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第一巻番外編
ある日の王妃 前編
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この世界はいったいどこにあるのだろう。 地球という星とはあまりにかけ離れているようにみえるが、どこか似通った世界。 たとえば動物達。地球に存在していた動物達が、不思議なことにこの世界にも存在している。 もしかしたら、二つの世界は案外近くに存在しているのかもしれない。 この世界の人間は、元は様々な動物達から進化したものだという。だからそれぞれの一族は自分達の動物を同族だと認識し、共に暮らしている。
もしかしたら二つの世界の創造主が同じなのだろうか?
だから似通った動物達がいるのかもしれない。
神々や魔法が存在し、おとぎ話というにはちょっとダークな世界に私は生きている。
どこがダークかって?
だってどのおとぎ話にもこんなにうじゃうじゃ蛇は出てこないでしょう?
不思議な縁で違う世界にて生きることになったゆりは、この世界で超美形の王様と結婚し、一族待望の王の子供を産んだのだった。この国は蛇の国なのでどこに行っても蛇がいる。今この部屋にも三匹うねうねしているくらいだ。今ではゆりもすっかりそんな生活に慣れている。
改めてこの世界に来てからのことを思い出してみると、自叙伝が出版できそうなほどの波瀾万丈ぶりだ。
まず、王妃になってしまった。御伽話では究極の玉の輿である。相手も超美形で非の打ち所がない、と言いたいところだが、王様には欠点は結構ある。普段はたいして優しくないし、抱きしめてチューもしてくれない。一緒のベッドに寝ていても「おまえがほしくて仕方がない」なんてセリフも言ったことはない。
欲望でぎらぎらした目でみられることもあんまりない。「私のこと好き?」と聞くと「好きだ」と普通の目で言ってくれる。一年中こんな性格の王様だったら、とっとと逃げていたかもしれない。ゆりの好みは超美形というわけではないからだ。超美形ながらもドライな王様だが、一年に十日だけはゆり好みの王様に変貌するのだった。だから愛してしまったのだ。この世界には赤い月というものがあって、その間にたいていの人間は子作りに励む。王様はその間だけ精力絶倫の男に変わり、愛情はメーターが振り切れるほどにMAX、その上とっても優しいのだ。これが同一人物かと疑うほどの変貌ぶりだが、その変貌した王様にゆりはころっといってしまった。そしてめでたく妊娠したのだ。
妊娠してからがまた驚きの連続だった。蛇の一族の王妃には妊娠するとある儀式をするという習慣があり、ゆりもその儀式を知らない内にやったのだ。だが、その儀式というのが思い出すだけで赤面してしまうような性的なものだった。だがなぜかその儀式をゆりは何度もやってしまった。
楽しいからやった、とは自分では思いたくはないのだが……
そのために、ゆりには親しい男性ができた。なんと五人も。王様ほどではないがそれなりに美形ぞろいだ。男達との関係は友人というものではないだろう。恋人のようなものだ。
元の世界ではなかった男運がこの世界で爆発しているのかもしれない。普通夫がいるのに五人も恋人ができるなんてことはない。
この世界で知り合った同郷のアヤコにはこのことだけは内緒にしてある。口が裂けてもいえるわけがない。同じ世界でもアヤコがいる虎の一族とこの蛇の一族は違う事が多いのだ。ガットはアヤコに日ごろからぞっこんだが、ラクシュミはゆりと男達の仲を嫉妬したりもしない。みんな平等に仲良くしろよ、と逆に言うほどだ。価値観自体違うのだ。
そんなこんなでゆりは女の子を出産した。出産してからも王様とけんかしたりもしたが、今は仲直りし、産後の体をいたわりつつまったりとした日々を過ごしているというわけだった。
