断罪だとか求婚だとかって、勝手に振り回してくれちゃってるけど。僕はただただ猫を撫でたい。

たまとら

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シーシャ・ヴェルバック

1 シーシャの憂鬱 上

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屋敷の中に気配が増えた。

この地は"約束の地"という恥ずかしい名前の付いた神話級の場所で、たまに巡礼として贖罪する者や、少し離れた救護院に辿り着いてしがらみを断ち切りたい者がやって来る。
そうしたら下働きが増えたり減ったりする。
だから上級使用人以外とはノータッチだ。

結界を越えてくる者ならば、問題無い。
ここで落ち着いて癒されたら出ていくだろうから放置する。
ただ、この気配…何処かで会った事がある気がする。


俺はマナを操れる。そして読める。
だからこの気配は何処か既視感を覚えた。

まぁ、知らなければいけない者ならば、家令のジャーマから紹介されるだろうから、あえて問いただす事もない。
それでも気になって、特定してみた。

その魔力の持ち主はとてもアグレッシブだった。
コマネズミのように、ちょろちょろ走り回る。
この屋敷にいる者はゆったりとしているから、とても新鮮だった。
屋敷の使用人達は訳ありだが、もう中年を過ぎている。
俺の訓練では立派な鬼教官と化すけれど。
素なのか演技なのか、普段の仕事はゆったりとしている。
その姿は俺にも猫を何枚も被って化かせと言ってるようで、約束の地だの先祖返りだのと思うと息苦しかった。



早朝、訓練所に行こうと廊下を渡っている時。
森の中からその気配がした。

黎明の影に覆われた空気の中で。
黒くうずくまる裏の森に彼がいる。
興味本位で目に強化を掛けた。

俺の一族は魔法が使える。
あちこちに溢れるマナを取り込んで現象に出来る。
そして俺は先祖返りと言われる程に、息をする様に使える。
おかげで薄蒼い湖底のような世界で、ぼんやりとした人の影を、はっきりと見る事が出来た。



腕が振り切られるとシャツがはためいた。
髪がふわりと広がり、額にざん。と当たる。
右脚を地平と水平に蹴り出す。

拳が前に出される度に袖が靡く。
夜明け前の黒い森の中で翻るシャツは、まるで舞いだ。

緩く。

速く。

緩く。

速く。

緩急付けた動きが美しく踊る。

目をさらに強化した。

翡翠の瞳がとろりと光っている。
型をなぞる度に、汗が風圧で靡いて弾ける。
その目は生き生きと楽しそうに尖っていて。
動きの度に揺れる髪と集中した目に、
魅入られた様に立ち尽くしてしまって。

ああ、あの子だ。
と、思い出した。


そう、二年ほど前に会った。


その日も父上と登城して。
案内されるままに四阿に座って。
出されるままに茶を飲んだのは、
ただ、ただ、迂闊というしか無かった。

父上は治癒能力がある。
当時は高齢の王の為によく登城していた。
父上をお待ちする時間は、図書館か四阿で本を読む。
それが幼い頃から登城した時の習慣だった。


その日は向こうで音楽が奏でられて、笑い声が弾けてた。
いつもと違う賑やかさに驚くと、今日は第二王子のお茶会があるのですと、案内してくれた侍従が告げた。

第二王子のお茶会。

あのめんどくさい奴が、遂に見合いに踏み切ったのだ‼︎

安堵して、ちょっと浮かれた俺は。
なんの疑問も無く、出された茶を口にしてしまった。
無理もない。
害する者を弾く魔道具を付けていたが、
その侍従は悪意も害意も無く、好意で茶を入れたのだから。
そして俺も、そこまで卑劣だとは考え無かった。


こうしてシーシャは、身体が痺れて身動き出来なくなってしまった。
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