押してダメなら引いてみるけど、恋ってやつは後戻りはできない。

たまとら

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学園の欺瞞工作

3 テオドア 春の嵐

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いきなり現れた魔報を握って、テオドアから笑みがこぼれた。

訓練場はどよめいた。
下級生は憧れの先輩の笑顔に、残りは去年の惨劇を思い出して。

そんな周囲をいっさい忖度せずに、テオドアは魔報を開いた。
あふれる全方位満貫笑顔ビームの乱反射に、ドガっと倒れる音がする。
テオドアは相方のクフォに
「わりい。帰るわぁ」と声を投げた。

クフォが振り返ると帰るわあぁぁぁぁという反響だけが残されていた。
残像さえ残らないスピード退却に、クフォは呆気に取られて立ち尽くした。


魔報は手紙だ。
通信紙だ。
魔法陣の上で特殊な溶液に浸して作る。
用途とお値段に応じてメモ紙から便箋に、高級仕様ならアクセサリーも入る封筒になるらしい。
そしてちょっと魔力を込めると指定した住所へ飛んでいく。
大量なメモ紙を一気に浸して作った方がコスパが安い為、宅配専門の『ピザーナ』や『ガウト』が注文書として作ってポスティングしている。

そして住所ではなく個人に届く物もある。
風呂だろうがトイレだろうが本人めがけて真っ直ぐ飛んでいく。
個人魔報は役所に登録したコードを書き込まないといけない。
個人コードは他人を操ったり呪ったり出来る為に伏せられている。
役所の広報で『個人情報、一人一人が責任者』と銘打たれて家族か恋人くらいしか教えないように指導している。

その登録コードを売った奴がいた。

クフォは去年の地獄を思い出した。
白い魔報紙に貼りつかれてミイラ男となったテオドアがHAHAHAと笑ったのだ。
笑顔というのは怖い物だと脳裏に刻まれた日だった。


この学園でテオドアは注目の男だった。
むさ苦しい騎士科の中で汗臭を感じさせない爽やかイケメンな上に西辺境のグレゴリー様の直弟子なのだ。
あのグレゴリー様の弟子なんだぞ!
しかも直!生だよナマ!
王国中の戦う男の憧れグレゴリー様の直弟子なんだぞ!
そりゃもう絶対将来アンパイだよね。
うっかりワンナイト出来たらいいじゃん!
そう男も女も狙ってた。
でもテオドアのガードは永久凍土並みに硬くてそばに寄せ付けない。

そんな男の個人コードが手に入るですってぇ!と学園のみならず街の男女が金を出した、らしい。

そんな訳で魔報がバッサバッサと飛んできた。
訓練中も食事中もとにかく魔報が付き纏った。
テオドアが完全スルーしたら、それは雲霞のように膨れ上がった。
で、溜まった魔報がある時一斉に竜巻を起こして貼り付きだしたのだ。


訓練場の木や雑草がうねった。
後輩のコードを売っていたラック先輩がぐえぇぇと怒汚い声を上げて引き摺り込まれていく。
木や草が、森が牙を剥いたのだ。
HAHAHA。テオドアの白い魔報紙から覗くハイライトの無い目はひたすら虚無をうつしていた。
怖ぇ。
その場にいた全ての者が植物を畏怖した瞬間だった。


そんな訳で学園公認で登録し直したテオドアは、寮宛に来る魔報さえ受け取り拒否をする。せめて招待状だけでも受け取ってくださいと寮監が泣いていた。


それが今、折ったペラ紙みたいのが空中にいきなり現れた途端に満面笑顔だ。
自主練大好きな男が、ひゅわんと消えたのだ。

春の嵐?
クフォはつぶやいた。
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