なぜか側妃に就職しました。これは永久就職じゃございません。

そしてリターンする？

76 帰り道 ヤルターシ

帰りに、「石灰ちょーだい♡」と、唐突に言われたガーディヴ二世は、「なんぼでも♡」
と、笑って答えた。

だって元は貝殻だから。
処分に困るほどあるから。

アドルの国での後宮。
王は、田舎風の町を作ってるそうだ。
きっとアドルは南国風の町にして、バカンス気分を味わいたいんだな。
そんなに気に入ってくれて、嬉しいじゃん。
コレを機に、国で南国風がブームになったらいいな、と思った。


大樽に四つの石灰は、いろんな土産と一緒に荷車に積まれた。



「今度は夫夫ふうふで来いよ。」

と、声を掛けたら

「いちゃいちゃで当てられますよ。」

と、ヤルターシに指摘された。
いや、それはいらんわ。
と笑い合って、この国の外交は無事に終わった。


これから帰ると思うと、馬車の進みが遅い。
ガタンガタンと揺れる馬車に、心が持ってかれる。

早く。
早く。

回る車輪に祈る様に願いをかける。

早く会いたい。
早く抱き締めたい。

じっとしてられなくて、護衛騎士から馬を奪って走らせる。
そんな突っ走る護衛対象を追って、焦って爆走した馬車。
始末書を書いていたヤルターシは馬車酔いでゲロり、アドルは頭に手刀をくらった。

馬車内で勉強するかストレッチでもしていろ！
と、一択しかない2択を凄まれて。
アドルはただただストレッチに明け暮れた。
やがてそれに飽きて、ひたすら鍛え始める。
～～何目指してんの？
と、聞いてみたが。
むしろ教えて頂きたい。
と、返された。
まあ、静かなら良しとしよう。



そんな帰り道の中で、ヤルターシは仕事する。
外交の報告書の他に、ＪＭＤの議案書を書き上げる。

そして、アドルの報告書を添削していて驚いた。

アドルの視点が、清々しいほどに頬をぶちのめしてくれた。
自分の頭が硬かったことに、とても愕然とした。
無論、誤字脱字の赤ペンで、書類は花園のようだが。


石灰は畑に撒いたりするものが自国でも少しは採れた。
石灰といえば畑。
ガーディヴ二世の国では、
石灰といえば塗料。
そんな思い込みの中で、廃棄物の貝殻が経済を動かす事になるかも知れない。


この議案書に、リサ嬢はどんな顔をするだろう。
ヤルターシはにやりと笑う。

コレによって、どれだけの教え処に石灰筆が行き渡るだろうか。
安くて手軽な木の板と安い筆が使い放題になって。
何度も練習して字が書ける子供が増えていくんだろうな。
その為の筆作りの工房に、貧しい子供や親の無い子供が賃金を得られたら最高じゃん。


リサ嬢が琥珀色の瞳を潤ませて見上げてくることを想像して、ヤルターシはデレるのが止まらなかった。