妖精王の味

うさぎくま

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32、エティエンヌフューベルの苦悩

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 誰がどう見てもぐったりしているエティエンヌフューベル。その前にはハリア王と四人の妃達が地面に這いつくばりながら謝罪していた。


「……分かった。謝罪はいい」


 エティエンヌフューベルは頭痛を我慢しながら、椅子に背を預け思案する。


(性別が固定され魔力は上がった。あちらの世界に凛音の気配はない。
 ギリギリ…かなり気配は遠くではあるが、この世界にいる)


 エティエンヌフューベルは発狂しそうな己に、大丈夫だと言い聞かせていた。

 この身体がまだ両性具有であれば、凛音を見つけるのは至難の業。しかしこの完全体になり、魔力が溢れるほどある今の身体ならば、見つけることが出来る。

 まさかまだ、試練が続いているとはエティエンヌフューベルは思ってもみなかった。


(身体を繋げ愛を返してもらい、離れ離れになるとはな。
 見つけた暁には私の魔力の塊を、アクセサリーにでもして凛音の身体にいくつも付けて貰おう。
 …次、また同じ事があれば、私は…狂ってしまう)



「申し訳ございません、申し訳ございません」

 泣きながら謝罪するハリア王に、エティエンヌフューベルはうんざりだった。泣きたいのは間違いなくエティエンヌフューベルだ。

 泣き喚くハーリア王を無視し、エティエンヌフューベルに話しかけてくるのはイヨカだ。


「エティエンヌフューベル様、天草様の事、何か分かりましたか?」

 エティエンヌフューベルの側近中の側近イヨカが、フェア王国からこの一大事を聞き、アユーバラ王国に来ていた。
 声は冷静だが、顔面蒼白なイヨカにエティエンヌフューベルは正直に答えていく。


「探している。この世界にいるのは間違いないが、私の魔力を使っても、詳しい場所までは分からない」

「エティエンヌフューベル様の魔力をもってしても!?」


「凛音の魂は特徴がなく、無に近い。我が強い『私を見て、俺を見ろ、さぁ!!どうだ』という気質の者しかいないこの世界では、凛音の魂はかなり弱い」

「エティエンヌフューベル様と魂を折半されても、まだ魂は弱いのですか!?」


 イヨカの驚きは皆の疑問をさらに深めていく。世界を跨ぐのは、妖精王エティエンヌフューベルでも無理だと理解は出来る。
 しかし、この世界にいて分からない筈がない。

 エティエンヌフューベルは両手で顔を覆い、真実を述べていく。


「イヨカ、そこら辺の土の上を歩いている蟻の区別はつくか? それほどに凛音の魂は自然に近い。
 私達の世界人とは違う。どの国にいるかも分からない。唯一分かるのが、まだこの世界に凛音はいる、そして生きているという事だけだ」

「エティエンヌフューベル様…」


 情け無い声を出すイヨカに、エティエンヌフューベルは泣きそうな顔を見せた。屈強な見目に反する弱気な姿。

 エティエンヌフューベルが両性具有の時には、あざとく泣いたり憤慨したりと毎度の事だった。

 絶世の美女の姿は癒しのように美しく綺麗だったが、今の男性体姿では危ういまでの魅力が溢れ、平伏したいようで、抱きしめたいようで、己の全てを差し出したくなる言葉で表せない心にさせられる。


「…私の魔力を使っても、それだけしか分からない。今は、ほぼ魔力を使い切った。
 …しばらくは満足にも動けない。…凛音…どこにいる? 会いたくて、狂いそうだ…」


 妖精族初男性体で、この世界住人の一般的サイズになったエティエンヌフューベル。
 他を魅了する強靭な肉体美からの庇護欲をそそる危き魅力は、それまでのエティエンヌフューベルの魅力はさらに押し上げていく。
 しかしそれをウットリ鑑賞するほど皆の心は穏やかではない。


 エティエンヌフューベルが狂ったら世界は終わる。


 一体どうやってこの広い世界の中で、小さい魂(蟻と同等程度)の凛音を見つけられるのか?

 それでも生きているとだけは知りえた。エティエンヌフューベルが狂う未来だけは辛うじて防げた。今はそれにつきる。


 エティエンヌフューベル達が、思い悩んでいる同時刻。凛音は満足な笑みを浮かべ、パンを頬張っていた。

 もし凛音がこの場におり、蟻と同等程度の魂とまで言われたのを聞いたなら、しばらくは性行為はお預けとなり、エティエンヌフューベル達に『小さき魂の底力をなめんなよ!!』と中指を立てて、憤慨しただろう。



