駆け落ちの後始末を、僕らに求めるのはマジ勘弁して欲しい

パルスと辺境

14

メテオの鼻はよくきく。
すん、と匂いを嗅ぐと、血の匂いがふんわりと風の中を漂ってくる。

そっと近づいていくと、庭の隅の低木の中にパルスの気配がした。

ぇぐっ。
ぇずっ。

何かを噛み締めながら咽び泣く声がする。

考えたら、自分より小さな子が。
ケガをして、ひとりぼっちなのだ。

自分がココから連れ出されて、知らない所で、熱まで出てたら…。
そう思うと、メテオの耳はへにょりと垂れた。


おとなしいだけと奴だと思ってた。
人形のように可愛いくて、人形のようにおとなしい。
でも目の中に金色の火花を散らして牙を剥いた姿は、震える程に綺麗だった。

前に父上が魔獣と闘っている時のように。
声を掛ける隙も無い程にキレだった。

～～本当はもっと激しい奴なのかも知れない。



メテオはどう声を掛けようかと悩みながら、そっと台所に取って返した。
料理長から果樹水をもらう。
恐る恐る、こぼさないようにカップを持って、パルスの元へ向かった。




黒猫はいらん！
と、叫んだ巨大な姿が浮かんだ。

僕はいらない子なんだろうか。
僕の大好きな人は死んじゃって、シルフィは連れて行かれちゃった…。

涙が次から次へとへと溢れてくる。
ぎゅっと手を噛んで声を殺しているのに、ぇぐっ、ぇぐっと震えが止まらない。

あの猪の子が捨てられたって言ったら、あの大きな獅子が浮かんだ。
～～あのまま牙をたててたら、あの子は死んでたかも知れない。
そんな怒りで我を忘れる、瞬間湯沸かし器のような自分が恐い。
怒りで我を忘れたら、何をするかわからない。
だから皆んな僕が要らないんだろうか…。

膝を抱えて小さくなる。
このまま消えた方がいいんだろうか。

ぐずっ、ぐずっと鼻を啜っていたら、気配が近づいてきた。

あの子だ。
メテオ。
やたら賑やかな狼。

放っといて欲しい。
……あっちいけよ。

でも近づいて来る。
面倒くさいなぁ。

威嚇しようと顔を上げたら、鼻先にカップが現れた。
カップは冷えて水滴が付いている。
中から甘くて酸っぱそうな匂いがした。
咽喉がぐびっと音を立てる。
走って、叫んで、泣いたから、咽喉はからからだ。

んっ‼︎
と、カップを押しつけられる。
ぷいと横を向いたのに、抱えた膝に
んっ‼︎ と押しつけられる。
～～冷たい。

……そっと手に取る。

中からリンドやメロロの甘い匂いがして。
咽喉が再び鳴った。

恐る恐る口に運ぶと冷たい水が、すーっと落ちてきて、じんわり広がっていく。

思わず両手でつかんで、ごくごく飲んでいた。