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結婚したい男
29 ディサロ 初恋
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頭の上で、竜達が歌っている。
そう、喉を鳴らして歌っている。
風の唸りの様な不思議な歌だけど。
これは励ましの歌だ。
卵の中から殻を割ろうと戦う雛達への励ましの歌だ。
まるで魂をゆるゆると握られるような歌の中に、こつこつと殻を突く音が響いた。
息を詰めた人々の期待と。
ぴいぴいとさざめく雛の声が、辺りの熱気を掻き回していく。
ふおぉぅ…。
隣の竜騎士が、詰めてた息を吐き出した。
見れば砂の上では沢山のペアが出来上がっている。
割れた殻の残骸があちこちに散らばって、紙細工で出来た花園のようだ。
対になった人と竜はうっとりと互いだけを見ながら、誘導されて砂場を後にする。
その様子をちらりと流してから、ディサロは再びあの子を見た。
友愛と感動で啜り泣きが漏れるその場で。
その子は凍った様に座っている。
頬は青褪めたように白く、無表情のままだ。
そしてディサロも楽しみだった孵化を忘れて、ただじっとその子を見守っていた。
背後で人の動く音がする。
儀が終わって人々が動く。
自領に帰る為に。
対になった手続きをする為に。
どんどんその場から人が出て行く。
隣で竜騎士がもじもじと、急かすべきか躊躇っているのがわかった。
~~でも、あの子が動かないから…
もう少しここに居たくて。
ディサロは騎士のためらいを気付かないふりをしてじっとしていた。
その時。
凍った様に動かなかった瑠璃色の瞳が、はっと大きく見開かれた。
あの子は弾かれた様に立つと、ぐっと身を乗り出す。
なに⁉︎
慌てて視線の先を見ると、殻の残骸の中でぐらぐら揺れる小さな卵があった。
あの子の口がぎゅっと窄まる。
そのままフェルベーツ領主に向き合う。
あの凍った目が嘘のように、瑠璃色が怒りで、紫にも青にも光っている。
と、手摺を掴むと
その小さな体が宙に浮かんだ。
ディサロは驚いて腰を浮かせた。
あの子が落ちていく。
足元から青白い風がくるくると渦巻いて。
スパークするようにぱっ、ぱっ、と火花が散った。
紅い髪が踊る様にはためいて。
あの青白い頬が上気して染まっている。
薄萌葱色のレースとリボンが風の煽りを受けて羽衣の様に広がった。
まるで天使の翼みたいだ…
あの子は砂に飛び降りた。
シルクの靴で覆われた小さなつまさきがさくっ、と砂に埋まる。
熱いのにっ!
ディサロは息を呑んで身を乗り出した。
熱さで苦しんでないかと、目も耳もありったけで強化した。
あの子は領主の手から擦り抜けて小さな卵に飛びつく。
周りに転がる殻の残骸を払い除けて、卵を抱き締める。
そして再び青白い光が舞い上がり。
小さな卵が大きく砕けた。
砕けた卵が光を噴き出して殻を四方に飛ばす。
中から白い光が溢れて、何かが転がり落ちた。
中から出てきた竜とあの子が見つめ合う。
あの子の半開きの唇が、ふっと丸く開いた。
その端がひくひくと緩む。
瑠璃色の目に竜の白が映って、キラキラと反射する。
竜の見つめ合う複眼が映って凍った深い夜空だった目が、若草を散りばめて輝いていく。
緩んでいた桃色の唇が大きく持ち上がり、笑を作っていった。
喜びで光るあの子の顔は上気して。
まばゆいばかりに美しい。
凍った何かが溶けて、そこに幸せが満ちていくのがわかった。
その幸せがディサロをも埋めていく。
つま先からお腹に。
指先から胸に。
心から頭に。
唇がふるふると震えて涙が止まらない。
あれは対。
魂の半分づつ。
欠けた魂が、今一つになったんだ…
「エルメだって。
エルメって言うんだって!」
