駆け落ちの後始末を、僕らに求めるのはマジ勘弁して欲しい

たまとら

文字の大きさ
13 / 31
パルスと辺境

13

しおりを挟む
パルスが遅れている事に気がついたメテオは足を止める。
しばらくぶりの走りで息があがって、頬に赤みがさしている。
いやぁ可愛いじゃん。
尻尾がふるふると揺れた。

にこにこ待っていたメテオの後ろに、一旦走り去ったラースが戻って来た。

「なぁ。何であんなに弱っちい奴、連れてんの?」

ラースは眉を顰めながらメテオに尋ねた。
追いついたパルスは、はっと足を止める。
ラースは覗き込むように、自分よりかなり小さなパルスを見た。

「おまえ、どうやってメテオに取り入ったの?色子みたいにして?」

意味がわからなくて首を傾げるパルスに、苛立つようにラースは言った。

「おまえの母ちゃんは色を売る奴で。悪い事して殺されたんだろう?そしておまえは捨てられたから、仕方なく客だった領主様が拾って来た。って、皆んなが言ってるぜ。」

顎を上げてせせら嗤うようにラースが言った。
メテオが口を開こうとした時、横を光が走った。


「取り消せ!!」

叫びとともに飛び掛かったのはパルスだ。
自分より大きなラースに噛み付く。
ラースが太い腕を振り払うと、飛び退いたパルスが、とんと四つ足で地面につき、再び飛び掛かった。
黒くて美しい尻尾が、舵をとるように揺れる。

やめろと叫びかけたメテオは、二人を遠巻きにする子供達を見た。
~~これは通過儀礼だ。
この町の子供社会に入るための儀式だ。
ふっと息を吐いて力を抜く。
でも尻尾は膨れたままだ。



パルスの爪が前面をガードするラースの腕を抉る。
ラースは飛んできて無防備な脇腹を殴りつけた。

『がっ‼︎』

濁った息を吐き出してパルスが飛び退る。
ラースの腕から細く血が滴って、匂いが闘いをエスカレートしていく。



まるで澄み切った冬の空のようだった。
氷を透かして見ているようだった。
その美しい蒼い目が。
中に金色の炎を瞬かせてラースを睨みつけている。
その強い視線にラースは熱くなっているようで。
その初めて見る眼差しが自分以外に向いている事に、メテオは胃の辺りがヒリヒリした。


何度目かのラースの拳はびじゃっと音がした。
脇腹が赤く染まっている。
傷口が開いたのだ。

メテオはぐっと唇をかんだ。
まだだ。
まだパルスの闘志は消えていない。

先に闘志が途切れたのはラースだった。

拳の濡れた感触に、えっ、と怯んだ。
その隙をパルスは見逃さなかった。

高く跳び、額と肩をぐっと掴むと、咽喉に牙をたてる。
驚いたラースがどう!と後ろに倒れる。
パルスは上に乗ったまま、咽喉を噛んでいた。



「終わりだ‼︎」


一拍遅れて、メテオはありったけの狼としての力を放った。
力がざっと路地裏に流れる。
びくりと毛を逆立てて子供達が固まる。
狼の力は強い。

「終わりだ。パルス、離れろ。」

咽喉は弱点だ。
噛まれたら死ぬ。
完全にパルスの勝利だ。

パルスは歯型の残った首からぼんやりと頭をあげた。
軽く頭を振ってラースを睨みつける。


「僕のママは色を売って無い。」

「……おう。」

「悪いことはしていない。」

「……うん。」

「僕は捨てられた訳じゃ無い。」

「……わるかった…」


肩で息をするパルスは、詫びの言葉に軽く頷くと踵を返した。

「パルス。」

「一人で帰る。来るな‼︎」

そう言って走り出した。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き

メグエム
BL
 伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。

つぎはぎのよる

伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。 同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。

悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡
BL
超覇権BLゲームに転生したのは──ゲーム本編のシナリオライター!? その場のテンションで酷い死に方をさせていた悪役令息に転生したので、かつての自分を恨みつつ死亡フラグをへし折ることにした主人公。 創造者知識を総動員してどうにか人生を乗り切っていくが、なんだかこれ、ゲーム本編とはズレていってる……? ヤンデレ攻略対象に成長する弟(兄のことがとても嫌い)を健全に、大切に育てることを目下の目標にして見るも、あれ? 様子がおかしいような……? 女好きの第二王子まで構ってくるようになって、どうしろっていうんだよただの悪役に! ──とにかく、死亡フラグを回避して脱・公爵求む追放! 家から出て自由に旅するんだ! ※ 一日三話更新を目指して頑張ります 忙しい時は一話更新になります。ご容赦を……

処理中です...