 ***



 凛音が客室を出て食卓に足を運ぶと、いい香りを鼻が感じとる。行儀悪いがヒクヒクと鼻を動かずにはおれない。


「わぁ、いい匂い!!」

「座って、座って。美味しいパンを頂けたから、今日はシチューにしてみたのよ」


 水色チェックのワンピースに白いフリルのエプロン姿が眩しい。ルルの王道系若奥様姿に、凛音はおっさんよろしく興奮してしまう。


「シチューもパンも美味しそうだけど、ルルさんのエプロン姿がいいわ。そそる!!可愛い!!」

 純粋な褒め言葉にルルは、驚きながらも真っ赤っかだ。

「ぁ、ぁりが、とぅ」

「ちょっと、ちょっと、やめてよー。凛音、ルルを口説かないで。女同士でイチャイチャしないでよ。
 僕を取り合うならまだしも、凛音とルルを取り合うのは嫌だな」

(黙っとけ)


 凛音は脳内でハクリを責める。基本ハクリの台詞は丸無視してルルに促された椅子に腰掛けた。
 美青年のハクリを前にしても凛音の瞳は、パンとシチューにだけ注がれている。

 三人でテーブルについたが、ルルが「ふふっ」と笑っている。


「ルルさん?」

「本当に凛音って不思議ね」

「不思議って?」

「ほんと、だよ。家限定しか見れない僕のスペシャル家着姿を、まるで興味ないのっておかしいよ。
 やっぱり凛音の頭の中、狂ってない? ね、ルル」

「ええ、うん、はい」

 またも発する自意識過剰の台詞回し。


(クソだな、こいつ)

 凛音の脳内は罵詈雑言だ。助けて頂いたのには感謝をしているし、裸体姿の凛音を見て襲わないでくれたのにも大感謝だ。

(だけどね、ほんっとに、ハクリさんは軽過ぎる)


 無理に襲わなくとも選り取りみどり。確かにハクリは美青年だろう。凛音がまだ地球の日本にいたなら、それはカッコいいなぁと思ったかもしれないが、凛音にもタイプがある。

 そのドンピシャタイプ、理想中の理想を体現したエティエンヌフューベルと、日がな一日一緒に過ごしたのだ。耐久レース並みの性行為まで経験済み。

 目が肥えてしまい、ハクリ程度では見惚れもしない。


「ハクリさん、何度も言うけど、私の夫の方が美形です。ハクリさんも整っていると思うし綺麗だけど、女好きが玉に傷だわ」

「凛音の美の基準が絶対におかしいから…」

(どっからくるのさ、その自信)


 脳内で悪態をつきながらも、凛音は「頂きます」と手を合わせ(ハクリとルルが凛音の行動を不思議そうに見ていたが、あえて無視)暖かいシチューをスプーンですくい、口に運ぶ。

 ミルクの優しい香りに絶妙な塩加減。見覚えのある具材も沢山入っていて、それが五臓六腑に染み渡る。

 勧められたパンもこれまた格別。フランスパンに近い…いや、これはまんまフランスパンだ。

 妖精の国では、毎日がフルコースだった。凛音の味覚は庶民な為、王宮料理よりご馳走に感じる。キャラメルマキアートがないのだけが残念だ。


「幸せぇ~、美味しいぃー」

 もの凄く美味そうに食べる凛音に、ルルもハクリも満面の笑顔だ。

「ルルさん料理上手ですね。可愛いし、一途だし、優しいし、狼だし、もう最高!! ビバ異世界!!」


 褒められ慣れてないのか、ルルはまたも真っ赤になっている。ハクリは驚きそして不満そうだ。
 そんな二人を見て凛音は満足で気が大きくなり、姉御の仮面をかぶってしまう。


「そんな可愛く頬を染めたら、悪い男に食われる。私が女で良かったよ、ルルさん」

「凛音ったら…(ポーーー~)」


「ちょっとぉぉぉぉー!!! 凛音、ダメだよ。色気で落とさないでよぉぉぉぉー!!!」

 ハクリの必死な言動に凛音は笑い、ルルはチラチラ凛音を見ながら照れている。

 和やかな昼食は大変楽しかった。


 皆の食事が最後まで終わってから、凛音は今からの事を話し出す。いつまでも厄介になってはいけない。ハクリとルルは新婚さんだ。

 凛音は無一文(お金以前に服さえもない)だが、なんとしても妖精の国に帰らなくてはならない。

 エティエンヌフューベルが狂って、大事な国が火の海になっていたら目覚めが悪い。




「ハクリさん、ルルさん、聞いていい?」

 冗談交じりで楽しくお喋りをしていた空気が、凛音の真剣な台詞と表情で、一気に真面目なものになった。

「うん、もちろん」
「はい」

「私、帰りたい…じゃなくて、行きたい国があって」


 一応前置きをしたが、遠回しの言動を好まない世界人だったと思い出した。


「ごめん、違う。妖精の国。フェア王国に行きたい。どうしたら行ける?」


 ハクリの顔、ルルの顔、どちらの顔も困り顔だ。


「……凛音、あのね、」

 ルルの労わる声に、ハクリは真面目な声でゆっくりと現実を突きつける。


「凛音は異世界人だから、罰せられはしないだろうけど。あまり軽々しくフェア王国を話題に出してはいけないし、結論から言うと行けない」

 凛音が硬直したのが分かったが、ハクリは話し続ける。


「この犬族の国、シェルバー王国からフェア王国へ行くには九つもの国を経由しないといけない。最短ルートでも一ヶ月はかかる。当然かなりの旅費もかかるし、そして危ない。
 凛音にはどの種族の匂いもしないから、分かる人には分かるよ、異世界人だって。たまに落ちてくるからさ。 
 で、異世界人は大抵虚弱体質だから、きっと…死ぬよ」


