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1 始まりは良くある昼メロ

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それはまさしく二匹の獣だった。
部屋の入り口に立ちすくむベリルの気配も察せずに、交尾している。

この石造りの館は堅固で、音を響かせない。
熱を逃すためにあちこち開け放していなければ、気づきもしなかった筈だ。

「あ、いいっ‼︎…う…ん、いいっ‼︎」

執務机に手を着いて、剥き出しの尻を揺すっているのはサーニァだった。
普段はしおらしくしている侍女だ。

窓からの風ではためくカーテンが、白い日差しをぱっぱっと瞬かせる。

サーニァの白い尻と、そこから伸びていて反り上がった黒い尻尾が驚くほどはっきり見えた。
その尻尾はぴくぴく震えて、腰をぐっと掴む手に巻き付いている。

「奥様に叱られちゃいますぅよぉん…んんっ!」

乱れる身体に覆いかぶさっているのが、自分の番だということを、ベリルは痺れた様に見つめていた。


とはもう二ヶ月も。発情も出来ないくらい弱ってる様だ。
ヒトは本当に脆くてつまらんな。
お前はいいなぁ。元気でぴちぴちしている。」

下卑た言葉。
ぐちゅぐちゅとした水音。
ぱんぱんと当たる、肉のぶつかる音。
はぁはぁという喘ぎ声が。

ぎりぎりと頭に捩じ込まれていく。



ああ、そう言うことね。

ベリルはぼんやりと笑った。


具合が悪かった。
元々獣人とは体力が違う。
発情期の後は、立てないほどに疲れて熱の出ることが多かった。
でも二か月ほど前から、立ってるだけで血の気が下がってふらついた。
怠くて、気持ち悪くて。
起き上がれずに寝付いていた。

大丈夫かと優しく声を掛けてくれたのは、ただの見せかけだったわけだ。




今朝、久しぶりにすっきり起きる事ができた。
侍女が助けてくれる事も無いので、なんとか厨房で食事を貰った。
通りがかった庭で、庭師に会った。
ベリルが薬草の興味があって、時々話しかけていたおかげで、庭師は他の使用人よりも優しい。

ローホウの花が咲きましたよ。
と、声をかけられて。
ああ、トリアスと出会った時に咲いていたな…
と、胸が熱くなった。

愛してると言われた時。
番になった時。

ちょうど2年前のこの時期で、ローホウが咲き乱れていた。
その甘くて爽やかな香りが辺り一面漂っていた。
その香りの中で、トリアスに抱かれたのだ…。

思わず庭師に願ってる花を切り上げてもらった。
トリアスの執務室に飾りたい。

そう思って来てみたら、この光景だった。
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