押してダメなら引いてみるけど、恋ってやつは後戻りはできない。

たまとら

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ルゥティルと愉快な仲間たち

5 到着

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目的のフェラノベリア家に到着した時、田舎育ちの貧乏兄弟はぽかーんと立ち尽くした。
だって屋敷がデカいのだ。凄いのだ。美しいのだ。ブレイクリーの家なんて玄関にすっぽり収まりそうだ。
しかもずらりと使用人を侍らせて女神がいた。その横には将来モテモテ間違いなしな美少年がいる。

お嬢様ベリアルあぁっ‼︎」
おっさん達のダミ声と五体投地が無かったら、顔面偏差値に震えただろう。

「おバカっ‼︎奥様とお呼び!」

女神が怒鳴った。
グレゴリー様のお嬢様はやっぱり山賊を御す姉御だった。
屋敷の使用人達は地蔵のような微笑みでそのやり取りをみていた。




「わざわざありがとう。
この子は長男のアリスティルよ。
次男のルゥティルは今朝お熱が出てしまったので休んでいるの。」


風舞花の櫃は温室に運ばれた。

テオドアは作法通りに櫃から一握りを取り出すとゆっくり発芽させる。
握った手の中をふるふるとくすぐって蕾が綻んでいく。
そして魔力を流すと浮き上がった。
淡い虹のような八重の風舞花は、ポップコーンに似ている。それがふわふわと踊る様はとても美しい。
ほぉっと感嘆の吐息が背後の侍女達から漏れた。

「貴方が立派にお仕事をなさるのを、確かに見届けました。」

引き渡してデモンストレーションも出来て、テオドアはふうぅっと力を抜いた。
領地でグレゴリー様にOKを貰ったが、普通こんなちびっ子に高価な風舞花を任せる奴はいない。
運んでる間に気を抜いたらダメになる事もあるからだ。それはグレゴリー様がいかに領地周辺の情報を把握しているのかが良くわかった。


奥様はテオドアが四歳で選定式前なのに驚いた。

「そうね、辺境のように生活の為に力が必要な事が多い所だと選定前に力が使えても不思議は無いわね。とても見事な制御だわ」

寝込んでいるルゥティル様はもうすぐ四歳だそうだ。

お父様グレゴリーはとても強面でしょう?アリスティルに初めて会った時は大泣きだったのよ。」

ふわふわする風舞花を人差し指で優しくつつきながら、奥様はクスッと笑った。

「そりゃもうギャン泣きで、ひきつけまで起こして夜泣きが始まってしまったの。
だから身体の弱いルゥティルに会って、何かあったらって怖がってらしてね。魔報でやり取りしているのだけれど、お寂しいようなの。
ルゥティルが絵で見た風舞花を見てみたいと言ってるわ、と送った途端に大暴走よ。ご迷惑おかけしましたわね」


ヴィゼル兄はアリスティル様と波長が合ったようだ。このまま入学までここで過ごす事になった。
テオドアはルゥティルの体調が整うまで滞在して欲しいと言われた。
どうせテオドアの魔力に染まった風舞花の種だ。きっちり面倒みたいと思う。

そんな訳でテオドアは温室に日参した。
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