【完】俺が"しり"を愛でるようになった、その訳とその記憶とその結果について

たまとら

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6 仕事にいった

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王宮を王太子専用の宮殿に向かって歩く。
いつものように甘く爽やかな香りが、辺りに漂っていた。
ユスフと護衛の交代をする。

殿下がまた吐かれたと報告を受けて、気が重くなった。

王太子殿下は鍛えた身体をされていた。
幼い頃から丈夫で、風邪一つ挽いた事が無かった。
それが春頃から時々吐かれ、怠さで寝込まれるようになった。

勿論、毒を疑った。
あらゆるものを検査しても毒は出ない。
さらに夏頃には王も寝付いていまった。

正直、俺とユスフは王妃を疑っている。
現王妃は、王太子殿下の母君が亡くなってから、隣国からいらした。
3年前には第二王子を御産みになった。
以来、貴族には"派閥"というものが出来た。
損得勘定もあって、それは徐々に根深くなって来ている。

王妃は自ら検査を言い出された。
勿論何も怪しい物は出なかった。

でも俺は。
あの貞淑そうな笑顔が、胡散臭くてたまらない。
密かに派閥を煽ってるのも知っている。

でも怪しいからと王族に手を出す事は出来ないのだ。



「おはよう御座います。今日は俺達ですから。」

ユスフが明るく挨拶する。
イースタンも元気に笑う。

殿下の不調はストレスからだと医術師が香りを処方してくれた。
その爽やかで上品な花の香りが、今日も漂っている。

殿下のカサついた頬は窶れている。
それでも笑顔を見せてくださる。
少し咳き込まれた殿下に、侍従はグラスを渡した。

従者が水差しをサイドテーブルに据える。

喉が渇くと言う殿下に、お茶よりも負担が少ないと医術師が提言したものだ。

この国は平民から貴族まで水をよく飲む。 
毒消しのハーブや香り付けのハーブを入れる。
その家その家でその配合は変わる。
イースタンの家はレモングラスやタイムを糸で縛って、水差しに沈めていた。

殿下はミントを多めに入れたさっぱりする水を好まれてよく飲んでいる。
勿論、毒味は済んでいる。


今日の予定は医術師に治療を受け、王宮に届いた書簡を処理する。
ありがたい事に外出は無かった。

途中から手伝いにきた宰相が、殿下の窶れ具合を大仰に心配して、ちょっとイラッとした。
こいつは陰で第二王子を支持しているのを知っている。
春前に、使途不明金を探ろうとしていたが今は立ち消えている。
きっと探っていけば、宰相に辿り着くと思う。
だからイースタンは宰相の挙動を、ただひたすら見ている。



王太子殿下を護衛する時。
ユスフは前方に。
イースタンは後方に位置取る。
後方から広角度に辺りを警戒する。
だから普段から殿下を見ている。

グラスを持つ手が、随分痩せた。
痛ましさで心が塞ぐ。
医術師でも無い自分は何も出来ない。


「帰りてぇ」

ユスフの呟きが聞こえた気がした。

本当だな。
あのコンサバトリーの、降るような陽の中でレヴュトとごろごろしたいな。
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