【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら

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蜃気楼の恋

3 瓦解

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アルベルトの体温が無い事を悟って。
初めに閃いたのは"襲撃"だった。
"戦争""出兵"と言うハードな世界がほんの少し前にあった。
だからキリルは自分が熟睡した中で、緊急事態が起こった事を考えた。

人の動きを感知したガルゼが、呼び紐を握る前にノックした。
その目がキリル一人でいる事にぴくりと瞳孔が拡がる。
それだけで緊急事態は起きてないと悟った。

もっとも、ガルゼの用意したトレーにはカップが二つ乗っている。
すぐ飲み込めるように温めのハーブディ。
蜂蜜を垂らしたカップが二つ。
この人の気配に敏感なガルゼすら気付かなかった訳で…


「……探してくれる?」

掠れた声をようやっとだした。
その言葉は絶望と恥辱に満ちている。

婚姻は3日続く。
例え気に染まない政略結婚でも、そして平民であっても。
結婚となれば3日は閨に籠る。
勿論仕事は休みになって、世話係も付く。
その途中で姿を消すと言うのは、その婚姻を打ち消す行為に他ならなかった。

『好きだ』
何度もリフレインする言葉が、キリルの体温を奪っていく。

違う。
何かあったんだ!
何が重大な事があったんだ‼︎

必死で立て直そうとするが、心はずぶずぶと沈んでいく。

『好き』
『好きだ』

その言葉だけで貪りあったのに…

どんどんと追い込まれて。
どんどんと心が冷えていく。
体も凍っていくようで、キリルはかたかたとふるえた。



ガルゼはアルベルトの動きをほぼ掴んだ。
寝室から出てふらふらと歩き、自ら着替えて馬に乗った。
そしてそのまま走り去った。

~~あのキリルの歩いた道すら拝みかねない男が。
熱い目をしていた男が。
たった一晩で婚姻解消を打ち出す筈は無い。
あの男は不器用だが真っ直ぐで、キリルだけを見ていた。

一人残されたキリルを思って、喉が締め付けられる。
息が苦しくて、怒りが湧き上がってくる。

何があった。
馬を駆る、どんな訳が。

ふらふらと散歩しているうちに、どんな理由ができたんだ。
そして、何故それを従者にも護衛兵にも伝えていない。

散歩したコースを辿る。
途中にある鳩舎を、、もしやと覗いた。

鳩舎は夜番の係とはすでに交代して、
「昨夜は何も無かったです。」
と経緯報告帳を開いた。
確かに昨夜はホワルーの幼鳥の給餌しか書かれていない。
しかも夜番はカシエ村からホワルーを学ぶためにやって来た男で、ちょうど学習期間はこの夜番までだった。
渡された受精卵を急いで持ち帰ろうと、朝の係の交代と同時に帰路についていて会うことは叶わなかった。



アルベルトがいない。
同衾した翌朝に消えた。
何も言わず。
置き去りにされた。

キリルが立ち上がると、アルベルトの精がぬるりとうちももを伝った。
それが滑稽で、憐れで苦しくて。
キリルはその場でうずくまった。
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