自叙伝……内容が内容だけに本にできるわけないけどね……
特に儀式のことなんてかけるわけないし……
「王妃~ぼんやりして、私の話を聞いてます?」
目の前で手を振られてゆりははっと我に返った。ゆりの向かい側には先ほどから男が一人座っていたのだ。
しかも黒髪のかなりのいい男である。名前はミカエル。
元の世界ならば腕を組んで街を一緒に歩いてほしいほどの美形顔だった。夫であるラクシュミの顔は整っていて神様のように美しいが、ゆりの好みとしては、男らしさを感じるミカエルの方が上だった。元の世界で映画の俳優にしたいほどだ。
「ごめーん、ミカエルの顔を眺めていたら、ついトリップしてたよ」
ゆりは頭をかいて言った。
「とりっぷ?」
「この世界に来てからのこといろいろ思い出してたの」
「ああ、私との愛の歴史を思い出していたんですか」
ミカエルは少しほほえんですらりと言った。
「別にそういうわけじゃないけど……」
「いいんですよ。照れなくても」
「照れてないけど……」
五人の恋人のうちの一人がなんとこのミカエルだった。ゆりとしては恋人よ、と断言しているわけではないのだが、ミカエルの方は恋人、しかも自分が一番の恋人だと自負しているようだ。ゆりとしてはうれしい反面、時々迷惑でもある。
いや、迷惑だなどと言ったら罰があたるだろう。この場合「ありがとう」とお礼を言うべきなのかもしれない。ゆりの外見は超美人というわけではない。しかも、この一族の女性と比べると、少々スタイルに見劣りするからだ。それでも男達はみんなゆりの事を大事に想ってくれているのだからありがたいことだ。
「それで何のお話してたっけ?」
「王妃のおかげで最近国の中が明るくなってうれしいというお話ですよ」
「そう、毎日みんなに言われるよ」
「いくら言ってもいい足りないですよ。王妃にはほんと感謝していますよ。みんな」
ミカエルは女性を悩殺するような笑みを浮かべて告げた。ミカエルに会ったばかりならばゆりもくらくらっといってしまったかもしれない。
数年経った今では「目の保養ねー」と眺める余裕がある。ゆりが王の子供を産んでから数ヶ月、街の方ではまだお祝いムードのようだ。
「王も最近笑顔が多くて、私もうれしいんですよ」
「本当?」
「本当ですよ」
「そうなんだ。私の前ではそうでもないけど」
「そんなことないでしょう。ゆりに何か褒美をやらなきゃなって言っておられましたよ」
「本当? 褒美なんて……来年の赤い月にかわいがってくれるだけでいいけど」
ゆりの頬がぽっと赤くなっていた。
「せっかくだから何かねだってみたらどうですか?」
「そうねえ、ねだってみようかな」
といっても今のゆりにほしいものは別になかった。
王妃であるゆりに物質欲というものはあまりない。願いといえば王様と一緒にいたい、とか、娘アナスターシャと三人の時間がほしいとかそういう事だろうか。だが、今はラクシュミも忙しそうだ。あんまり負担になるようなことも言えない。
夜が更けて、ゆりが王の寝室にいるとラクシュミがやってきた。アナスターシャはすでに別の部屋で眠っている。
「王様お疲れ様でした」
「ああ」
といいつつラクシュミはベッドに横になった。一日の仕事を終えたラクシュミは、今夜も疲れているようだ。
「あのー王様」
ゆりは遠慮がちに言った。
「うん?」
「ミカエルがねー王様がさ、ゆりに何か褒美をやりたいって言ってたって。そういうこと言った?」
「さあ、言ったかな?」
ラクシュミははぐらかしていた。
「もー言ったんでしょ?」
「言ったぞ。その場の勢いで」
「勢い?」
ゆりはじろりと横目でみた。ラクシュミは夜目がきくようなので見えているに違いない。
「何かほしい褒美でもあるのか? 夜以外で」
「なんで夜以外?」
「おまえは出産したばっかりなんだから、体はいたわらないとな」
「抱き寄せてキスくらいしてくれてもいいじゃない」
「いいぞ。ほら来い」
