駆け落ちの後始末を、僕らに求めるのはマジ勘弁して欲しい

パルスと辺境

15

ふはーっと飲み終わったパルスは頬が緩んだ。
涙を拭きまくって、顔に黒い筋が何本も出来ている。

メテオはそのまま隣に座る。

血の匂いは強い。
けど新しいものは薄い。
ダラダラ流れてるわけじゃなくて、ほっとした。

飲み終わったカップを持ったまま、パルスはぱちぱちとまばたきをしてメテオを見ている。
その途端、まつ毛に乗っていた涙の球がコロリと頬にこぼれた。

あ、と言う顔をしてついメテオはそれを舐めた。

ひっ‼︎ とパルスが驚いて逆毛立つ。
そのびっくりした丸い目と、かっと赤くなった顔をまじまじと見て、メテオは再び涙の跡を舐めた。

「な、何っ⁉︎」

慌ててそらそうとする顔を舐める。
母上が落ち込んだ時、メテオはグルーミングしていつも慰める。
いきなり始めたペロペロは、もう止まれない。

「やめ。やっ‼︎  やめろって！」

あわあわと顔を振っていたパルスは、でろりと耳先を舐められて、たまらずに笑い出した。

お腹の底がくしょくしょと揺れてくる。
肩がくっくっと揺れて、あはははっと笑いが噴き上がった。

今までの緊張の反動のようにパルスが笑う。
その笑いはメテオの舌から、ふるふると伝わってきた。


パルスが笑う。
まるでシャボン玉が空に浮かんで、キラキラキラキラ弾けるように。
それが喉の奥から、こしょこしょとメテオをくすぐっていく。

あはははっとメテオも笑い出していた。
笑いながらもペロペロが止まらない。
頬を舐め、耳も舐め、髪もうなじも舐める。


「もうっ‼︎もう、くすぐったいからっ！」

あははと笑いながらパルスが身を捩る。
そして手を伸ばすと、ぐっとメテオの額を押した。

「もう、止め‼︎もうっ‼︎」

お互いに目を見て、笑いが弾けた。

パルスの頬には涙が浮かんでいる。
でもそれは笑いすぎの涙だ。
ひぃひぃと笑いをおさめながら、二人は草の上に寝転んだ。



「もうっ。犬のベロはねろりとしてるから、びちょびちょじゃんか！」

笑い混じりの声で文句を言う。

「えっ、ねろりって⁉︎猫のベロは違うの？」

びっくりして目を丸くしたメテオに、パルスは小首を傾げた。
しばらくじっと見ていた。
やがて、にやりと笑うとその顔が近づいて来る。


冬の空を思わせる透き通った蒼が、目の前に広がった。
そして、メテオの頬にシャリッと何かが当たった。