 ハクリの声に、苛立ちが起きる。決めつけもいいところだ。


「それでも行きたい。お金は稼ぐし、あなた達から見れば虚弱体質かもしれないけど。私は健康体だから、多少は大丈夫」

「凛音は聞いた事ない? 異世界人の末路」

 ハクリの声は神妙だ。

「…知らない」

「男ならまぁ、大丈夫かな。女だとだいたい抱き潰されて死んでる。
 うちの国は比較的、可愛い系から屈強系までいるから性行為で相手を殺したとは聞かないけど。
 大型種族や、海に住む種族は、加減が分からない奴が多いから、マジで死んでる」


 凛音もハクリの言う事が分からない訳ではないが、諦めるのも無理な話だ。

(私がエティエンヌフューベル様のつがいだって言う? いや、ダメ。ハクリさんやルルさんに迷惑をかけてしまうし。
 バレたら、それこそ五体満足でエティエンヌフューベル様の元へ帰れるか分からない!! どうする!?)


「……凛音」

 ハクリの声が凄く小さくなって聞き取りにくい。凛音は必死に声を拾おうとして、ハクリの顔から汗が吹き出しているのを目にして驚愕する。


「ハクリさん?」

「…凛音、知らないだろうけど…何よりも恐いのが、妖精族だから」


 小さな声は絶対に他に聞こえないように紡がれる。
 この部屋には三人しかいないはず。
 それでも絶対に聞かれてはいけないのだと理解できた。優しいハクリは無知な凛音に教える為に、危険を犯してまで口を開いてくれたのだ。


「妖精族はどの種族よりも冷徹冷酷で残忍。罰を与えるのも非道につきる。
 数年前にどっかのバカが妖精族に手を出した。自分に自信があったんだろう。自分こそは選ばれた人だからと、神に等しい妖精族の伴侶となるのは当然だと言って、若い妖精族の子を襲った。
 もちろん妖精王に見つかった。
 妖精王は、そのバカの人体を一思いに殺さず生きたまま切り刻み、泣いて許しを乞うたバカを放置して、最後は業火で焼き払った。ひとかけらの骨も残さずにね」

 皆が知り得る話なのか? 怖がって震えるルルをハクリは抱きしめながら、凛音に諭す。


「知っていても絶対にダメだ。冗談ではなく妖精王の名を口に出して呼ばない事。
 凛音は知らないだろうけど、もし妖精族に王の名前を軽々しく呼んだりしたのがバレたら、問答無用で殺されるよ。
 一思いではなく、拷問の限りをつくしてね」

「…まさか、そんな」

 凛音は絶句。脳内の彼らと違い過ぎて、理解不能。


「妖精族はどの一族よりも強固。王は絶対的な覇者。王はまだ運命の唯一を見つけられてないので、完全体ではない。
 だけど現妖精族の王は未完成体で、魔力の凄さは歴代の妖精王をも凌ぎ、神そのものだと言われているから」

 エティエンヌフューベルが男となったのは知らないようだ。言わなくて良かったと凛音は思う。そう思考していた時、ハクリは汗を流しながらも強く言葉にした。


「僕達が死ぬまでは、今のままを願っているんだ。伴侶を得て完全体になられたら、世界は滅ぶ。
 国一つ潰すのなんて、息を吸うより簡単だろうから…」

 結構な言われようだが、実際のところ紫炎の凄さは知っている為、何とも言えない。


「無闇な殺戮はされないわよ、きっと…。だって妖精族から伴侶と選ばれるのは幸福だって聞いたわ」

「…普通で格下の妖精族ならね。妖精族の王は違う、神だから。間違えない方がいい。神の怒りに触れてはいけない」


 凛音は妖精族の王エティエンヌフューベルを目の当たりにしている。恐いのも分かるし、どの王もエティエンヌフューベルを最上とし話しているのも分かる。

 どれだけハクリに釘をさされても、凛音にとったら些細なことだ。

 エティエンヌフューベルの唯一は凛音。それは揺るがない。

 ハクリの常識は凛音の非常識だったとは頭に叩き込まれた。そしていい勉強になった。
 凛音のフェア国での態度はハクリ達を失神させるほど、尊大にエティエンヌフューベルを突き放し蔑ろにしたものだ。


(私って…恐い、知らないって恐い)


 無知が何よりも恐いと再認識した。


「……分かったわ。気をつける」

(私が死んだら、世界が終わる)


 間違いなく、世界は終わる。凛音は自分の身を守ることが平和の証だと、何度も己に言い聞かせた。





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