ラクシュミは手を広げた。ゆりとしては自分から言わなくてもそれくらい率先してやってほしいものだが、これが普段の王様なのだから仕方ない。
「そのくらいの褒美なら今すぐやるぞ」
「やっぱやだ! もっとすごい褒美がほしいなあ」
「ぐー……」
「もー王様ったら」
ゆりはラクシュミの腕をゆすった。
「そーだ、何かおもしろい体験がしたいな! それならいいでしょ?」
「おもしろい体験?」
「普段できないような事がしたいなあ。一番したいのは王様と街ブラデートだけどそれは無理だろうし……何がいいかな」
「城の外に出るのはだめだぞ。お祭りムードだが敵も入り込んでるからな」
「ちょっと考えてみる」
ゆりはうきうきしながら考えだした。そして考えている内にいつの間にか寝てしまった。
「おもしろい体験ですかあ……」
「そう。何かないかなあ……」
結局自分で思いつかなかったゆりは朝食の時間侍女のミラに聞いてみた。
「そうですねえ。お城の中限定ですから、楽団でも呼んでもらうか……くらいですかね」
「そうだよね。お城の中限定だもんね」
食事が食べ終わる頃侍女にだっこされたアナスターシャがやってきた
「きゃっきゃっ」
「今日もご機嫌ね。お父様には会ったのかな?」
「きゃっきゃっ」
アナスターシャはゆりの腕の中で笑っている。きらきら光る銀色の髪に金色の瞳。我が子ながら本当にかわいらしい。世界一かわいい赤ん坊じゃないかとさえ思っている。こういうのを親ばかというのかもしれない。
「まあ初めての子育てもおもしろいっちゃおもしろいけどね……」
子育てといってもほとんどのことは侍女がやってくれるのでゆりは苦労はしてはいないのだが。
せっかくだから王様がその気の時に、何か普段もらえないようなご褒美をもらいたいものだ。
午後になり優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいるとジュノーとヴィラが訪ねてきた。この二人の男達もゆりとは親しい間柄だ。
二人はおいしそうなケーキをもってきてくれたのでゆりはさっそくそれを食べる事にした。
「王妃が元気に食べているのを見るとほっとしますよ」
ジュノーがほほえんでいた。
「そうかな。ねえ、街で何かはやってることってない?」
ゆりはおもむろに聞いてみた。
「はやってることですか?」
「何かおもしろい体験がしたいんだけど、いざ考えてみると浮かばないんだなー」
「おもしろい体験といえば、王妃がこちらにやってきてから我々はずっとおもしろい体験してますけどね」
ヴィラが苦笑まじりに言っていた。おもしろいというよりも、ゆりにすれば壮絶な日々だった。
「これからもおもしろい日々かと思うと心が踊ります」
「勝手に踊ってなさいって」
「あ、そうだ。お城の北にある街に今すごく当たる占い師が店を開いてるんですよ。街の女性達が毎日長蛇の列なんですよ」
ジュノーが思い出したように言った。
「占い師?」
「一角(いつかく)の一族の者なんですよ。占いをしながら世界を旅してるようで、一月ほど店を出したいから許可がほしいと言って街の隅で小さな店を開いたんですが、評判が評判を呼んで客が詰めかけてるようですよ。あの一族は魔力がとても高い一族ですからね」
「へー占い師かあ……一角の一族って額に一本角があるんでしょ?」
「そうですよ。ちゃんと角がありましたよ。結構若い男でしたよ」
「へーいい男?」
なぜかゆりの目が輝いていたので二人は微妙な目を向けていた。しかもいつの間にやら左目が蛇の目になっている。
「男の話にはめざといですね」
ヴィラが冷ややかな目で言っていた。
「いいじゃない。いくつになってもいい男が好きなんだもーん。ねえねえいい男?」
「占い師っぽい優男ですよ。まあいい男っちゃいい男ですけど」
とジュノー。
「会いたいなー一本角が見てみたい」
蛇目のゆりはうきうきだ。
