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31、嘘か誠か
しおりを挟む泣き喚いて泣き喚いて凄くスッキリした。人は泣くとスッキリするのか? 人生でこれだけ激しく泣いた記憶が凛音にはない為、不思議な気分であった。
慰めてくれていたルルは、泣き止んだ凛音の背中をトントンと優しく叩く。
姿がなかったハクリは凛音の為に、暖かい濡れタオルを用意してくれていたみたいだ。
「はい、これ。瞼が腫れあがっちゃうよ」
渡されたタオルで、顔を覆うと緊張で固まっていた身体がふにゃふにゃと柔らかくなる。
「ふー………ありがとうございます」
肩の力が抜けて落ち着いた凛音に、ルルは色々な疑問を解決したかった。
「えーと、今さらだけど。私はルルよ。彼が夫のハクリ。貴女は誰で、何者か、聞いてもいい?」
ルルの顔を見て凛音は立ち上がり、頭を下げる。
「ルルさん、ハクリさん、助けて頂きありがとうございます。私の名前は凛音と申します。
夫婦間を悪くするような事件を起こし、本当に申し訳ございません」
ハキハキとそして一般人ではないと言い切れる凛とした雰囲気に、二人は飲み込まれる。
「それはいいの、私の勘違いだと分かったから。私も…そのヤキモチだったの。勝手に勘違いして恥ずかしいわ。ごめんなさい」
凛音とルルは互いに頭を下げ合う。同時に頭を下げたものだから、ゴツンっ! と軽く頭突きあってしまう。
それが滑稽に思えて、凛音とルルは同時に笑う。
「僕の家で、可愛い女の子が笑い合ってるのって、癒されるよ。いい眺めだ! 二人一緒にギュッとしていいかな?」
満面の笑みで今にも抱きついてきそうなハクリに、凛音は一言。
「軽っ。抱きついたら、貴方の未来は〝死〟しかないから。まっ、バレなきゃだけど。私は言うわよ。
私は女の子って年齢でもないし。ハクリさん、そう言えば皆が喜ぶと思ったら大間違い。昨日、運んでくれたのには本当に感謝致します。
だけど、ルルさんを泣かすような言動、気をつけた方がいいと思うな。
めちゃくちゃ軽くて、腹が立つ」
ハクリの美青年ぶりが全く効かない。それが見事過ぎて、いっそ恐怖。
「……あの、凛音さんって。女の人が好きな感じ?」
「まさか、私は男性が好きです」
キッパリ言い放つ凛音に、さらに疑問符が飛び交う。
「ハクリを見て、平常心の女性って…私、はじめて会ったわ」
「そうだよー、僕を見て嫌そうな顔する女の子がいるなんて、ちょっと信じられないよ」
(どこからくるんだ、その自信? あざとい女の男バージョンか?)
完全に凛音はハクリを敵と見なしていたが、一応助けてくれた恩人だ。噛み付いたりはしない。注意警告はするが。
(エティエンヌフューベル様と私の関係を話すのは、まだやめておこう。何がどうなるか分からないし、私はこの国では虚弱体質だから、万が一襲われたら終わり。
言動には気をつけて行かないと。妖精の国に入国さえ出来ればいい)
凛音は覚悟を決めて、助けを待つのではなく自らの足で戻ろうと決心した。
「私にはもう夫がいますし。失礼ながらハクリさんより夫の方が何倍も綺麗で美しい男性ですので、夫を見慣れている為、そこそこの美男子程度では見惚れたり致しません」
ハクリは嫌そうに口を尖らせ、ルルは嬉しそうにその場でピョンピョン飛んでいる。
「凄いですわっ、ハクリより美しい男性が存在するなんて!」
「ルル、違うよ! 凛音さんの趣味が極端に悪いだけ。ほらっ、ちょっと顔が歪んでいる男が好きな女性もこの世にはいるらしいよ。
一般的に投票でもすれば、絶対に僕が勝つよ」
自信たっぷりなハクリの言動に、凛音は呆れてしまう。
(いや、絶対に一般投票してもエティエンヌフューベル様の圧勝だけどね。あれは反則レベルでのイケメンだから…。
もし、無事にエティエンヌフューベル様に会えたら、お礼ついでにハクリさんの鼻っ柱折るのも楽しいかも!! 頑張ってエティエンヌフューベル様の元に帰らなくちゃ!!)
鼻で笑っている凛音に、ルルは楽しそうに笑っている。
「凛音さんの心に決められた相手にお会いしてみたいですわ。他の男性へ興味がなくなるのは、凛音さんを全身全霊で愛している証拠ですもの」
ルルの台詞で、また涙がこみ上げてくる。大丈夫だと自分に言い聞かせる。
絶対にまたあのうっとしい程の愛をくれる、生涯唯一の夫に会える。
(無一文な私。まずは働かなくちゃ!!)
