結婚したい男と、結婚させたい奴等と、結婚したくない僕。の話

たまとら

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いよいよ囲い込み

38 飛翔の儀

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昼過ぎには、城下はお祭り騒ぎだった。
商店街や住居の大通りには、フラッグガーランドが翻っている。
市場さえ日除のテントに飾りをつけて。
それが風に揺れて楽しさを擽る。

空には低空で、この儀に出場する飛竜達が竜騎士を乗せてゆっくりと旋回していた。
それを追いかけて走る子供と声援に、街は湧きかえっていた。

どの領の竜が上手く番えるかとオッズも出回って。
がやがやと賑やかで、笑顔が何処にも咲いている。

今、アッシュバルトは不安も無く楽しくて領民達は幸せだった。



夕方近くなると飛竜は城塞の足元にある広場へと降り立った。
ここは城から見晴らしがよく、城下の住居とは離れた訓練場だ。
何かあった時の避難場にもなる為に広い。

竜騎士達はそこで自分の飛竜から騎乗帯を外して、しっかりやれよと激励した。




城壁の中から招待された者達が。
その広場の脇には関係者達が。
そして外には鈴なりの平民達がいる。

その視線の集中した先には、沈む夕陽の残光を受けてぎらつくように輝く黄金色の雌がいた。

その黄金を中心に添えて、黒山のような影が壁のように取り囲んでいる。
それは各竜騎士団から名乗りをあげた若竜達。
流石に大きくてしまった身体をしている。

強さと速さと持久力。
という番の条件もあって、集まったのは青銅竜と黒竜だ。
竜騎士から解放された雄達は、ギラギラとたがいを威圧で牽制しあっていた。
その目は真ん中の雌を、焼き焦がさんばかりに見つめている。

その熱気が悶々と立ち込めて。
飛竜の使う風魔法が、ソレを無意識のうちに掻き回して。欲をはらんだ熱波となって、辺りにざぶんざぶんと押し寄せていた。

その見えない熱気は陽炎となって立ち昇り、見ている人間達を飲み込んでいく。
身体の奥の奥。
遥か原始の部分が、どくんどくんと煽られて脈打っていく。
心は熱で絡め取られて、これから始まる咬合という闘いの事しか考えられない。



今や陽は落ちて。
オレンジ色の名残りも紫紺の彼方に消えて。
上空は透き通るような紺色と瞬く星が見えていた。
深魔の森の彼方から、登り始めた月の先走りが薄っすら白く滲んでいる。

そんな空の下で。
地上は蜃気楼が揺らめきそうな熱気が、ひたひたと流れていった。

じんじんする息苦しさがルカの喉元を締め上げる。
肌寒いはずの気温なのに、汗がつっと額を伝った。


人も竜もその時を待っている。

そっと胸元を緩めて辺りを伺うと。
皆も息を荒くしながら竜達を見つめていた。


欲しい。
欲しい。
繋がりたい。

そんな竜のフェロモンが、花の芳香のように城下に押し寄せていく。

ごくり。と唾を飲む音さえ大きく聞こえる程に、辺りはしんとしていた。

その場には沢山の人がいるのに。
しわぶきひとつ無い。

風が木を揺らす音と。
飛竜がぐるぐる喉を鳴らす音。
そして頭の中には、ひゅうひゅうと自分の呼吸音だけが速まる鼓動と二重になって響いていた。




おぉぉぉ…ん…

カララが突然喉を逸らして叫んだ。

ど、おぉぉぉ…ん!

周りの雄達が答える様に叫ぶ。

カララのルビーのような複眼が、月の光の中に赤くぎらりと光って周りに侍る雄を見渡した。

捕まえて。
私を愉しませて。

そんな声が、叩きつけられるように聞こえた気がした。


ばっ‼︎

カララの翼が大きな音で広がる。
その大きさと美しさを見せつけるように。
先の先までぴんと広げる。
鈍色の月の光の中ですら、その黄金色の身体は眩い。
発情という熱に炙られ、内側から発光しているようだ。

雄達も人も。
その美しく猛々しさから目を逸らせない。

翼の動きがスローモーションのように脳裏に焼き付いていく。



カララは最初の羽搏きの為に翼をぎゅっと引きつけた。


どふっ‼︎

地面を蹴り出す音が、ルカの体を揺すぶるように響く。
力強いその身体は、飛び出した途端あっという間に点になる。

遅れて

ばさっ!
という音と風が、辺りを薙ぎ払った。


月の光の中で、カララは紺色の夜空にきらりと光った。


どふっ!
どふっ‼︎

ばさっ!
ばさっ‼︎


雄達の羽搏きと風圧が周りを薙ぎ倒す。

倒れながらも、人々はひたすら上を見上げて。
飛んで行く竜を見送った。
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