一角の国というのはこの大陸とは別の大陸にある。遙か北西に位置していて、その大陸にはこの大陸にはいない動物が色々住んでいるようだ。一角の一族は、一角獣という獣が自分達の一族なのだが、一本角が額にあれば、どの動物も大切にされているのだった。神の国にいる真っ白なユニコーンもこの国にはいるらしい。
ゆりの左目が元に戻った。
「よし、きーめた! その占い師の人を城に呼んでもらおう!」
ゆりが宣言した。
「うーん、王がお許しになりますかねえ」
ジュノーはこの話を出した事をちょっと後悔していた。
「一角の国と龍の国ってそんなに親しくないんでしょ?」
「まあそうですけど、何があるかわからないですからねえ」
「まあだめならだめでしょうがないよ。占い師の人に占ってもらうっておもしろそうだし。こういう世界なら王様つきの占い師とかいそうだけど、いないんだね」
「昔はいたようですけどね。王がだめって言っても怒らないでくださいね」
「うん」
「ところで何を占ってもらうんですか?」
ヴィラが聞いた。
「占いといったらそりゃ……恋愛関係?」
ゆりは首をかしげつつ告げた。
「誰とのです?」
「そりゃ王様に決まってるじゃない」
「そんなの占わなくてもわかりますよ」
ヴィラに鼻で笑われた。
「そんなのわからないでしょ。王様がかわいい女の子に走るかもしれないじゃない」
「そういうのが聞きたいんですか?」
「聞きたくないよ。まあようは大丈夫って言われて安心したいの。それが女心ってもんなの」
「はあ……」
「そういうもんですか」
二人は腑に落ちない顔つきで部屋を出て行った。
まあ占いというよりは、ただ一角の一族の人がみてみたいってのもあるけどね
国のことをいろいろ聞いてみるのもおもしろそうだし……
一角の国、なんてゆりは一生行く事はないだろう。この国でも行ったことがある人がいるかどうかもわからない。それほど遠い所にある国なのだ。
今のゆりは別にラクシュミとの関係に悩んでいるわけでもなかったので、占いは正直どうでもよかった。評判の占い師というのに会ってみたいという好奇心の方が強かったのだ。
ラクシュミにお伺いを立てたところ、ちょっと考えた後に「まあいいだろう」と言ってくれた。
他の一族の人を城に呼ぶのは無理かもと思っていたゆりはやったやったと喜んだのだった。
もしかしたら二つの世界の創造主が同じなのだろうか?
だから似通った動物達がいるのかもしれない。
神々や魔法が存在し、おとぎ話というにはちょっとダークな世界に私は生きている。
どこがダークかって?
だってどのおとぎ話にもこんなにうじゃうじゃ蛇は出てこないでしょう?
不思議な縁で違う世界にて生きることになったゆりは、この世界で超美形の王様と結婚し、一族待望の王の子供を産んだのだった。この国は蛇の国なのでどこに行っても蛇がいる。今この部屋にも三匹うねうねしているくらいだ。今ではゆりもすっかりそんな生活に慣れている。
改めてこの世界に来てからのことを思い出してみると、自叙伝が出版できそうなほどの波瀾万丈ぶりだ。
まず、王妃になってしまった。御伽話では究極の玉の輿である。相手も超美形で非の打ち所がない、と言いたいところだが、王様には欠点は結構ある。普段はたいして優しくないし、抱きしめてチューもしてくれない。一緒のベッドに寝ていても「おまえがほしくて仕方がない」なんてセリフも言ったことはない。
欲望でぎらぎらした目でみられることもあんまりない。「私のこと好き?」と聞くと「好きだ」と普通の目で言ってくれる。一年中こんな性格の王様だったら、とっとと逃げていたかもしれない。ゆりの好みは超美形というわけではないからだ。超美形ながらもドライな王様だが、一年に十日だけはゆり好みの王様に変貌するのだった。だから愛してしまったのだ。この世界には赤い月というものがあって、その間にたいていの人間は子作りに励む。王様はその間だけ精力絶倫の男に変わり、愛情はメーターが振り切れるほどにMAX、その上とっても優しいのだ。これが同一人物かと疑うほどの変貌ぶりだが、その変貌した王様にゆりはころっといってしまった。そしてめでたく妊娠したのだ。