騒めく会場の音は何も聞こえない。
ただあの子の誇らしげな声だけを、ディサロは聞いていた。
そう、喉を鳴らして歌っている。
風の唸りの様な不思議な歌だけど。
これは励ましの歌だ。
卵の中から殻を割ろうと戦う雛達への励ましの歌だ。
まるで魂をゆるゆると握られるような歌の中に、こつこつと殻を突く音が響いた。
息を詰めた人々の期待と。
ぴいぴいとさざめく雛の声が、辺りの熱気を掻き回していく。
ふおぉぅ…。
隣の竜騎士が、詰めてた息を吐き出した。
見れば砂の上では沢山のペアが出来上がっている。
割れた殻の残骸があちこちに散らばって、紙細工で出来た花園のようだ。
対になった人と竜はうっとりと互いだけを見ながら、誘導されて砂場を後にする。
その様子をちらりと流してから、ディサロは再びあの子を見た。
友愛と感動で啜り泣きが漏れるその場で。
その子は凍った様に座っている。
頬は青褪めたように白く、無表情のままだ。
そしてディサロも楽しみだった孵化を忘れて、ただじっとその子を見守っていた。
背後で人の動く音がする。
儀が終わって人々が動く。
自領に帰る為に。
対になった手続きをする為に。
どんどんその場から人が出て行く。
隣で竜騎士がもじもじと、急かすべきか躊躇っているのがわかった。
~~でも、あの子が動かないから…
もう少しここに居たくて。
ディサロは騎士のためらいを気付かないふりをしてじっとしていた。
その時。
凍った様に動かなかった瑠璃色の瞳が、はっと大きく見開かれた。
あの子は弾かれた様に立つと、ぐっと身を乗り出す。
なに⁉︎
慌てて視線の先を見ると、殻の残骸の中でぐらぐら揺れる小さな卵があった。
あの子の口がぎゅっと窄まる。
そのままフェルベーツ領主に向き合う。
あの凍った目が嘘のように、瑠璃色が怒りで、紫にも青にも光っている。
と、手摺を掴むと
その小さな体が宙に浮かんだ。
ディサロは驚いて腰を浮かせた。
あの子が落ちていく。
足元から青白い風がくるくると渦巻いて。
スパークするようにぱっ、ぱっ、と火花が散った。
紅い髪が踊る様にはためいて。
あの青白い頬が上気して染まっている。
薄萌葱色のレースとリボンが風の煽りを受けて羽衣の様に広がった。
まるで天使の翼みたいだ…
あの子は砂に飛び降りた。
シルクの靴で覆われた小さなつまさきがさくっ、と砂に埋まる。
熱いのにっ!
ディサロは息を呑んで身を乗り出した。
熱さで苦しんでないかと、目も耳もありったけで強化した。
あの子は領主の手から擦り抜けて小さな卵に飛びつく。
周りに転がる殻の残骸を払い除けて、卵を抱き締める。
そして再び青白い光が舞い上がり。
小さな卵が大きく砕けた。
砕けた卵が光を噴き出して殻を四方に飛ばす。
中から白い光が溢れて、何かが転がり落ちた。
中から出てきた竜とあの子が見つめ合う。
あの子の半開きの唇が、ふっと丸く開いた。
その端がひくひくと緩む。
瑠璃色の目に竜の白が映って、キラキラと反射する。
竜の見つめ合う複眼が映って凍った深い夜空だった目が、若草を散りばめて輝いていく。
緩んでいた桃色の唇が大きく持ち上がり、笑を作っていった。
喜びで光るあの子の顔は上気して。
まばゆいばかりに美しい。
凍った何かが溶けて、そこに幸せが満ちていくのがわかった。
その幸せがディサロをも埋めていく。
つま先からお腹に。
指先から胸に。
心から頭に。
唇がふるふると震えて涙が止まらない。
あれは対。
魂の半分づつ。
欠けた魂が、今一つになったんだ…
「エルメだって。
エルメって言うんだって!」
騒めく会場の音は何も聞こえない。
ただあの子の誇らしげな声だけを、ディサロは聞いていた。
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