「私、実は…」
凛音はエティエンヌフューベルとの関係以外は、全て話した。
こちらではない違う世界からブラックホールに飲み込まれ落ちて来た事。
凛音はこちらの世界の住人ではない為、獣人ではない。
あちらの世界では35歳いい大人、健康的だが、獣人ではない為、脚力も弱ければ魔力もない。
こちらの世界に来て、色々ありはしたが、夫エティエンヌフューベルと心を通わせ、今は幸せに暮らしていた。
オススメだという温泉に入っていたら、突如黒くて丸い穴ブラックホールが出現し、それに飲み込まれた。
結果、裸で落ちてきた訳だ。
静かに聞いていたハクリとルルは、凛音のぶっ飛んだ内容を真剣に聞いており、最後は納得したように頷いていた。
「ほらっ、やっぱり僕は悪くないよ、ルル。浮気だなんて心外だった」
と悲しげにハクリはルルの手を握る。
(…おい、これだけ不思議ワールドを話して、感想がそれか?
おめでたい頭なのね、ハクリさんって。逆に純粋って感じだから、自分が悪くないって分かってはい、話が終わりなのだわ。
売られたり、手篭めにされないだけましか。いい人の近くに落ちたかな)
凛音の内心ツッコミは二人には伝わっていないので、二人のラブモードはいまだ続行中である。
「ハクリ…。ごめんなさい。貴方が素敵過ぎて、いつもヤキモチを焼いちゃうの。でもね、浮気したからって別れるのは嫌だから。
浮気相手が一緒でもいいから、私も側にいたいって思ったくらいなのよ。沢山泣いちゃたけど」
「ルル一人だけだよ。僕にはルル一人だけ。女の子は大好きだけど、僕の子供はルルに産んで欲しいんだ。
種付けだけは、ルル以外とはしない。誓うよ」
(告白しながら女が好き発言する奴、サイテー。種付けはルルさんとするが、それまでの行為なら他ともするって聞こえるんだけど?
ハクリさんはやっぱり軽くて好きになれないな)
手を握るだけでは飽き足らず、抱き寄せて互いの舌を舐め合っている。
(流石、犬科。愛情表現は舐めるのね…)
年若い男女のイチャイチャを、映画を見るように観賞していた凛音は、お腹が減ってきたのに気づいた。
音が出ないように腹筋に力を入れて堪えるが、一度意識が腹にいけば当然…。
グゥーキュルゥキュルゥキュルゥゥゥゥー。と腹はなる。
(うわぁぁぁ、空気読めない私のお腹どうにかしてぇーーー!!!)
グゥーキュルゥキュルゥキュルゥゥゥゥー。
グゥーキュルゥキュルゥキュルゥゥゥゥー。
力を抜いた腹は、ここぞとばかりに主張してくる。ラブモードを味わっていたハクリとルルは、ビックリ顔でこちらを見ていた。
「……すみません、邪魔をする気ではなくて。決して邪魔をですね…」
言い訳中にもかかわらずまた、グゥーキュルゥキュルゥキュルゥゥゥゥー。と腹はなる。
「あはっ、あはははははははは!!!!!」
ハクリの馬鹿笑いにイラッときた凛音は、思わず睨んでしまう。
ハクリはヒィーヒィーと笑うが、ルルは笑うより本気のびっくりと、凛音を見る目がとても優しい。
「ご飯を用意するわね! 美味しいパンがあるの。待っていて!! 是非食べて欲しいわ」
イチャイチャしていたルルだが、切り返しが早く抱きついていたハクリから さらっと離れてパタパタと部屋を出て行った。
もうハクリと凛音の事は気にしてないのか、部屋に二人きりにしても、そこに頓着せずだ。
残されたハクリはまだお腹が引きつるのか、腹を撫でながら泣き笑いだ。
そこでまた鳴る。
グゥーキュルゥキュルゥキュルゥゥゥゥー
(失礼にも程があるが、これじゃ笑われても仕方ない…。エティエンヌフューベル様なら笑わない、絶対に!!!)
「腹の音で邪魔って、はじめてだよー。これが嫉妬なら笑えるぅー」
「嫉妬!? どこまでもおめでたい人ね!! 私の夫は世界で一番、世界またいでもダントツ一番ですから!!
ハクリさんには、全く、これっぽっちも興味がないです!!」
あまりにもキッパリ言う凛音に、違う意味でハクリは興味を持つ。
「僕より綺麗な男なんていないよ」
「今の言葉、絶対に後悔するから」
「まさか!?」
(絶対に、エティエンヌフューベル様を紹介してやる!!)
意味不明な睨み合いの末に、『ご飯、用意できましたー!!!』と言う魅力的なルルの声に、二人は視線を扉の外へ。
パタパタと走ってきたルルは、「これ、来てね」と服を一式貸してくれた。
流石にガウン一枚では心許ないので、ありがたい。
ハクリとルルは先に食卓へ向かう。凛音は渡された服を素早く着用し二人の後を追った。
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