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ルゥティルと愉快な仲間たち
8 ホルストの精神耐性
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ホルストは上級貴族の後継の上に、整った容姿で頭も良かった。
当たり前だが婿候補No.1だ。
生まれも育ちも王都のホルストは言質を取られぬように用心深く、ひらひらと恋の花園を飛び回っていた。
そんなホルストが五体投地マスターとなり、すぐ決壊する涙腺を持つようになったのは、ある夜会がきっかけだった。
煌びやかな夜会でホルストはさしずめ川を流れる一枚の葉の様に、令嬢令息の間をするすると渡っていた。
そんな時、卓越した空間認識能力で異変に気がついた。
会場に明らかな真空地帯がある。
辺りの人の視線がその中心に向かっているので、自分もそこを見た。
雷に打たれた様に棒立ちになった。
そこに女神がいたのだ。
遠巻きの人の壁を押し除ける。
女も男も構わず、肘を使って押し除けた。
広がるドレスを踏み付けて、ホルストはその真空地帯へと躍り出た。
たたらを踏んで飛び出したホルストを驚いたように女神が見る。
青空を映した湖のような瞳だ。
その中に自分がいる事に、溺れるような幸福感が湧き上がった。
礼を取るのも名乗るのも浮かばず、ホルストは痺れるように女神を見つめる。
その時に頭の上からドスの効いた圧が降ってきた。
「その方は何者だ⁉︎」
本能が毛を逆立てた。
見上げると自分よりあたま二つは高い男がいる。
女神だけに気を取られてその隣の男に気が付かなかったらしい。
男の碧い目は延髄まで差込むビームのようだ。怒りが見えない炎となって吹き付けた。
咄嗟に女神を庇って男ととの間に身体を入れたが、出来ることはここまでだった。
ホルストは頭脳労働者だ。
武芸は学園のカリキュラムのみ。
剣を両手で持ち上げても振り切るだけの腕力は無い。
そんなホルストが、どう見ても食物連鎖のトップと対峙しているのだ。
人を背後に隠して。
男の圧は強かった。
あ、死ぬ。すとんと悟った。
脳裏に花畑と手招きする曽祖父が見えた気がした。
自分の頭頂部から顔、胸、腹、股間と前面全身に殺意の圧が浴びせられる。
ドクドクと打ち付けるような心臓と、視界が恐怖で狭くなってくる。
賢いホルストは正しい行動は気絶する事だと瞬時に悟った。
意識を手放そうとした時、襟足に気配を感じた。
そうだ!
あの美しい人が背後にいるのだ!
自分が倒れたらこの圧は彼女に向かう。
自分が盾にならなければならないのだ!
遠くなりかけた意識を叱咤激励して、ホルストは丹伝に力を込めた。
「私はホルスト・フェラノベリアと申します」
声は情け無いほどに掠れて弱々しかった。
生まれたての鹿のように足がプルプルしている。
ほぉ。
その男はちょっと目を丸くして、ニヤリと笑った。
むっちゃ凶悪な笑顔に、ホルストは涙ぐみながらも堪える事が出来た。
女神と男が親子だと知ってから、ホルストの五体投地が始まった。
肉体言語の辺境と違い、ホルストは頭脳労働者なのだ。
今から死ぬ程鍛えても、グレゴリー様の親指と人差し指でぷちっと瞬殺される未来しか見えない。
考え抜いたホルストの攻撃は五体投地だった。攻撃というかそれしか無かった。
お付き合いを。
婚約を。
何本ものズボンをダメにし、捨て身の覚悟でしつこくしつこく食い下がった。
「わしの威圧に耐えられる者は少ない。強い物に媚びず、尻尾を丸めず。
その心意気は良い!」
なんとか認められて今に至る。
こうして女神を手に入れた。
つまりグレゴリー様と親子になったという事だ。今やホルストの精神耐性は多分王都で一番高い。
それでも涙腺はガタがきたらしく、すぐに決壊してしまうのだった。
当たり前だが婿候補No.1だ。
生まれも育ちも王都のホルストは言質を取られぬように用心深く、ひらひらと恋の花園を飛び回っていた。
そんなホルストが五体投地マスターとなり、すぐ決壊する涙腺を持つようになったのは、ある夜会がきっかけだった。
煌びやかな夜会でホルストはさしずめ川を流れる一枚の葉の様に、令嬢令息の間をするすると渡っていた。
そんな時、卓越した空間認識能力で異変に気がついた。
会場に明らかな真空地帯がある。
辺りの人の視線がその中心に向かっているので、自分もそこを見た。
雷に打たれた様に棒立ちになった。
そこに女神がいたのだ。
遠巻きの人の壁を押し除ける。
女も男も構わず、肘を使って押し除けた。
広がるドレスを踏み付けて、ホルストはその真空地帯へと躍り出た。
たたらを踏んで飛び出したホルストを驚いたように女神が見る。
青空を映した湖のような瞳だ。
その中に自分がいる事に、溺れるような幸福感が湧き上がった。
礼を取るのも名乗るのも浮かばず、ホルストは痺れるように女神を見つめる。
その時に頭の上からドスの効いた圧が降ってきた。
「その方は何者だ⁉︎」
本能が毛を逆立てた。
見上げると自分よりあたま二つは高い男がいる。
女神だけに気を取られてその隣の男に気が付かなかったらしい。
男の碧い目は延髄まで差込むビームのようだ。怒りが見えない炎となって吹き付けた。
咄嗟に女神を庇って男ととの間に身体を入れたが、出来ることはここまでだった。
ホルストは頭脳労働者だ。
武芸は学園のカリキュラムのみ。
剣を両手で持ち上げても振り切るだけの腕力は無い。
そんなホルストが、どう見ても食物連鎖のトップと対峙しているのだ。
人を背後に隠して。
男の圧は強かった。
あ、死ぬ。すとんと悟った。
脳裏に花畑と手招きする曽祖父が見えた気がした。
自分の頭頂部から顔、胸、腹、股間と前面全身に殺意の圧が浴びせられる。
ドクドクと打ち付けるような心臓と、視界が恐怖で狭くなってくる。
賢いホルストは正しい行動は気絶する事だと瞬時に悟った。
意識を手放そうとした時、襟足に気配を感じた。
そうだ!
あの美しい人が背後にいるのだ!
自分が倒れたらこの圧は彼女に向かう。
自分が盾にならなければならないのだ!
遠くなりかけた意識を叱咤激励して、ホルストは丹伝に力を込めた。
「私はホルスト・フェラノベリアと申します」
声は情け無いほどに掠れて弱々しかった。
生まれたての鹿のように足がプルプルしている。
ほぉ。
その男はちょっと目を丸くして、ニヤリと笑った。
むっちゃ凶悪な笑顔に、ホルストは涙ぐみながらも堪える事が出来た。
女神と男が親子だと知ってから、ホルストの五体投地が始まった。
肉体言語の辺境と違い、ホルストは頭脳労働者なのだ。
今から死ぬ程鍛えても、グレゴリー様の親指と人差し指でぷちっと瞬殺される未来しか見えない。
考え抜いたホルストの攻撃は五体投地だった。攻撃というかそれしか無かった。
お付き合いを。
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「わしの威圧に耐えられる者は少ない。強い物に媚びず、尻尾を丸めず。
その心意気は良い!」
なんとか認められて今に至る。
こうして女神を手に入れた。
つまりグレゴリー様と親子になったという事だ。今やホルストの精神耐性は多分王都で一番高い。
それでも涙腺はガタがきたらしく、すぐに決壊してしまうのだった。
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