妊娠してからがまた驚きの連続だった。蛇の一族の王妃には妊娠するとある儀式をするという習慣があり、ゆりもその儀式を知らない内にやったのだ。だが、その儀式というのが思い出すだけで赤面してしまうような性的なものだった。だがなぜかその儀式をゆりは何度もやってしまった。
楽しいからやった、とは自分では思いたくはないのだが……
そのために、ゆりには親しい男性ができた。なんと五人も。王様ほどではないがそれなりに美形ぞろいだ。男達との関係は友人というものではないだろう。恋人のようなものだ。
元の世界ではなかった男運がこの世界で爆発しているのかもしれない。普通夫がいるのに五人も恋人ができるなんてことはない。
この世界で知り合った同郷のアヤコにはこのことだけは内緒にしてある。口が裂けてもいえるわけがない。同じ世界でもアヤコがいる虎の一族とこの蛇の一族は違う事が多いのだ。ガットはアヤコに日ごろからぞっこんだが、ラクシュミはゆりと男達の仲を嫉妬したりもしない。みんな平等に仲良くしろよ、と逆に言うほどだ。価値観自体違うのだ。
そんなこんなでゆりは女の子を出産した。出産してからも王様とけんかしたりもしたが、今は仲直りし、産後の体をいたわりつつまったりとした日々を過ごしているというわけだった。
自叙伝……内容が内容だけに本にできるわけないけどね……
特に儀式のことなんてかけるわけないし……
「王妃~ぼんやりして、私の話を聞いてます?」
目の前で手を振られてゆりははっと我に返った。ゆりの向かい側には先ほどから男が一人座っていたのだ。
しかも黒髪のかなりのいい男である。名前はミカエル。
元の世界ならば腕を組んで街を一緒に歩いてほしいほどの美形顔だった。夫であるラクシュミの顔は整っていて神様のように美しいが、ゆりの好みとしては、男らしさを感じるミカエルの方が上だった。元の世界で映画の俳優にしたいほどだ。
「ごめーん、ミカエルの顔を眺めていたら、ついトリップしてたよ」
ゆりは頭をかいて言った。
「とりっぷ?」
「この世界に来てからのこといろいろ思い出してたの」
「ああ、私との愛の歴史を思い出していたんですか」
ミカエルは少しほほえんですらりと言った。
「別にそういうわけじゃないけど……」
「いいんですよ。照れなくても」
「照れてないけど……」
五人の恋人のうちの一人がなんとこのミカエルだった。ゆりとしては恋人よ、と断言しているわけではないのだが、ミカエルの方は恋人、しかも自分が一番の恋人だと自負しているようだ。ゆりとしてはうれしい反面、時々迷惑でもある。
いや、迷惑だなどと言ったら罰があたるだろう。この場合「ありがとう」とお礼を言うべきなのかもしれない。ゆりの外見は超美人というわけではない。しかも、この一族の女性と比べると、少々スタイルに見劣りするからだ。それでも男達はみんなゆりの事を大事に想ってくれているのだからありがたいことだ。
「それで何のお話してたっけ?」
「王妃のおかげで最近国の中が明るくなってうれしいというお話ですよ」
「そう、毎日みんなに言われるよ」
「いくら言ってもいい足りないですよ。王妃にはほんと感謝していますよ。みんな」
ミカエルは女性を悩殺するような笑みを浮かべて告げた。ミカエルに会ったばかりならばゆりもくらくらっといってしまったかもしれない。
数年経った今では「目の保養ねー」と眺める余裕がある。ゆりが王の子供を産んでから数ヶ月、街の方ではまだお祝いムードのようだ。
「王も最近笑顔が多くて、私もうれしいんですよ」
「本当?」
「本当ですよ」
「そうなんだ。私の前ではそうでもないけど」
「そんなことないでしょう。ゆりに何か褒美をやらなきゃなって言っておられましたよ」
