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王都事変
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スーティ・オウの美しい姿は、まるで津波のように人の口から流れていった。
タイタニアから来たというだけでも注目を浴びるのに、絶滅危惧種の雪豹で美しい。
スーティ・オウはやんごとなき人のように馬車に乗ることは無く、自ら馬をかった。
白銀の髪が風に靡き、その衣装は光沢のある衣で繊細な刺繍が施されている。
街道の宿場は、王族専用の宿をとったにもかかわらず、近隣の人で埋め尽くされた。
そしてちょうど一週間。
城に着いた時、埃も汗も全く感じさせないその姿に、門番の騎士は頬を染めた。
嫦娥の反物と砂金。
そして伝説の回復薬を差し出しながら、謁見の間で佇む姿は、息を呑むほどに美しい。
その姿はかつてタイタニアで出会った頃と寸分違わず…。
懐かしさよりも苦々しさがオベロンを襲った。
「お久しぶりです、オベロン王。
姉上は何処に?」
お決まりの美辞麗句を交わした後。
何気なさに小首を傾げる可愛げな姿も、違和感ない若さに見える。
「お伝えせずに申し訳無かった。ラルーナはすでに天への階段を登っておる。」
「なんと!」
息を詰めたような美しい貴公子が、その顔を曇らせるのを、周りにいたものはドキドキと見つめていた。
~~茶番だ。
互いがわかっている。
ラルーナの結界が轟轟と張られている。
ソレは生者の気配では無い。
だがソレを言い合うのは二人の時のものだ。
礼儀正しく二人は哀悼を表明し、美辞麗句を送り合った。
「今回、私はディミトリア学園に養い子の留学を願って参りました。」
周囲にざわりと気配が立つ。
「ほう、養い子と。」
「はい、タイタニアもこのまま国を閉ざしていてはいけないと。
その為にいろいろと婚姻を結ばせて頂いております。」
"国を閉ざしてはいけない"
その言葉にオベロンは驚いた。
今更、何を。
「その子がもうすぐ9歳。タイタニアを治める者として、外の世界を学んで欲しいと思いまして。」
つまり、王子としての留学‼︎
あの幻の国から‼︎
周りの貴族達はいろめきたった。
きっと噂は伝書鳥よりも早く駆け巡るだろう。
近隣の国にまで。
オベロン王は五月蝿そうに付いてくる護衛を止めた。
当たり前だ。
オベロン王ほど強い戦士はいない。
そして二人だけで城の奥へと誘導する。
城の内庭を抜けた。目の前に、塔がある。きのこのように遥か上へと真っ直ぐに立ち上がり、窓もなくツルツルしている。
見上げるとかなり上に光を反射して、建物が鎮座している。
この塔の周りを、姉上の結界が轟轟と取り巻いて燃えている。
こんなに主張されていたら、資格のない者は近づいただけでも具合が悪くなるだろう。
扉を潜るとぶん、と空気がかわった。
直ぐに広がる円盤状の昇降機に乗って地下におりる。
さらに昇降機からおりると、螺旋状の階段が絵画のように手を差し伸べて下へ下へと続いていた。
黙って後を追いながら、ラルーナの死体がこんなに深くにあるのなら、察知出来なくても無理は無かったと思った。
渦巻きに飲まれるような気がする螺旋階段の下に、それはあった。
ガラスの柩の中に、ラルーナは眠っていた。
白銀の髪はまるで翼のように広がり。
長いまつ毛が頬に影を落としている。
今にも目を開けそうなその死体の周りは、息が白くなるほどに冷たかった。
タイタニアから来たというだけでも注目を浴びるのに、絶滅危惧種の雪豹で美しい。
スーティ・オウはやんごとなき人のように馬車に乗ることは無く、自ら馬をかった。
白銀の髪が風に靡き、その衣装は光沢のある衣で繊細な刺繍が施されている。
街道の宿場は、王族専用の宿をとったにもかかわらず、近隣の人で埋め尽くされた。
そしてちょうど一週間。
城に着いた時、埃も汗も全く感じさせないその姿に、門番の騎士は頬を染めた。
嫦娥の反物と砂金。
そして伝説の回復薬を差し出しながら、謁見の間で佇む姿は、息を呑むほどに美しい。
その姿はかつてタイタニアで出会った頃と寸分違わず…。
懐かしさよりも苦々しさがオベロンを襲った。
「お久しぶりです、オベロン王。
姉上は何処に?」
お決まりの美辞麗句を交わした後。
何気なさに小首を傾げる可愛げな姿も、違和感ない若さに見える。
「お伝えせずに申し訳無かった。ラルーナはすでに天への階段を登っておる。」
「なんと!」
息を詰めたような美しい貴公子が、その顔を曇らせるのを、周りにいたものはドキドキと見つめていた。
~~茶番だ。
互いがわかっている。
ラルーナの結界が轟轟と張られている。
ソレは生者の気配では無い。
だがソレを言い合うのは二人の時のものだ。
礼儀正しく二人は哀悼を表明し、美辞麗句を送り合った。
「今回、私はディミトリア学園に養い子の留学を願って参りました。」
周囲にざわりと気配が立つ。
「ほう、養い子と。」
「はい、タイタニアもこのまま国を閉ざしていてはいけないと。
その為にいろいろと婚姻を結ばせて頂いております。」
"国を閉ざしてはいけない"
その言葉にオベロンは驚いた。
今更、何を。
「その子がもうすぐ9歳。タイタニアを治める者として、外の世界を学んで欲しいと思いまして。」
つまり、王子としての留学‼︎
あの幻の国から‼︎
周りの貴族達はいろめきたった。
きっと噂は伝書鳥よりも早く駆け巡るだろう。
近隣の国にまで。
オベロン王は五月蝿そうに付いてくる護衛を止めた。
当たり前だ。
オベロン王ほど強い戦士はいない。
そして二人だけで城の奥へと誘導する。
城の内庭を抜けた。目の前に、塔がある。きのこのように遥か上へと真っ直ぐに立ち上がり、窓もなくツルツルしている。
見上げるとかなり上に光を反射して、建物が鎮座している。
この塔の周りを、姉上の結界が轟轟と取り巻いて燃えている。
こんなに主張されていたら、資格のない者は近づいただけでも具合が悪くなるだろう。
扉を潜るとぶん、と空気がかわった。
直ぐに広がる円盤状の昇降機に乗って地下におりる。
さらに昇降機からおりると、螺旋状の階段が絵画のように手を差し伸べて下へ下へと続いていた。
黙って後を追いながら、ラルーナの死体がこんなに深くにあるのなら、察知出来なくても無理は無かったと思った。
渦巻きに飲まれるような気がする螺旋階段の下に、それはあった。
ガラスの柩の中に、ラルーナは眠っていた。
白銀の髪はまるで翼のように広がり。
長いまつ毛が頬に影を落としている。
今にも目を開けそうなその死体の周りは、息が白くなるほどに冷たかった。
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