押してダメなら引いてみるけど、恋ってやつは後戻りはできない。

たまとら

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ルゥティルと愉快な仲間たち

4 王都へ

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王都への旅は快適だった。
西辺境伯様の馬車はサスペンションバッチリで車内はふかふかな上に、ドカンと風舞花の櫃が置かれても寝転がれる程に広い。
しかも御者や護衛がおやつをくれるという至れり尽くせりな天国だった。

風舞花はときどきチェックして眠らせないと、いきなり発芽したり腐って溶けたりする。
テオドアは朝晩と状態をチェックした。
そしてヴィゼル兄と勉強した。
勿論、お届け先の侯爵様へのマナーだ。逃げ場の無い車内で、鬼教師となった次兄に叩き込まれた。

そう、ヴィゼル兄が一緒だ。
なぜかというとヴィゼル兄の後見をすると、グレゴリー様がおっしゃったからだ。
ヴィゼル兄はもうすぐ12歳で王立学園に入学する。
後見という事は衣食住の面倒みるという事だ。グレゴリー様、ぱねぇ。

ヴィゼル兄は入学にあたって、おさがりの教科書とおさがりの制服とおさがりの靴という全身おさがりコーデで荷馬車をヒッチして王都に向かうという貧乏男爵家らしい道行をするつもりだった。
それがいきなりの後援者出現だ。
当たり前だがブレイクリー家は泣いた。(感動で)
その道中に、テオドアも泣いた。(詰め込み教育で)

ヴィゼル兄は文官寄りだ。
ブレイクリー家に脈々と流れる脳筋の血脈は無茶苦茶濃く長子のジェルド兄に注がれた。おかげでヴィゼル兄の脳みそは筋肉が詰まる事なく、勉強やマナーをこなしていく。
おかげでちょっと、いやかなり厳しい。


道中は野営をちょこっと手伝うくらいで、上げ膳据え膳だ。
いいんだろうか?
そんなヴィゼル兄の戸惑いを護衛のおっさん達はぐわっはっはと濁音で笑った。
おっさん達は強面で、揃いの隊服が無かったら山賊にしか見えない。

「遠慮すんな!おやっさんグレゴリー様はヴィゼル坊が頭脳労働タイプなのにちょいと前から目え付けてたたからな!」

「出禁を解かれるために必死に脳みそ絞ってたからなぁ」

ぐわっはっはっは

なんでも上のお孫様も今度入学らしい。人当たり柔らかなヴィゼル兄をご学友にと送り込んで、機嫌をとろうと企んでいたそうだ。

なんでも上のお孫様の選定式で、グレゴリー様はやらかしたらしい。

辺境は魔獣が湧く為に長く離れられない。
子供は選定式が終わるまでほぼ屋敷の中で暮らす。
選定式に赴いたグレゴリー様は喜びのあまりにダダ漏れた魔力のままにいきなり抱き上げたらしい。

屋敷の中だけではんなり過ごして来た子供がいきなり巨体に摘み上げられて、目前に歪む傷跡と圧MAXの中…
そりゃ、白眼を剥いちゃうよね。
がっつりとお嬢様ベリアルに叱られてショボーンで帰ったグレゴリー様は、『男の子は強いのが好き』とか『かっちょいい魔獣とか贈ったら喜ぶんじゃね』とか突っ走って六腕熊や水晶蜥蜴や甲殻虎をせっせせっせと贈ったらしい。

ばっかじゃね。

確かにそれは高級食材だ。
高級素材だ。
だが血抜きしただけの馬より大きいその魔獣に、田舎の人間でもパニックだ。
はんなり王都人なんざ、恐慌モノだ。

そんな訳でみごとに出禁をくらってしまった。うんうん、英雄とかって遠くで眺めるものだよね。

下のお孫様は病弱ですぐ熱を出す。
グレゴリー様と対面したら、心の臓が引き付けて止まるかもしれないと出禁が鎖国並みにパワーアップしてしまった。

そんな時、下のお孫様が絵本で風舞花を見たそうだ。

「見てみたい」

そんな魔報を受け取って奮起しない奴がいるものか‼︎

こうして出禁解除に向けて、グレゴリー様は勝負に出たのだった。
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