「本当? 褒美なんて……来年の赤い月にかわいがってくれるだけでいいけど」
ゆりの頬がぽっと赤くなっていた。
「せっかくだから何かねだってみたらどうですか?」
「そうねえ、ねだってみようかな」
といっても今のゆりにほしいものは別になかった。
王妃であるゆりに物質欲というものはあまりない。願いといえば王様と一緒にいたい、とか、娘アナスターシャと三人の時間がほしいとかそういう事だろうか。だが、今はラクシュミも忙しそうだ。あんまり負担になるようなことも言えない。
夜が更けて、ゆりが王の寝室にいるとラクシュミがやってきた。アナスターシャはすでに別の部屋で眠っている。
「王様お疲れ様でした」
「ああ」
といいつつラクシュミはベッドに横になった。一日の仕事を終えたラクシュミは、今夜も疲れているようだ。
「あのー王様」
ゆりは遠慮がちに言った。
「うん?」
「ミカエルがねー王様がさ、ゆりに何か褒美をやりたいって言ってたって。そういうこと言った?」
「さあ、言ったかな?」
ラクシュミははぐらかしていた。
「もー言ったんでしょ?」
「言ったぞ。その場の勢いで」
「勢い?」
ゆりはじろりと横目でみた。ラクシュミは夜目がきくようなので見えているに違いない。
「何かほしい褒美でもあるのか? 夜以外で」
「なんで夜以外?」
「おまえは出産したばっかりなんだから、体はいたわらないとな」
「抱き寄せてキスくらいしてくれてもいいじゃない」
「いいぞ。ほら来い」
ラクシュミは手を広げた。ゆりとしては自分から言わなくてもそれくらい率先してやってほしいものだが、これが普段の王様なのだから仕方ない。
「そのくらいの褒美なら今すぐやるぞ」
「やっぱやだ! もっとすごい褒美がほしいなあ」
「ぐー……」
「もー王様ったら」
ゆりはラクシュミの腕をゆすった。
「そーだ、何かおもしろい体験がしたいな! それならいいでしょ?」
「おもしろい体験?」
「普段できないような事がしたいなあ。一番したいのは王様と街ブラデートだけどそれは無理だろうし……何がいいかな」
「城の外に出るのはだめだぞ。お祭りムードだが敵も入り込んでるからな」
「ちょっと考えてみる」
ゆりはうきうきしながら考えだした。そして考えている内にいつの間にか寝てしまった。
「おもしろい体験ですかあ……」
「そう。何かないかなあ……」
結局自分で思いつかなかったゆりは朝食の時間侍女のミラに聞いてみた。
「そうですねえ。お城の中限定ですから、楽団でも呼んでもらうか……くらいですかね」
「そうだよね。お城の中限定だもんね」
食事が食べ終わる頃侍女にだっこされたアナスターシャがやってきた
「きゃっきゃっ」
「今日もご機嫌ね。お父様には会ったのかな?」
「きゃっきゃっ」
アナスターシャはゆりの腕の中で笑っている。きらきら光る銀色の髪に金色の瞳。我が子ながら本当にかわいらしい。世界一かわいい赤ん坊じゃないかとさえ思っている。こういうのを親ばかというのかもしれない。
「まあ初めての子育てもおもしろいっちゃおもしろいけどね……」
子育てといってもほとんどのことは侍女がやってくれるのでゆりは苦労はしてはいないのだが。
せっかくだから王様がその気の時に、何か普段もらえないようなご褒美をもらいたいものだ。
午後になり優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいるとジュノーとヴィラが訪ねてきた。この二人の男達もゆりとは親しい間柄だ。
二人はおいしそうなケーキをもってきてくれたのでゆりはさっそくそれを食べる事にした。
「王妃が元気に食べているのを見るとほっとしますよ」
ジュノーがほほえんでいた。
「そうかな。ねえ、街で何かはやってることってない?」
ゆりはおもむろに聞いてみた。
「はやってることですか?」
「何かおもしろい体験がしたいんだけど、いざ考えてみると浮かばないんだなー」
