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家族の肖像

4 心の整理整頓

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アレルを後継に、という申請はすぐ通った。
まだ学園に通っているアレルに、まぁなんとかなるよね。って思っていたらしい王様は、キリルが『僕が賜ります』と言った途端、イキイキとせっつきだした。
王様よりもその周りから、王様の熱中ぶりに嘆願されて荷物も嫁入り道具も整えられないままに出発する事になった。

専属の護衛は断った。(つまりディナス達)
おかげで馬車の周りは公爵家の兵達だ。
カリヴァスに着いたら、労ってからさっさとお引き取りを願おう。

もう、新しい場所で新生活を目指すのだ!

幼い頃からの侍従であるガルゼだけを共にした。
アレルが縋っていたが、大丈夫と押し切った。


正直ガルゼが一緒なら怖いものは無い。
普通の騎士は足元にも及ばない。

ガルゼは月の神殿の神官だった。
月の神殿は母様の実家のナルディル領にあった神殿で、当時から廃れていた。
ガルゼはそこの、最後の神官だった。

奥深い、秘境とも言える山奥で。
食べる為の殺傷も生きる理として、ガルゼは狩も闘いもこなしていた。


月の神殿には、人を繋ぐ赤い糸の教義があって。
幼い子供が赤い糸が見えると言い出した時。
狂っていると思われなかったのはそれのおかげだ。

ガルゼの赤い糸は指にぐるぐるに巻き付いて切れている。
自分でブチってやったらしい。
当時、相手もいたのに。
世俗が鬱陶しいとやっちゃったそうだ。

なんでも神力を高めると触れれるらしい。
糸は恋だけでは無く悪縁も執着の縁もあるそうだ。
それで、ぶちっと。
でも、もう、しばらく立てない程に疲れたそうだ。


……自分にも糸が切れるだろうか。

たまに、そんな誘惑にどきどきしたけれど。
まてよ。
上手く切ったって、自分に結べはしないんだぞ‼︎
と、正気に戻った。

そう、キリルの指に糸は無い。
痕跡すら無い。
誰かの糸の端っこを結べたら、僕も人の仲間入りが出来るんだろうか?


はっきり言おう。

僕はディナスが好きだった。
もう、欲情していた。
出来るなら隣に立ってもらって、ファンドール公爵家を引っ張って欲しかった。

でもその恋は、一目惚れした途端に砕けた。

アレルとディナスは赤い糸で繋がっている。
それを見た途端、僕の心は砕けた。

もし見えてなかったら。

押して。
押して。
押し倒してた。

心で繋がれ無くても、体で繋がっていたかった。
護衛として毎日側にいるおかげで。
毎日見続ける。
目の前で弟と繋がる糸を見続ける。
ディナスの心を見続けて、僕の恋は行き場のないままに叫んで萎んでいった。


アレルを愛してる。
可愛い弟だ。


アレルの周りには花が咲く。
それはアレルがディナスと視線を交わすたびに咲き誇る。

互いに繋がる糸から甘さが虹の様に光を煌めかせ、花となって咲き誇る。

美しくて、
愛おしくて、
悲しくて、

苦い。


毎日毎日その苦さと痛みに沈んで、気が狂いそうだった。



もう、遠慮はしない。

誰とも歩けなくても楽しくやれればいい。


馬車がかぽかぽと進む。
ディナスから進む。

これは逃げてるんじゃ無い。
新生活の為に進んでるんだ。

もう二人を見なくていい安堵に、キリルは寝転んだまま馬車の天井をみあげた。
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