帽子ねこマルルはコンパニオンですの

たまとら

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6 マルルとさびと神様と

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マルルは猫では無い。
帽子ねこだ。
だからいつも帽子を被っている。
いつも木のとってのハンドバッグを持ってる。
初めは歩く巨大猫に驚いたボーダー家の人々も、淑やかで柔らかで話し上手なマルルに直ぐ慣れた。

帽子ねこマルルはだ。
顔の右半分は夜のように黒い。
左は黒と赤がモザイクになっているが、あちこち細石や胡麻汚しのように細かい模様になっている。顎下からお腹にかけては白い。
身体は赤黒モザイクが寄り合わさって縞の様になっている。
そんな個性的な柄にトルコ石のような大きな瞳は凄く目立つ。
その瞳は生き生きとこっちを真っ直ぐ見つめて、ほとんどの人を(犬派をも)虜にした。

ヨコジマにとって猫とはシールポイントのあるお高い猫や納屋で暮らす雉虎や黒猫だった。
皆が素敵というマルルの柄は、飛び散った泥にしか見えなかった。


『ある国では、さび猫は神様の手抜きと呼ばれています。
有り合わせの色を混ぜた様だからです。』
ヨコジマは全世界猫図鑑の注4を音読した。
すっかりマルルに恭順しているタテジマが気に入らなかったからだ。

「泥はねみたいな顔だわよね」

意地悪く言ったら、放った悪意はオーバーキルに返ってきた。

「僕はマルルの模様は宇宙そらに浮かぶ星砂みたいで綺麗だと思うよ。ヨコジマと似ててとーっても好き」

わかってる。
タテジマに害意は無い。
だが致死量は高かった。

が頭の中でリフレインしてヨコジマは石化した。


ヨコジマにはそばかすがある。
同じ様に外で走り回ったのに、タテジマには無い。
初めて子供の茶会に行ったとき、ガサツな女の子達に囲まれて
「泥がついてるわぁ」
「きったなぁい!」
と嗤われたのだ。

2度と舐めた口がきけないように、ボコボコにしてやったが、
ヨコジマは自分の顔の点々が良いものじゃないと知ってしまった。

マルルを見るとイライラするのは、同族嫌悪だとわかってる。
あの散らばった赤黒がイラつくのだ。
自分が猫なら尻尾まで真っ黒なのがいいわ。
罷り間違っても泥汚れみたいなあんな模様はイヤ。
ヨコジマはマルルはきっと自分のように、容姿にコンプレックスを持っていると思っていた。


勉強でタテジマは今、地図にハマってる。
マルルが"バイキングの宝の地図"を見せて以来、あらゆる地図にハマってしまった。
そろそろハンマの実が熟した頃だから外にとんずらしたかったのに、街の下水道の地図から離れない。
そんなイライラでついマルルに噛みついた。

「あんたの顔って色がぐちゃぐちゃね」

マウントを取るつもりで顎を上げて言い切ったら、マルルは目を糸にして笑った。

「そうなのよ。ほら私はさび柄なの。」

マルルは雷のようにゴロゴロ喉を轟かせながら、モデルのようにはんなりとポーズをとった。

「ほら、さび猫って神様にされてますでしよう」

びっくりして目を見開いたヨコジマににゃほほと笑った。

「さび猫って練習に虎猫も三毛猫も黒猫も創って、最後にいいところを混ぜて創った猫ですもの。神様に愛されてますのよぉ」

マルルはヨコジマの耳に口元を寄せて、囁くように笑った。

「しかも私ね、ハートがありますのぉ」

内緒よと帽子をあげると、おでこに丸がVに重なっている。
三つの丸で○ッキーという奴だ。
まぁそういえば♡に見えるかもって奴だ。

ほら、こんなに愛されてるのよぉ。

マルルには決してコンプレックスなんか無かった。
むしろ自分に自信ありありで、自惚れ屋に近かった。

しなやかな尻尾がいかに美しいか。
服で誤魔化さなくてもいいこの身体がいかに素晴らしいか。
マルルは歌う様に滔々と猫の素晴らしさを垂れ流した。
ヨコジマは自画自賛の嵐の中で錐揉みする葉のようだった。
終わりが見えないその嵐に、ヨコジマははぁと気の抜ける合いの手しかいれられなかった。

「あら、ヨコジマさんにもハートがあるわ」

うふふと息がして、ヨコジマの鼻の頭に冷たいマルルの鼻先がちょんと当たった。
ぬひょょぉっ!
その声がタテジマのものかヨコジマのものかはわからなかった。
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