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戦いという異次元
3 いつだって迷子
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キリルは幼い頃に山の中で出会った頃のように、自信なげに視線を落としている。
自分の見てる世界が信じられず。
誰一人同じ世界を見てくれず。
望んでも、川の中洲の様に気持ちは溜まるのに、人はわかってはくれない。
分かり合えない絶望が澱のように溜まる。
「自分が幸せになって、何故いけないのですか?
『いつかアルベルト様に相手が現れる。そうなったらと思うと怖い』でしたか?
後先考えて動かないのはただの逃げですよ。
自分を愛してあげなさい。
自分の心に耳を傾けなさい。
いいのです。
恋に狂って、恋に走って。
邪魔する者を薙ぎ倒して奪い取っていいのです。
貴方の恋は生まれてきていいのですよ。」
ガルゼの手がゆるゆると髪を撫でる。
心の奥から信頼と安堵と甘えが湧いてくる。
「恋して。狂って。散ってしまったら。
また新しい恋をすれば良いのです。
糸の見えない者達は、そうやって命を燃やしてます。心のままに生きなさい。
糸に縛られなくていいのですよ。」
嫉妬も僻みも孤独も我儘も。
見苦しいと潰してきたモノが、どろどろと自分の欠けを埋めていく。
忌まわしいと封してきた心を、人として当たり前だと認めてやれば良い。
そんな生暖かいガルゼの体温に、キリルは縋った。
ぱたぱたと雫の音で気がついた。
キリルは泣いていた。
その涙は甘くて暖かくて、震えるたびに心がまぁるくなっていく。
許していい。
家を出る時、心のままに生きると決めたのに。
またあれこれ考えて二の足を踏んでいた。
今度こそ、しがらみが一つ消えるのだ。
アルベルトはどうしているだろうか。
ケガはしてないだろうか。
戦いの中で心が傷付いていないだろうか。
ゆっくりと…
自分の心と向き合おう、と決めた。
戦況は国境へと敵兵を追い立てる事に成功した。
兵の家族からの手紙とホワルーを、物資と送る。
鳥便は地上の戦いを尻目に、空を飛んで戦況を教えてくれる。
隣国は好戦的な騎馬民族のチギルが支配階級となっていた。そして地に定住して大地を敬うチャワスが農耕民族としてある。
今まで攻め入られて掠奪されて。
開戦するほどじゃ無いと追い払うだけだった関係を、今代の王は是としなかった。
深くスロベルに押し寄せた事もあり、国際的な立場の元、大々的な開戦に持ち込まれた。
チャワスと友好関係を築いてきた国境沿いの領主に、王は隣国の支配者をチャワスへ替えようと、内乱を示唆する相談をあげた。
大地を敬うチャワスなら、これまでとは違う関係性が築けるはずだと。
辺境伯達は各自のルートでチャワスと接触し。
共にチギルの独裁からの脱却を願って手を取るように促した。
いまや御せない農耕民族。
弱いと見ていた隣の国。
それらの抵抗でチギルの部族は浮き足立ち、苛立った。
戦いが長引いてくることで、戦略を考えずに突っ込むことへの批判も増えた。
ある朝、ホワルーがかえってきた。
朝だ。
つまり鳥便を夜半に放った事になる。
ただ事ではない。
鳩舎に走ったキリルは。
アルベルトが行方不明の知らせを受けた。
自分の見てる世界が信じられず。
誰一人同じ世界を見てくれず。
望んでも、川の中洲の様に気持ちは溜まるのに、人はわかってはくれない。
分かり合えない絶望が澱のように溜まる。
「自分が幸せになって、何故いけないのですか?
『いつかアルベルト様に相手が現れる。そうなったらと思うと怖い』でしたか?
後先考えて動かないのはただの逃げですよ。
自分を愛してあげなさい。
自分の心に耳を傾けなさい。
いいのです。
恋に狂って、恋に走って。
邪魔する者を薙ぎ倒して奪い取っていいのです。
貴方の恋は生まれてきていいのですよ。」
ガルゼの手がゆるゆると髪を撫でる。
心の奥から信頼と安堵と甘えが湧いてくる。
「恋して。狂って。散ってしまったら。
また新しい恋をすれば良いのです。
糸の見えない者達は、そうやって命を燃やしてます。心のままに生きなさい。
糸に縛られなくていいのですよ。」
嫉妬も僻みも孤独も我儘も。
見苦しいと潰してきたモノが、どろどろと自分の欠けを埋めていく。
忌まわしいと封してきた心を、人として当たり前だと認めてやれば良い。
そんな生暖かいガルゼの体温に、キリルは縋った。
ぱたぱたと雫の音で気がついた。
キリルは泣いていた。
その涙は甘くて暖かくて、震えるたびに心がまぁるくなっていく。
許していい。
家を出る時、心のままに生きると決めたのに。
またあれこれ考えて二の足を踏んでいた。
今度こそ、しがらみが一つ消えるのだ。
アルベルトはどうしているだろうか。
ケガはしてないだろうか。
戦いの中で心が傷付いていないだろうか。
ゆっくりと…
自分の心と向き合おう、と決めた。
戦況は国境へと敵兵を追い立てる事に成功した。
兵の家族からの手紙とホワルーを、物資と送る。
鳥便は地上の戦いを尻目に、空を飛んで戦況を教えてくれる。
隣国は好戦的な騎馬民族のチギルが支配階級となっていた。そして地に定住して大地を敬うチャワスが農耕民族としてある。
今まで攻め入られて掠奪されて。
開戦するほどじゃ無いと追い払うだけだった関係を、今代の王は是としなかった。
深くスロベルに押し寄せた事もあり、国際的な立場の元、大々的な開戦に持ち込まれた。
チャワスと友好関係を築いてきた国境沿いの領主に、王は隣国の支配者をチャワスへ替えようと、内乱を示唆する相談をあげた。
大地を敬うチャワスなら、これまでとは違う関係性が築けるはずだと。
辺境伯達は各自のルートでチャワスと接触し。
共にチギルの独裁からの脱却を願って手を取るように促した。
いまや御せない農耕民族。
弱いと見ていた隣の国。
それらの抵抗でチギルの部族は浮き足立ち、苛立った。
戦いが長引いてくることで、戦略を考えずに突っ込むことへの批判も増えた。
ある朝、ホワルーがかえってきた。
朝だ。
つまり鳥便を夜半に放った事になる。
ただ事ではない。
鳩舎に走ったキリルは。
アルベルトが行方不明の知らせを受けた。
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