「おもしろい体験といえば、王妃がこちらにやってきてから我々はずっとおもしろい体験してますけどね」
ヴィラが苦笑まじりに言っていた。おもしろいというよりも、ゆりにすれば壮絶な日々だった。
「これからもおもしろい日々かと思うと心が踊ります」
「勝手に踊ってなさいって」
「あ、そうだ。お城の北にある街に今すごく当たる占い師が店を開いてるんですよ。街の女性達が毎日長蛇の列なんですよ」
ジュノーが思い出したように言った。
「占い師?」
「一角(いつかく)の一族の者なんですよ。占いをしながら世界を旅してるようで、一月ほど店を出したいから許可がほしいと言って街の隅で小さな店を開いたんですが、評判が評判を呼んで客が詰めかけてるようですよ。あの一族は魔力がとても高い一族ですからね」
「へー占い師かあ……一角の一族って額に一本角があるんでしょ?」
「そうですよ。ちゃんと角がありましたよ。結構若い男でしたよ」
「へーいい男?」
なぜかゆりの目が輝いていたので二人は微妙な目を向けていた。しかもいつの間にやら左目が蛇の目になっている。
「男の話にはめざといですね」
ヴィラが冷ややかな目で言っていた。
「いいじゃない。いくつになってもいい男が好きなんだもーん。ねえねえいい男?」
「占い師っぽい優男ですよ。まあいい男っちゃいい男ですけど」
とジュノー。
「会いたいなー一本角が見てみたい」
蛇目のゆりはうきうきだ。
一角の国というのはこの大陸とは別の大陸にある。遙か北西に位置していて、その大陸にはこの大陸にはいない動物が色々住んでいるようだ。一角の一族は、一角獣という獣が自分達の一族なのだが、一本角が額にあれば、どの動物も大切にされているのだった。神の国にいる真っ白なユニコーンもこの国にはいるらしい。
ゆりの左目が元に戻った。
「よし、きーめた! その占い師の人を城に呼んでもらおう!」
ゆりが宣言した。
「うーん、王がお許しになりますかねえ」
ジュノーはこの話を出した事をちょっと後悔していた。
「一角の国と龍の国ってそんなに親しくないんでしょ?」
「まあそうですけど、何があるかわからないですからねえ」
「まあだめならだめでしょうがないよ。占い師の人に占ってもらうっておもしろそうだし。こういう世界なら王様つきの占い師とかいそうだけど、いないんだね」
「昔はいたようですけどね。王がだめって言っても怒らないでくださいね」
「うん」
「ところで何を占ってもらうんですか?」
ヴィラが聞いた。
「占いといったらそりゃ……恋愛関係?」
ゆりは首をかしげつつ告げた。
「誰とのです?」
「そりゃ王様に決まってるじゃない」
「そんなの占わなくてもわかりますよ」
ヴィラに鼻で笑われた。
「そんなのわからないでしょ。王様がかわいい女の子に走るかもしれないじゃない」
「そういうのが聞きたいんですか?」
「聞きたくないよ。まあようは大丈夫って言われて安心したいの。それが女心ってもんなの」
「はあ……」
「そういうもんですか」
二人は腑に落ちない顔つきで部屋を出て行った。
まあ占いというよりは、ただ一角の一族の人がみてみたいってのもあるけどね
国のことをいろいろ聞いてみるのもおもしろそうだし……
一角の国、なんてゆりは一生行く事はないだろう。この国でも行ったことがある人がいるかどうかもわからない。それほど遠い所にある国なのだ。
今のゆりは別にラクシュミとの関係に悩んでいるわけでもなかったので、占いは正直どうでもよかった。評判の占い師というのに会ってみたいという好奇心の方が強かったのだ。
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「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
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