妖精王の味

うさぎくま

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27、想いの確認

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 ダリアに案内された部屋は、とても綺麗で凛音の好きが凝縮した場所。
 今からガッツリとエティエンヌフューベルと性行為するのだろうが、それを忘れてしまうほどの美しさだった。

 一言でいうと華美。


「わぁぁぁぁー、綺麗っ!! 目がチカチカするのが、また素敵!!」

 エティエンヌフューベルに下ろしてくれと頼み、地面に足を付けた瞬間、凛音は駆け出した。

 まずは壁、白漆喰なのか。塗り方が独特で塗った後がまるで模様のようになっている。

 まるで日本庭園を壁に貼り付けたようだった。白のみの凹凸模様が、室内に入る光の印影で見事に浮き上がり圧巻。時間がたつにつれて、凹凸の影も変わり目を楽しませるのだろう。

 壁の近くまでいき、上を見上げれば、その芸術的な模様は天井まで続いており、天井はなんと絵画になっていた。

 見た事がある。この素晴らしい作品は!!


「天井画!! わぁぁぁぁー!!! まさに、システィーナ礼拝堂の天井画!!! これは凄いっ!!!」

「シス…? 礼拝、堂? あ、天草様??」 


 不思議たっぷりのダリアの声を、凛音は一応耳にひろえてはいるが、それは遠く。理解するまでは脳に入らない。

 大興奮に部屋を歩いては見て、見上げて喚き、そしてカーテンや置物までくまなく鑑賞する凛音の目は輝いていた。


「凛音は、こういうのが好きなのか?」

「好きです!! 好き!! 大好きです!!」

「そうか…これが好きなら、我が国の部屋では物足りないだろう。殺風景に思うか…。
 この部屋のように模様替えするか?」

「え?」


 キョトンとする凛音の頬に手を添え、エティエンヌフューベルは凛音のモチ肌感触を楽しむ。
 撫でられた凛音はくすぐったい顔をしながらも、大好きだと嬉しいと読み取れる表情で、こちらを見つめてくる。

(良い顔だ…)

 エティエンヌフューベル《王》と凛音《王妃》の寝室は、初めて身体を繋げた日に、凛音の体液を他人に触らせない為だけに溶かした。

(…本来の寝室は私が全てを溶かしたからな。作り直すのは簡単だ)


 物騒な発言は心の中だけで言葉にするエティエンヌフューベル。この容赦無い行動や思考だけでなく、凛音にはまだまだ隠し事が多い。

 エティエンヌフューベルは妖精族の当たり前を話す事がこれほど難しいとは、思わなかったのだ。

(凛音…)


 今の凛音は、エティエンヌフューベルを好む異性と見ているし、見つめれば決まってトロンとした目になる。
 この凛音の姿は、見れば見るほどエティエンヌフューベルの『私は凛音に愛されている』という確固たる自信につながっていた。

 しかし現在の状態をエティエンヌフューベルが手放しでは喜べないのは、最初の無視を貫く凛音の態度をしっかり覚えているからだ。


(両性具有も、精液酒キャラメルマキアートも、私は凛音に黙っている…。
 黙っていて、執念深く精液酒を飲ましては、凛音が美味しいと言う言葉に、安心をしている…。
 嫌われないよう話すのは、どうしたらいいか…いつまで、どこまで、黙っていようか…)


 異世界人の凛音との未来は、薄い氷の上に成り立っている。エティエンヌフューベルは凛音しか愛せないが、凛音はエティエンヌフューベル以外でも愛せるし子孫を残せる。

 それはとてつもなく恐ろしい現実と理解しつつも、凛音の子供のようにはしゃぐ姿に、口の端が自然に持ち上がり、笑みが溢れる。


「凛音の好みに部屋を変えよう」

 凛音からの返答がない(エティエンヌフューベルに見惚れて思考が止まっている)のでエティエンヌフューベルは優しく提案してみた。

 ポーと、エティエンヌフューベルに見惚れていた凛音は現実に戻るべく目をパチパチさせる。


(おっと、危ない危ない、エティエンヌフューベル様が綺麗過ぎて、また思考回路がショートしてたわ)

 クスクス笑うエティエンヌフューベルに、凛音は首を横に振る。



「エティエンヌフューベル様との部屋は、何もなくていいです」

「何故だ? この部屋の装飾が好きなのだろう?」

「もちろん、どれも私好みですし、あちらの世界で好きだった建造物に似ていたから好きなんです。
 それにキラキラしいのはエティエンヌフューベル様だけで満足です。部屋までキラキラしいのはいりません。目が疲れます」


