【完】俺が"しり"を愛でるようになった、その訳とその記憶とその結果について

たまとら

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4 "しり"の名前

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「名前は?」

に、NOが指された。
頭が左方向に60°くらいに傾いてるようだ。
だから

「わからないの?」

と聞いたらYESを指した。
おやおや、これは記憶喪失というものか?
それとも記憶の混濁というものか?

しばらく考える。
その雰囲気に気を遣ったのか、はもじもじぷるぷると小さくなっていく。

「不便だから、名前を付けて良いかい?」

と、聞いたら食い気味にYESが来た。

名前。
"しり"ではまずいだろう。
勿論、"それ"では仲も深まれない。

イースタンはしばらく真剣に考えた。
目の前のも、ドキドキするのか身を乗り出している。(たぶんだけど。)

「レヴュト。」

ふっと出てきた。

「レヴュトはどうだろうか?」

はYESを連打した。
いや、YESをちょんちょんしてるだけだけど。
そんな訳ではレヴュトになった。

レヴュトは弟の名前だ。
生きてる方じゃなく、その下の。
母親と一緒に儚くなった。
家族全員で楽しく名前を考えたのは懐かしい思い出だ。

そして狡賢い心が、これで逃げる確率は減ったとほくそ笑んだ。

言っとくがこんな珍妙なモノ。
絶対。絶対!絶対飼いたい‼︎
イースタンの少年心がそう叫んでいた。

怖がる野良猫はぐいぐい行き過ぎたら逃げてしまう。
まずこの人は安全だと思わせて、気を許させなければならないのだ。
その為に、互いは特別だと植え付ける為に名前を沢山呼ぶ。

「レヴュト、欲しいものは無いの?」

ウィジャボードを指す、ぼんやりした指を覗き込む。
かなり近い。
心臓の音はない。呼吸音もしない。
気配はどことなく涼しい。


{イチゴ}{ブドウ} {リンゴ}
楽しそうに単語を作る。

「レヴュトは果物が好きなんだね。
ごめんね。厨房は閉まってるんだよ。
明日は用意するから、明日でいいかな。」

{YES}

しめしめ。
イースタンはほころんだ。
明日の約束ができた。
今夜逃げ出す事はないだろう。

レヴュトは誰からも話しかけて来なかったのだろう。
そりゃそうだ。この影を目にしたら、気弱な令息ならひいっと叫んで気を失いそうだ。
つまりそのくらい、不思議物件なのだ。


イースタンのわくわくが止まらない。

今やレヴュトは身を乗り出してウィジャボードに指を這わせている。
ワクワク、ルンルンと音が聞こえそうだ。

中腰なのでぼんやりと煙のような体から、尻が見える。
つるりとした尻が見える。
尻だけがはっきりと見える。
柔らかそうでぷりんとして。
でもその周りの身体はぼんやりした影だ。

たぶん頭。
たぶん肩。
たぶん手。
そんな身体なのに、なぜ尻(それもまっぱの)だけが見えるんだろう。

理性がそんな疑問にすぐ蓋をした。
今、無駄な事は考えない!



翌朝、果物を盛り上げた皿をテーブルに置いた。
レヴュトの喜びがじんじんと放出してくる。
いやぁ、消えてなくて嬉しいのは俺の方だ!


レヴュトの指がふわわわとイチゴに向かう。
影がるるると動いていく。
そのままいちごに影がすり抜けていった。

…たぶん、摘もうとしたのだと思う。
まだ自分が透けてるのをわかって無いみたいだ。
何度か影がイチゴに突っ込んでいって。
喜びは一転悲壮へと転じた。

レヴュトはぷるぷると蠢いていた。
やがてヘッドバンギングのように。
しかも反動をつけて、頭から皿に飛びついた。
(たぶん齧り付いたんだろう。)

皿をすり抜けてテーブルの下ににょほんと落ちた。

…………。

イースタンの腹筋は、今までに無い試練を味わっていた。
顔は"残念だね"を貼り付けたまま。
腹筋の麻痺が治らなかった。


楽しいじゃないか‼︎
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