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好き。って気持ちは最強

1 自画自賛の感涙

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執務室で脳味噌を酷使している時。
アルベルトがピシッと動きを止めた。
手にした羽根ペンからインクがぽたぽたっと落ちて。
せっかく15枚綴りの書類を読み込んで。
やっと仕上げにサインをしようとした所だったので。
エルダスはひいっと仰け反った。

約三年、うじうじとキリル探しに奔走していたアルベルトは頬がこけている。
どよんと淀んだ目で、ふらふらと生きていた。
そのアルベルトが。
頭を上げて目を見開き、ついでに鼻の穴までかっぴらいてぷるぷるしている。

とにかく慌てて羽根ペンを抜き取ったが、アルベルトはこっちの動作に意識を向けていなかった。

「……キリル…」

掠れた声が震えている。

いつもの発作かーい!と思ったが、ちょっと違うようだった。
アルベルトはぱしんと立つと、止める間もなくドアから走り去った。
エルダスは慌てて後を追う。

ばびゅんと走るアルベルトは、鳩舎に一直線で。
見知らぬ者に飛び付いて、ホールドしていた。

ひっ‼︎ だの、わっ⁉︎だの。
領主様っ‼︎だの、ご乱心か!と慄く使用人の中で。
アルベルトはその男の背負子の鳥籠を、がっしりと抱き込んでいた。
ご乱行の結果、羽毛が辺りに散らばっている。

そういえば、今日は新しいホワルーの雛が来る日だ。
決まった血では弱くなるので、たまに新しい個体を入れる。
ナルディル領の鳥見役は、鳥にストレスを与えない為に、捕獲から護送まで全て行う。
そしてその鳥籠のカバーには繕った跡があって、キリル様の気配が漂っていた。

そりゃ、ここまで来たらわかります。
ガルゼ様の気配もプンプンしてます。
自分より先に、アルベルトに気づかれたことになんかむかってするが…仕方ない。
これはガルゼ様がキリル様の気配を、くそ鈍いアルベルトに向かって増強した物だろうから。

『いつかが来たら、その時にわかります。
それまでは他言無用ですからね。』
と、ガルゼ様が言ってらした。
そのいつかが来たのだと悟った。


……長かった。

後悔だけの地獄の様な日々だった(アルベルトが)
それを見ながら沈黙しているのは、本当に辛かった。
ルーアさまの悲しみを受けて、自分は石になっていた。

『黙っていろエルダス。
黙っていれば、いつかガルゼ様とキリル様が帰還して下さる。
この領地が、もっと先行き明るいモノになるんだ‼︎』

アルベルトを裏切っているような気がして。
心がぐらついた時は、ひたすらにそう念じた…



「そうそう、この破れをキリルさんが…」
「…もう、神様みたいに綺麗で…」

自分の世界にハマるエルダスの横で。
商売道具の備品(鳥籠カバー)を掴んで離さない領主と。
他領から来た鳥見衆は、情報交換を繰り広げていた。

もうアルベルトに淀んだ空気は無い。
きらっきらに、イケメンオーラを振り撒いている。
かつてのアルベルトがそこにいた。


「エルダス。行ってくる‼︎」

アルベルトは輝く笑顔でそう告げた。
~つまり。厩舎から馬を引き出す迄の間に。
[ナルディル領に行くまでに通る領地の領主への美辞麗句な通達文書を揃えて。替え馬と宿屋などの手配と費用一式を頼むぜ。]
と、言う事だ。

唐突にエルダスから涙が溢れてきた。

見て下さいガルゼ様。
コレが三年間の努力の結果です。
ひゃっはー‼︎ と、飛び出さずに、根回しを求める。
……コレが私が頑張った結果で御座いますぅ‼︎

頑張ったよ私。
出来る子なんだ、私。
結果オーライだぜ、私ぃ!

心の中でガルゼに報告しながら、エルダスは滂沱の涙を拭った。


いってらっしゃい、アルベルト。
私はルーア様と一緒に城を守って待ってます。
でも、貴方のすぐ後に護衛と馬車を出しましょう。
キリル様とタンデムで、ラブラブいちゃいちゃ帰るつもりなのは見え見えだけどな。
他にも人も荷物もあるんだぞ。
そう、ガルゼ様をお連れしなくては。
そしてまだ見ぬお子様もちゃんとお連れしてくれよ。
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