ダークファンタジア番外編

ノクターン

文字の大きさ
51 / 119
13部 番外編

やれやれ(5話番外編)

しおりを挟む
 聖地は春の陽気で穏やかな日々が続いている。北のアシュラン神殿の方の景色も彩りが鮮やかになってきた。神殿の外には色鮮やかなクジャクが羽を広げている。ジャックの羽は年末には抜けていたが、今はすっかり羽もそろっている。外には金色のメスクジャクたちもいたのだが、クーガや他の神官達の興味は、そのメスクジャクたちが産んだ卵にあった。もしかしたら、そのうちの何個かはジャックの子供の可能性があるのだ。色彩鮮やかなクジャクが増えたら面白いのだが、とみな期待してクジャクの卵の孵化を待ち浴びている。

 5の月5日、今日はクーガは聖地の南部の教会にいた。クーガはアシュラン神殿で定期的に神様の話をしているが、主には南の皆が住んでいるあたりにある教会に出向いている。外からみるとそんなに大きくはない教会だが、中に入ると神々のステンドグラスが壁一杯に並び、なかなか豪華な造りである。一番広い聖堂には50人ほどが座れる椅子があったが、今一番前に図体がでかい男が座っていたので、その男の後ろを避けるようにして皆座っていた。今日は30人ほどが集まっている。
 クーガは(やれやれ)と思いながら神様の話をした。それが終わってから、図体がでかい男に声をかけたのだった。
「フウガ、毎回言ってますが……」
「はやいものがちですー」
 とフウガという男が先に答えていた。身長が2メートルもあるかというこの男、虎の一族のように筋肉質な体格だが茶色い耳と尻尾がある。
「あなた視力がいいんですから後ろでも見えるでしょうに」
「クーガ様、大丈夫ですよ。フウガさんの好きにさせてあげてください」
街の皆さんは怒りもしない。もう慣れているようである。
「クーガ様大好きのフウガさんは、我々の仲間ですから」
「なっ♪」
「はあ……」
クーガはため息をついた。クーガはその美しい風貌のせいで女性にも人気があるが、男性のファンも結構いる。老若男女皆クーガが好きだ。実際ファンクラブがあり、その会報ではクーガの予定が載っているらしい。クーガにすれば困ったものである。

 クーガはその後、聖地の小学校に行っていた。大人相手の説法よりも子供に勉強を教えたりする方がクーガは好きだった。純粋な子供に接していると癒やされるからである。対岸のノイトラールの小学校にもたまに行っている。
 今日は大きい子供達に算数を教えて、教室の外に出るとでかい男が待っていた。
「クーガ様、これから一緒にご飯食べましょう。俺、おごりますからー」
 待っていたのはフウガである。
「私は外ではあまり食べないんです」
「いいじゃないですかー」
「あなた最近よく会いますが、もしかして、仕事がクビになったんじゃないでしょうね」
「違いますよ。でかい仕事が今ないんですよ。個人の家造りとかならあるんですけど、そっちはつまらないんで、今はシュミに没頭しようかなと」
 フウガの趣味はクーガに会うことなので、クーガにすればうっとおしいことこの上なかった。
「暇な内に勉強しなさいよ」
「してますよ。俺ヨハンさんの弟子目指してますから」
「本当ですか?」
 クーガは疑いの眼差しを向けている。ヨハンはでかい建築物の設計者第一人者である。蛇の国の教会も彼が設計図を書いてくれたのだ。
「本当ですよ。ヨハンさんも勉強しろっていうんで、ちゃんと勉強してます」
「ならいいですが、私は神殿に戻ります」
 クーガは瞬間移動で神殿に戻ってしまった。

 その次の日、聖地は雨だった。クーガは対岸のノイトラールの小学校にいた。小学校から出ると、またフウガが待っていた。他にも3人の女性がいて、「本当にいらしたわ」「きゃーうれしい!」などと言っている。

「クーガ様、握手してください!」
「私もお願いします!」
 クーガは仕方なく女性3人と握手した。フウガが「俺も」と手を出したので、クーガはその手をはたいている。
「今日の予定も会報に載ってるんですか? 私の予定を流してるのはだれだ」
 クーガはむっとして言っていた。
「会長が神官長に聞いてるみたいですよ。神官長、親切ですよね」
「神官長!?」
「まあいいじゃないですか。会員が全員集まるわけじゃないし、今会員番号は853番までいってますよ。ちなみに俺は633番です」
「そんなにいるんですか?」
 クーガは驚いていた。
「400番くらいまでの人はもう死んでますからね」
「あ、そう……」
「私753番です」
「私は780番です」
「私は777番です。ゾロ目記念でクーガ様の色紙をいただきました♪」
 女の子がうれしそうに言っていた。
(そんなの書いたっけ?)
「覚えがないですが……」
 クーガは首をかしげている。
「サインはできないんです、とおっしゃったので、メリアへ、今日もがんばってください、と書いていただきました! 毎朝それを見てがんばってます!」
「あ、それは覚えてます」
「家宝です!」
「そうですか……フウガ、あなたはいつまで暇なんですか?」
 クーガは横で尻尾を振っているフウガに聞いた。
「親方が、次のでかい仕事はまだ先だって言ってたかなあ」
「はあ……あとでちょっと神殿に来なさい」
「やった! すぐ行きます」
 とフウガは喜んでいた。