 頭を左右に振りながら、ふぅーと溜め息までついた凛音にエティエンヌフューベルは眉根を寄せる。


「……褒められて…いるのか? 遠回しに私の見目は目障りだと言いたいのか?」

「えーーー!? 捻くれてますよ! もちろん褒めてます。私がエティエンヌフューベル様をガン見しては、見惚れて『ポー』となっているのご存知ですよね?」

「知っている。それでも…(不安なんだ)」

 言葉が続かないエティエンヌフューベルに、凛音が先を待つ。大人な凛音はそこで、急かしたりはしない。

 エティエンヌフューベルの言葉を静かに待っていると、やっと紡いだ言葉は名前だけ。



「…凛音は…(今、幸せか?)」

 エティエンヌフューベルはそう聞くのが恐い。きっと凛音は『幸せ』だと話すに違いない。

 幸せだと言ったその顔は確実に泣きそうな顔で。それでも表情は、微笑みを貼り付けて。
 心を押し殺す凛音の表情がエティエンヌフューベルには一番堪えるのだ。

 感情のまま行動をし、言葉を放つこの世界の住人の方が、格段に分かりやすい。

 本能に忠実なこの世界のヒトらには、凛音のように感情を押し殺す性格は、ほぼ存在しない。皆が己の心に忠実でありどこまでも自由なのだ。

 黙ったエティエンヌフューベルの聞きたいだろう台詞を推測した凛音は、自然に言葉を返す。


「エティエンヌフューベル様、私は幸せですよ!」

「……凛音…」

 泣きそうな顔を見せてくるエティエンヌフューベルに、またも心臓を撃ち抜かれ天井知らずに惚れ直していく。


「私はエティエンヌフューベル様に会いに来ました。遠くの遠くの、全く違う世界から!」

「そうだな…。全てを失って」

「私はずっと結婚したかった。好きすぎて堪らないって人と出会いたかった。いい年して、それでも諦められなかった。
 周りは結婚していくし、変な知識ばかり増えて、胸が苦しく恋する気持ちなんて、遠に忘れてました」


 頬に赤みが増すのが分かる。凛音は恥ずかしくて、身体中がムズムズしてしまう。

(股を広げてエッチするより、告白の方が恥ずかしいなんて、ダメな大人真っ只中だわ)


 自己分析しながらも、凛音は確信していた。エティエンヌフューベルに出会えた幸せは、全てを失っても余りある。

 瞳を合わせたまま、初めての告白を実行する。


「エティエンヌフューベル様、愛してます」

 恥ずかしい。もう凛音の顔は林檎のごとく真っ赤だろうが、ここで視線を外せば意味がない。

 身体はとうに繋がり合い、性行為中には「好き」とか「気持ちいい」、「エティエンヌフューベル様だけ」とかほざきまくったが、面と向かって『愛している』など口にするのは初めてだ。


「……」

 緊張で待っていた返答。返ってきたのは言葉ではなく美しい唇だった。

「むぐっ」

 覆いかぶさってきたエティエンヌフューベルは、凛音の首に手を固定させ上を向かせ、鼻が当たらないよう(凛音の鼻は低いがエティエンヌフューベルの鼻は高い為)に斜めに唇を付けてくる。

 確認するように、ゆっくりと唇の真ん中が当たりじわじわと唇が押し当てられていく。

 勢いよくされるキスとは違い、生々しい行為一つ一つを身体に覚えさせるようにしてくるのだ。


(エティエンヌフューベル様だけだ…こんな…優しくて長いキスは……気持ちぃぃ…)


 性行為も長ければ口づけも長い。

 そう言えば、案内してくれたダリア妃はと、気になる。

 口づけ以外に意識がいった凛音に、エティエンヌフューベルは答えた。無論、唇は軽く当たったまま。


「部屋には、私達だけだ」

「…んっ」

「いやか?」

「ぅんんっ」

 唇を当てながら話す行為になれない凛音は、沸騰しそうだった。

 無視がしたい訳ではない為、身体をエティエンヌフューベルに密着させ、腕を腰に回し背中の窪み辺りの衣服を握った。

 腹辺りを押し返す、エティエンヌフューベルの男らしい巨根の熱さと硬さを、肉体で感じれば頭はパンクする。


「凛音!? っと…」

 ぐにゃりと力が抜けた凛音の身体。柔らかな身体はエティエンヌフューベルに捧げられた宝物のようだ。


「全く、いいところで気絶するのは確信犯か?」


 意識を手放した凛音は問いに答えない。

 ぐにゃぐにゃになった愛しい身体を危なげなく抱き上げ、部屋の真ん中に鎮座するドッシリとしたソファーへ歩いていき、そこに腰を下ろす。

 ソファーの前にはテーブルがあり、金色に輝く壺とそれに合わせて作ったグラスが用意されていた。

 凛音とイチャイチャしている時に、一度部屋から出たダリアがまた入室し、何やらテキパキ動いていたのは〝これ〟かと理解した。


「なるほどな、精液酒を入れる壺と、飲む為のグラスか」

(凛音は失神しているからちょうどいい)


 凛音の唇に口づけをし、眠っているのを再度確認した後、凛音を左腕一本で抱きしめ己の身体に密着させる。

 反対側の手で股間部を開放し、いきり勃った巨根から精液酒キャラメルマキアートを絞り出す。


「……凛音。早く、飲んでくれ」


 上半身は神のごとく穏やかに微笑み、凛音に優しい口づけを送るエティエンヌフューベル。

 しかし下半身は、凛音の言葉を借りれば〝変態おやじ〟と化していた。

 どこまで射精すれば気がすむのか…。壺に溜まる液体の音だけが、広い室内にいつまでも響き渡っていた。



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