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ギルドと依頼とジャダと俺

3 レベルの違いはまざまざと

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腰溜めにされて、剣が上段から振り下ろされた。
横を通り過ぎた王猪はびくりと体毛を揺らしたが、どっどっと走りすぎる。
その巨体を赤い筋が追いかけていく。

ジャダが血振りをしてから剣を拭って立つのを、レンはドキドキと見ていた。

走り去った王猪はハンノ木の前でバギッと幹を倒すように止まると、此方に向き直った。
突き出した鼻から蒸気機関車のような熱い息を噴き上げる。
その目は獲物を求めて血走って轟轟と燃えているようだ。
頭の毛が針の様に逆立って、さらに巨大に見えてレンは迫力に凍り付いていた。

ガッガッと前足を打ち付けて再び突進しようと力を入れた時、その首の下にぱたぱたと赤い水が溢れた。
草にも枝にも降り注ぐ雨は、王猪が走り出そうと踏み出した途端にぱんと小さな破裂音を立てて辺りに飛び散った。
新緑の中に赤が散らばる。
王猪があ、と言った気がした。

まだ光の遺る目がくるりとひっくり返り、やがて下へと向いていく。
逆立った毛も尖った耳も、後頭部を見せて落ちていく。
そのままびしゃっと血が噴き上がるのを、レンはただ見つめていた。

ジャダが剣の血を拭って鞘に収めた頃には王猪の頭はころころ転がって、その衝撃で巨体が地響きを立てて崩れていた。


レンはばっくり口を開けてソレを見ていた。
誰だ。こっちの剣が"撲"一択だと能書き垂れた阿呆は。
あ、俺だ。
はっきりわかった。
『腕次第』だった。

突進する軽自動車並みの王猪を避けての首に一閃。
たぶん王猪は首が離れているのも、自分が死んでいるのも気が付かなかった筈だ。
そのたった一閃で、ジャダは自分の胴より太い王猪の首をチョンパしたのだ。

なんでも無かった様に、ジャダが覗き込んですっと手を差し出した。

慣れた森歩きに浮かれて熟したグベリを摘んでいたレンは、ぐいっとつかまれた。
「防御!」とだけ叫んで突き放された。
おかげでレンは一部始終を離れた所から安全に目撃していた。
よく見えるご招待席からかぶりつきで見てるも同然だった。

ジャダの目は静かだ。
楽しげな笑みが琥珀色に躍っている。
それでも王猪に向けた殺気と圧がそこらじゅうの空気に蟠っていて、レンはおずおずと目を向けた。

差し出された手に捕まるとぐいっと持ち上げられた。
ちょっと脚に力が入らないけど、ぐっと必死に踏み止まる。

「上手く風を纒わせたな。」

ジャダが良くやったと笑う。
うん、ちゃんと身体に風を纒って防御したよ。
ジャダはぐりぐり頭を撫でてから、放った荷物を取りに行った。
怖い気配が霧散していくのに、レンはほっと息を吐いた。


さあ、俺の出番だ。

ドキドキしてプルプルする身体に深呼吸する。
ゆっくりと風を練ると、転がった塊を浮かせた。
2個だからちょっと大変だ。
ちらりとジャダを見ると、満足そうに頷いている。
うん。レンはふにゃりと笑いながら、王猪を川まで運んでどぼんと付けた。
獲物を冷やす事で腐敗を抑える。
その後で血抜きや解体をすればいい。

こんなデカいのは初めてで、川に放り込んだ後は力が抜けて座り込んだ。

まざまざと見せつけられる力の差に愕然とする。
俺は一人で狩に行ける様になるんだろうか。
俺が狩った兎も狐もクラッシャーで、毛皮もまともな部分が少なかった。

レンの落ち込みを感じたのか、ジャダは頭を撫でて(最近多い。まさか腕置き場にジャストって訳じゃないだろうなぁ)から、自分の剣を引き抜いた。

「これに魔力を纒わせると、斬れ味抜群になるよ」

ほう。ほう。
レベル格差を埋める手立てに、レンは目を輝かせた。
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