押してダメなら引いてみるけど、恋ってやつは後戻りはできない。

たまとら

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ルゥティルと愉快な仲間たち

6 出会う

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風舞花のチェックにと発芽させる時は、交代で手の空いた召使いが見に来る。
ふわふわ飛ぶ花にきゃっきゃして、おかげでテオドアはすんなりとお屋敷に溶け込んだ。

フェラノベリア様は公爵家で、御当主様は宰相をなさっていて忙しいそうだ。
『次男のルゥティル様はお身体が弱くてよく熱を出されるの』と、侍女が言った。
まだ四歳前だから魔力を込めて回復させる訳にもいかず、薬師が薬を煎じているという。
選定式前の魔力器官は脆い。
医師が魔力を入れると壊れてしまう事もある。相性の合わない魔力だと、器官の再生も難しくなる。

『でもずっとお具合が良くないからもうすぐ決断なさると思うわ』
そんな言葉に他の人も深刻に頷いた。
もしかして魔力器官が壊れたら、魔力器官がないのは貴族としては致命的だ。
そんな一か八かを選ばなければいけない程に、具合が悪いらしい。
確かに屋敷に来てもう3日、ルゥティル様とお会いしていない。
熱が下がらないそうだ。


手伝おうにもお客様だと言われて、テオドアは温室にいた。
自給自足の田舎者にとって暇は敵だ。
高尚な趣味も無い。
買い物に出る度胸も無い。
そんな訳で温室で自分の力を循環させている。


自然な森をイメージした温室は、落ち葉も積もっている。
木の根元にもたれると、さらさら葉ずれの音がする。
根から吸われた水がずわずわと登っていく。土の中では、入り乱れて絡まり合った根同士の縄張りを争う音が、ぐつぐつぷしぷし賑やかだ。
その中に自分を浸してあちこちから忍び寄る力を取り込んで緩く廻す。
植物の力は木々の中に自分を溶け込ませて気配を広げさせた。


小さな違和感に気付いた時、咳が聞こえた。

けふっと小さなしわぶきひとつ。
それがぐっぐっと堪えるように喉を鳴らし、げほげほになって、けんけんと乾いた咳が波のように押し寄せる。

そっと探すと低木の隙間に枯れ草が固まっていた。
ぐしぐしと涙と鼻を啜る音と、けんけんと体を殴り付ける咳。
震えるその枯れ草は、よく見ると野放図に広がる亜麻色の髪だった。


「……お花……」

テオドアに気付いて掠れる声を出した。

噂の飛ぶ花を見に来たらしい。

地面に直座りは良くないと、抱え上げた。
身体は熱であつい、そして小さくて軽い。
土がついた寝衣はテオドアの物のようなごわついた麻ではなく、ゆめりとした手触りだ。
上等な物を着ているから上級召使いの子供だろうか。二歳くらいか?

ぜろぜろ音をさせて、はあはあ肩で息をして、けんけんと咳をする。
そのたびに腕の中の小さな体は震えながら揺れている。

まぁ、チェックの発芽を見せれば良い。
花を見たら部屋に帰るんだぞと言いながら、テオドアは風舞花の種をすくった。
そのまま地面に足をのばして、ふとももの上に子供を座らせる。



「ぅわあぁぁっ」

ボサボサの枯れ草の中から萌葱色が浮き上がった。
風舞花を追って見上げた子供の白い顔が、枯れ草を脱ぎ捨てたように現れる。
熱で目尻が赤い。
薄桃色の花がくるくると回る。
それを追う白い顔は小さくて可愛くてテオドアの心がぎゅむっと鳴った。

子供が手を延ばす。
ひらりとかわして逃げようとする花をテオドアは魔力で留める。
ひらひらと揺れながら花は子供の指先に集まって、触れた途端ふゅんと消えた。

萌葱色が丸くなる。

指先に吸い込まれるように花が溶ける。
指の中に花の魔力が響いた。

ぅわんぅわんぅわん

指先から広がる。

乾いた身体に水が染み込むように、風舞花の薄桃色が身体を巡っていく。

驚いてテオドアを見上げる萌葱色の中に金色の虹彩が煌めいた。

枯れ草のようだった髪が陽を浴びて金色に揺れる。
熱で白かった頬が桃色に染まった。



花だ。

子供の笑い声がこだまする。

花が咲いた。

風舞花が身体に吸い込まれるたびに、子供が艶やかに笑っていく。

テオドアは腕の中の子供に見惚れた。
じっと見上げる萌葱色から目が逸らせなかった。
子供は風舞花を身体に吸収して、喜びに溢れた笑顔を向けた。
熱も怠さも溶け落ちて元気な子供がそこにいた。



これがルゥティルとの出会いだった。


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