32 / 47
それぞれの話
32 王太子妃
しおりを挟む
私が王太子様に嫁いだ時。
政略結婚だと皆は噂した。
アグネィン家は子爵。
代々の領地に、飛竜の産地と港があった事で豊かだっただけ。
国は国王が統治する。
その土地を公爵や侯爵に分配し。
公爵や侯爵が伯爵に分配し。
伯爵が子爵や男爵に分配する。
つまり国王が国なら県を仕切るのが公爵や侯爵。
市を仕切るのが伯爵となり、区や町を治めるのが子爵や男爵となる。
つまりアグネィン家は、たかだか区長か町長な訳で。
そこの子息との婚姻に、とんだ穴馬だと驚かれ、敵対視された。
私はぼうとした平凡な顔で。
目立った才も無いので、王太子妃になりたかった方々に苛つかれたのだと思う。
王太子様とは学園で知り合った。
いや、公務でいらした王太子様をご案内させて頂いただけなのだけれど。
ただ私は王太子様をお慕いし。
王太子様も私を慕わしく思って下さった。
ざわざわと人は噂する。
社交界は噂の坩堝だ。
第二王子のディサロ様は、王太子を弑して王になりたいのだから用心する様にと助言してくる者がいる。
王宮は魑魅魍魎が跋扈している。
だから気を抜いてはいけない。
と、実家からも言われていた。
ディサロ様は柔らかい方だった。
ディサロ様は当時まだ学園に居られて、時々しかお会い出来なかったけれど。
いつも視線を感じていた。
あまりにも見詰められるので、もしかしたら横恋慕されているのでは…と思った程だ。
廊下でつまづいた時。
背後の護衛よりも先に抱き止められて、本当に驚いた。
戸惑う私に、王太子様がふわりと笑った。
「アレは貴方が子を成せば臣籍降下出来るから必死なんだよ。」と。
臣籍降下‼︎
内緒だよ。
と言いながら、王太子様はディサロ様が幼い頃から片想いの相手がいて、その為に王族から抜けたがっているんだとおっしゃった。
兄弟はとても仲良さそうだ。
でも。
ありえない。
王族が、自らその地位を捨てるなんて。
ディサロ様が王太子になろうと画策していると囁く者との板挟みの中で。
私は懐妊し。
その歓びもまだ淡いうちに、茶に何かを入れられてその子を失った。
身体の辛さよりも申し訳無さにうちのめされた私は、起き上がることさえ出来ずにベッドの中で泣き続けた。
そんな時、王太子様は寝室にやってきて毛布ごと私を抱き上げると。
静かに。
と言いながら、王宮の奥へと誘った。
王族のプライベートな談話室に着くと、隣の扉をそっと開けて覗かせてくれた。
そこにはディサロ様が王妃様の膝に頭をつけて嗚咽を漏らしていらっしゃった。
『せっかくの赤ちゃんが…』
そうお泣きになるディサロ様は、考えたらまだ成人前のお子様で。
そう、子供が流れた事でディサロ様の膨らんでいた夢もふっつりと消えたのがわかった。
ああ、本当にディサロ様は臣籍降下なさりたかったのね…。
私は疑っていた自分を恥じた。
ディサロ様の望みを叶えて差し上げたい。
私は王太子妃という立場をしっかりと心に刻んだ。
おどおどと引いていた態度を改めて、身分に合った自分になろうと決意した。
以来、ディサロ様と遠慮の無い兄弟になることができた。
はっきり言って二人三脚で妊活をした。
身体を冷やさないでください。
刺激物を食べないでください。
匂いのきつくない花を飾ってくださいね。
まるで母親の様に細かくディサロ様は私を見守る。
王太子様と王妃様が
『任せちゃうからね。』
と苦笑しながらおっしゃった。
そうしてこのお腹。
もし万が一があっても、切開して生きていけるほどに育った胎児。
ようやく私の懐妊が公に発表になり。
ディサロ様が臣籍降下できるようになった。
アッシュバルト伯。
その名を拝命して、ディサロ様は笑った。
とても清々しいその笑顔に、私は喜びの涙が止まらなかった。
感情を昂らせちゃダメですよ。
そんなディサロ様の言葉さえも嬉しくて尊かった。
政略結婚だと皆は噂した。
アグネィン家は子爵。
代々の領地に、飛竜の産地と港があった事で豊かだっただけ。
国は国王が統治する。
その土地を公爵や侯爵に分配し。
公爵や侯爵が伯爵に分配し。
伯爵が子爵や男爵に分配する。
つまり国王が国なら県を仕切るのが公爵や侯爵。
市を仕切るのが伯爵となり、区や町を治めるのが子爵や男爵となる。
つまりアグネィン家は、たかだか区長か町長な訳で。
そこの子息との婚姻に、とんだ穴馬だと驚かれ、敵対視された。