 クーガは瞬間移動で聖地に戻ったのだが、その2時間後にはフウガは神殿にやってきていた。
「クーガ様きましたー!」
 とフウガは尻尾を振りまくっている。小さければかわいいのだが、図体がでかいので全くかわいくなかった。
「あなたに仕事をあげたいと思います。とりあえず2ヶ月ほど、蛇の国で働いてください。そこでは新しい教会を作ってるんですよ。教会はヨハンが設計したので、勉強にもなります」
「蛇? 蛇ってどこだっけ?」
「龍の南の方にあります」
「へー行ったことないや。でもクーガ様が仕事をくれるなんてうれしいなあ」
「給料も私が支払います」
「え? クーガ様がお金をくれるんですか? すごいな。そこまで俺のことを心配してくれてるなんて、感激です」
 フウガはうれしそうな顔付きだった。
「蛇の国なので、蛇を殺すのは禁止ですが、そこ大丈夫ですか?」
「蛇、踏んじゃだめ?」
「だめですよ。踏んでも食べてもだめです」
「わかりました。ちゃんと食べ物があれば、蛇は食べません」
 フウガは胸を張っている。
「食べ物はでますよ。お金もあげますから、足りなかったら買って食べてください」
「了解です」
 フウガは親指を立てていた。

 こんなわけで、フウガは蛇の国にやってきたというわけだった。フウガの風貌は珍しいので、街の人達は結構話しかけてきて、いろんな食べ物を差し入れたりするのだった。フウガは喜んで受け取っている。宿や現場でもちゃんと食事は出ているし、食事も虎の一族用なのか結構な肉が出てくるので食べ物には不自由してなかった。蛇を捕まえて食べることは今のところなさそうだ。とにかく聖地から来たというのが皆には珍しく、現場の連中も聖地の話などを聞きたがった。フウガは聖地の話ついでにクーガのことをヨイショしまくっている。

「クーガ様がこの仕事をくれたんですよ。俺のことをいつも考えてくれてるんですよ。ほんといい人ですよ。クーガ様は」
フウガはまるっきりの好意でクーガがこの仕事をくれたと思っていたので、みんなにその話をしていた。
「俺を大工にしたのもクーガ様なんですよ。将来何をしようかなーと思ってて、神官ってガラじゃないし、ノイトラールで用心棒でもしようかなって思ってたら、クーガ様は、大工はどうかって。力仕事だし、人のためにもなるって。大工、やってみたら結構面白くなって、普通の家とかだったら造れるようになったんですよ。俺細かい仕事も結構好きみたいで、クーガ様見抜いてたのかなーやっぱりすげえよな。あの人は」
「すごいねー」
と答えていたのは街の子供である。大人にまじって子供もフウガの話を聞いていた。
「教会の模型図をみせてもらったんだけど、ヨハンさんのことだから内装はすっげえ凝ってるんだろうな。俺内装もやりてえなあ。2ヶ月じゃ無理だな。延長してもらおうかな」
「してもらいなよ。僕たちフウガさんにもっといてほしいよ」
「そっかあ? 教会の肝は内側だよなあ。とりあえずは、建物が建ってからだよな」
フウガも周りの者達も、将来の教会を予想して目を輝かせていたのだった。

 聖地では、クーガはフウガがいなくなったので落ち着いた日々だったが、いなけりゃいないで心配もある。

「もし彼が問題を起こしたら即引き取りますから、その時は聖地に手紙を飛ばしてください」
とクーガはフリットに言ってあった。
 クーガは聖地でフウガをやとっている親方に一応確認を取っていたが、「あいつは自分と同等のがたいがいい男としか喧嘩しねえし、大丈夫ですよ」と言っていた。
「陽気なやつだから、他でもうまくやるでしょう」
とも。

(一月ほど経ったらフリットさんに手紙を飛ばして状況を聞くか。そうしよう)

 クーガの部屋がノックされた。出ると、神官仲間が目を輝かせていた。
「クジャクの卵が孵りましたよ。2羽、ジャックみたいな子が」
「本当ですか?」
 クーガはあわてて神殿の外に出た。雛は5羽いたが、ちょこちょこいろいろな色がついたクジャクが2羽いた。
「ジャック、やったじゃないですか」
 クーガが喜んでクジャクのジャックに言うと、ジャックもうれしげに胸を張っていたのだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...