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3 "しり"と意思疎通をはかる

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「俺はイースタンという。
ここは俺の屋敷の執務室だ。」

勿論、このは妙齢の令息(たぶん)。
自分の顔が武器になるのは織り込み済みだ。

イースタンは領地持ちのペフェルティ伯爵家の次男だ。
王都で王太子の護衛として勤務している。

護衛騎士は剣と体術は勿論だが、高貴な方々の謁見の場にいても浮かないようにビジュアル審査が一番厳しい。
そんな訳で、自分の顔さえ武器となる者を揃えている。
おかげで街でも王宮でもきゃー♡きゃー♡だ。

その顔を意図的にふんわりと優しくして、イースタンはゆっくりとに語りかけた。


が頬を染めた。(気がする)
ぷるぷるは相変わらずだが、恐怖よりも恥じらいのぷるぷる♡に、変化した気がする。

「君は何故ここにいたのかな?
まず、君の名前を教えてくれるかな?」

頭の片隅で、それに話しかけてる俺って、ぜってぇ変な奴に見えるだろうなぁ。と思った。

はもじもじ(たぶん)している。
ふよふよした影が伸びたり縮んだりするのを見て、
ああ、喋れないのか。と思った。
(だよね。口無いしね。)

ちょっと待ってね。
と言いながら、そうっと立ち上がる。
が逃げ出さないのを何度も確かめるように見てから、ゆっくりと机まで行くとそこに下がる呼び紐を引いた。

夜の静けさの中。
何処かでリン、リンと音がする。
すぐに微かな足音とノック音がして。
はびくりと(見た目はのごのごしてるだけだが、ほら雰囲気的に)震えた。

人差し指を口に当てて、しーと笑いながらドアに向かう。
言っとくが目は離さない。
今更逃しはしない。
一点集中でを見ている。

ドアの向こうには従者が立っていた。

「叔父上が遊びにいらっしゃった時に、子供達が使ってたウィジャボードがあっただろう。出来るだけ急いで持ってきてくれ。」

いきなりの変な指示にも訓練された従者は驚かない。
すぐに持ってきてくれた。


ウィジャボードは文字や数字が書いてある盤だ。
1年ほど前に"霊と話せる"と話題になった。
新しもの好きな叔父達は、"霊の言葉を聞く"と我が家に持ってきて遊んでた。
確かにこの屋敷は古くてボロくて幽霊が住んでいそうだ…あ、幽霊は多分、今夜見つけたよ。やっぱり住んでた。

従者が去ってもは怯えていた。
ボードをそっと床に置く。
そしてイースタンは沢山の文字とYESとNOの文字を指差した。

「俺の言葉が聞こえているね?
俺も君の言葉が聞きたいんだよ。」

イースタンの指先を見ると、は小さく頷いた。
薄ぼんやりした影がYESをそっとなぞる。
幸い影は行き先を見定める事が出来る濃さだ。

「わかってくれてありがとう。
とても嬉しいよ。わからない事があったら質問してほしい。出来たら友達になりたいんだ。」

なぁ~んてね。

でも、何よりも。
字を理解してるって事は、貴族として教育された令息だろう。
身元を探す手助けにもなるはずだ。

イースタンはわくわくと昂っていた。
こんな珍しいもの初めてだ‼︎
なんとか捕まえたい!
逃したくない‼︎

その目新しさに心は高鳴っていた。
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