私はぼうとした平凡な顔で。
目立った才も無いので、王太子妃になりたかった方々に苛つかれたのだと思う。
王太子様とは学園で知り合った。
いや、公務でいらした王太子様をご案内させて頂いただけなのだけれど。
ただ私は王太子様をお慕いし。
王太子様も私を慕わしく思って下さった。
ざわざわと人は噂する。
社交界は噂の坩堝だ。
第二王子のディサロ様は、王太子を弑して王になりたいのだから用心する様にと助言してくる者がいる。
王宮は魑魅魍魎が跋扈している。
だから気を抜いてはいけない。
と、実家からも言われていた。
ディサロ様は柔らかい方だった。
ディサロ様は当時まだ学園に居られて、時々しかお会い出来なかったけれど。
いつも視線を感じていた。
あまりにも見詰められるので、もしかしたら横恋慕されているのでは…と思った程だ。
廊下でつまづいた時。
背後の護衛よりも先に抱き止められて、本当に驚いた。
戸惑う私に、王太子様がふわりと笑った。
「アレは貴方が子を成せば臣籍降下出来るから必死なんだよ。」と。
臣籍降下‼︎
内緒だよ。
と言いながら、王太子様はディサロ様が幼い頃から片想いの相手がいて、その為に王族から抜けたがっているんだとおっしゃった。
兄弟はとても仲良さそうだ。
でも。
ありえない。
王族が、自らその地位を捨てるなんて。
ディサロ様が王太子になろうと画策していると囁く者との板挟みの中で。
私は懐妊し。
その歓びもまだ淡いうちに、茶に何かを入れられてその子を失った。
身体の辛さよりも申し訳無さにうちのめされた私は、起き上がることさえ出来ずにベッドの中で泣き続けた。
そんな時、王太子様は寝室にやってきて毛布ごと私を抱き上げると。
静かに。
と言いながら、王宮の奥へと誘った。
王族のプライベートな談話室に着くと、隣の扉をそっと開けて覗かせてくれた。
そこにはディサロ様が王妃様の膝に頭をつけて嗚咽を漏らしていらっしゃった。
『せっかくの赤ちゃんが…』
そうお泣きになるディサロ様は、考えたらまだ成人前のお子様で。
そう、子供が流れた事でディサロ様の膨らんでいた夢もふっつりと消えたのがわかった。
ああ、本当にディサロ様は臣籍降下なさりたかったのね…。
私は疑っていた自分を恥じた。
ディサロ様の望みを叶えて差し上げたい。
私は王太子妃という立場をしっかりと心に刻んだ。
おどおどと引いていた態度を改めて、身分に合った自分になろうと決意した。
以来、ディサロ様と遠慮の無い兄弟になることができた。
はっきり言って二人三脚で妊活をした。
身体を冷やさないでください。
刺激物を食べないでください。
匂いのきつくない花を飾ってくださいね。
まるで母親の様に細かくディサロ様は私を見守る。
王太子様と王妃様が
『任せちゃうからね。』
と苦笑しながらおっしゃった。
そうしてこのお腹。
もし万が一があっても、切開して生きていけるほどに育った胎児。
ようやく私の懐妊が公に発表になり。
ディサロ様が臣籍降下できるようになった。
アッシュバルト伯。
その名を拝命して、ディサロ様は笑った。
とても清々しいその笑顔に、私は喜びの涙が止まらなかった。
感情を昂らせちゃダメですよ。
そんなディサロ様の言葉さえも嬉しくて尊かった。
2
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。
月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」
幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。
「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」
何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。
「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」
そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。
僕、殿下に嫌われちゃったの?
実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる