー。

とりあえずアフロディは困った様に視線を落として、黙った。

面倒くさいから逆襲しない。
この夜会は一度こっきりの最大の重要案件なのだ。

黙ったアフロディに、マウントを取ったつもりでホッホッホと彼らは消えていった。
そして、次のグループが来る。


「貴方、綺麗ね。」

アホかいな!と思う同じセリフ。

あれ?
これって知らないだけでなんかのお約束?
心の中でアフロディは頭を傾げた。

アフロディは田舎者だ。
夜会なんて出た事が無い。
ひょっとして都会ではこのセリフが合言葉とか?
それともなんかのフラグが立つのか?
そう考えたアフロディは、さっきと違う答えを発した。

「ありがとうございます♡」

全力笑顔で答えてやった。
その笑顔ビームはあちこちに反射しながら、会場を駆け巡る。
流れ弾に直撃された者が「うっ♡」と胸を押さえた。
会場の貴族達がギンギンとこっちに集中する。

取り囲んできた方々は眉を顰めた。

「はあっ‼︎遠慮もなさらないのね!」
「なんて図太い田舎者なのかしら!」
「わたくし達を馬鹿にしてらっしゃるの」

~~面倒くさぁ。

今回も正解では無かったようだ。

言っとくがアフロディにとっては牽制と虐めは慣れたもの。こんな輩は何処にでもいる。
慎ましそうに目を伏せてやり過ごしながら、情報収集させてもらった。



アフロディはド田舎のド貧乏の男爵家の三男だ。
家庭教師に勧められて、そこそこの教育をしてもらった。
その投資を回収しようと主張する父親の為に。
母親の遺した古臭い中古ドレスを自分でリメイクして、夜会に臨んでいる。



アフロディは産まれた時から綺麗な子だった。
おかげでやっかみからの虐めも多かった。
しかも変態遭遇率も高い。

畑の手伝いのおっさんとか。
雑貨屋の店番のお兄さんとか。
荷物を配達してくるおじいちゃんとか。
茂みに連れ込もうとか、部屋に押し込めようとか、うんざりするほど会った。
下手したら一番上の兄すらも、風呂に誘って来る気持ち悪さだ。

うっかり捕まったらどっちが悪いかなんて言われるがままだ。
アフロディはその卓越した頭脳で逃げ延びていた。

母親がいた時はなんとかガードしてくれた。
二男のタイナも庇ってくれた。
まぁ、父親は賭け事に夢中で子供に興味も無かったから、まだ変態では無かった。
それだけは良かったと思う。

家庭教師も中年の穏やかな人で。
ただただアフロディを褒めてくれる人だったので、それだけは感謝した。


ド貧乏の男爵家が、なんとか潜り込ませた夜会。
この夜会が一世一代の大博打なのはわかってた。
父親はアフロディが金持ちに目を留められるのを望んでいる。年寄りだろうが、妾が出席番号が付くくらい多かろうが、とにかく金持ちを。

きっとここでチャンスをモノに出来なければ、多分娼館に売られるだろう。


さっきの笑顔ビームの余波で、ゾンビのようにふらふらと寄ってくる令息達。
アフロディは美しい微笑みを浮かべる。

自分のによって、テミスの今後も決まるのだ。

肉食の目を柔らかく伏せ、すっと背筋を伸ばしたまま。
アフロディは本気の狩りを始めた。
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