【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら

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好き。って気持ちは最強

2 渇望の巡礼

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それからの数日間、アルベルトは夢の中にいた。

疾走する馬の蹄が小石を跳ね上げたり。
招かれた領主の館で麗々しい口上を述べたり。
必死で走ってくれる馬に、感謝を込めて汗を拭ったりしていても。

それは本当の自分とは何処か隔たった、
まるで膜の外側の様だった。
自分の自分。
体の奥の奥で、早く早くと焦っている自分がいる。
ひりひりした焦りの中で、平穏に道中を過ごして握手したり手を振ったりする外側が、薄気味悪くてでもありがたかった。


キリルがいる。
この道の先にキリルがいる。

それだけが心の奥にぽっと灯り。
冷えて固まった体を動かしてくれる。



成る程、依頼を受けた鳥見衆はさすがだった。
馬なぞいなくても山奥を突っ走って、正規の街道を通るのと変わらない速度で伴走してくれる。
鳥見衆はリレーの様に意思を伝えて、アルベルトを真っ直ぐにナルディル領の端っこのサムスクへと導いてくれた。
無駄のないエルダスの依頼と手配に感謝した。

エギマの山奥で、行商人の馬車と農耕馬車くらいが通るだけの細い道に辿り着いて。
「この道はヤコン村へと続いとります」
と指さしてくれたのは、馬に休憩させていた時だ。

脅し付けるように張り出して茂る木々の中で。
確かに人の手が入って陽射しを浴びた道がある。
雑草の中に、細い道がぐねぐねと山の向こうに伸びている。
あの向こうにキリルがいるのだと、感が極まった。

鳥を飼育する鳥見衆は、面倒見の良い者揃いで。
アルベルトの汗と埃で汚れた顔を濡らした布で拭き取り、土埃で白っぽくなった金髪を払ってくれた。

「いい男が台無しじゃ。しっかりせいや!」
「頑張って口説くんじゃぞ‼︎」
「泣いてでも逃すんじゃねぇぞ!」

領主のお貴族様へ掛けるとは思えないような激励に、アルベルトはにへりと崩れた。
多分エルダスから言い含められていたんだろうが、今のアルベルトにそれを察する余裕は無い。

「伝手もない土地に行くなんざ豪気な嫁さんじゃ。
金の草鞋を履いてでも見つからんぞ。逃すなよ!」
「んだな。そんな嫁は頭を擦り付けても許して貰え」
……周りの認識はアルベルトが悪いの一択だった。

嫁に逃げられたバカ亭主。
そう言う情け無い括りで、同情よりも同調で仲間意識が湧いていく。
やがてアルベルトの出発の時、全員で円陣を組んだ。
えい、えい、おー‼︎ と、気炎を上げた。
鳥見衆は別れの時に背中をばんばんと叩いて気合いを入れた。

鳥見衆の見送りの中。
アルベルトは村へと向かった。

早く。と心が急く。

でもそれよりも凍ったような恐怖が心の芯にある。

キリルがもういなかったら。とか。
恐怖は嘲笑うようにアルベルトを煽る。
キリルに追い返されたら。
もう既に好き会う相手が横にいたら…

馬の振動の中で跳ねる心は落ち着かない。

こんなに求めているのに。
こんなに恐れている。

自分の臆病さを叱咤しながら。
アルベルトはヤコン村へと急いだ。
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