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42、エティエンヌフューベルの地雷
しおりを挟む耳が痛い、身体への重圧にハクリ達は地面に足をつき圧力に耐えていた。
エティエンヌフューベル自身が施した結界の中でも、自らの足で立っていられない。
全ての血管が締まり、気を抜くと生命に大切な心臓を潰される。ハクリ達でもそうであれば、敵である奴らはどうなるのか?
耐えていた圧力が終わった瞬間。
圧力は熱さに変わる。
エティエンヌフューベルの身体から目を焼き尽くすほどの紫炎が吹き上がる。
辛うじて息がある団員数人。魔力が少ない奴らは地面にぺちゃんこに潰れている。見るも無残な死体達だ。
紫炎を吹き出しながらゆっくりと歩くエティエンヌフューベルは、恐怖。
「凛音を壊すと? 私の伴侶をお前が抱くのか?」
吹き上がる紫炎の周りは全ての生を奪うように、焼くのではなく溶かす。結界の中だけ溶かされはしないが、熱気が肌を焼いていく。
シェルバー国の面々も、噂でしか妖精王を知らなかった。
妖精族は神の一族。長い時を生き、素晴らしい魔力量をもち。美しい見目と抜群のプロポーションを持つ一族。
その一族を束ねる絶対的な王は、敬いはしても反撃や中傷などもってのほか。名をいうだけで親に殴られるほどの教育を受ける。
エティエンヌフューベルが王になり、すでに150年が過ぎていた。どれだけ偉大かどれだけ恐ろしいか。
それは伝説、逸話、噂話、架空の話、皆にとって知らない遠い神。
妖精族に伴侶として選ばれるのは夢物語。いかに彼らが伴侶を大切にし、伴侶を求めるのか。まさに今、妖精族の本当の恐怖をハクリ達は知る。
妖精族の伴侶というものは、我々が思う伴侶とは大きく違う。そして悠久の時を生きるエティエンヌフューベルにとっての伴侶は、まさに奇跡に等しい。
甘くみていた。
「あ、あぐっ、わたしは、違っ、」
四肢が曲がり身体が潰れ、辛うじて生きている蟷螂獣人のゾーイは後悔という苦しみに喘いでいた。
話す気があるのかエティエンヌフューベルは、ゾーイの側まで歩く。
「…あがっ……ぁがっ…」
ひしゃげた身体のまだ無事なところを、エティエンヌフューベルは無表情で一つ一つ潰していく。息絶えないギリギリのところを分かっての行動だろう。
結界の中のハクリ達は魔力が強く、獣人としての質が高い、よって目が良い。だからこそ見たくないが見てしまう。
エティエンヌフューベルの容赦ない残虐さに、吐いても吐いて吐き気が止まらない。
「…ぐごっ……ぁぁ……」
蟷螂獣人のあらかた潰した身体。最後に頭を鷲掴みにし持ち上げ、視線を合わせる。
すでに息絶えているようにも見えるが、エティエンヌフューベルは構わず憎悪を口にのせる。
「生まれて50年、王になり150年。伴侶を得られずに生きた200年。焦がれ続けた伴侶を、何故お前ごときに譲らなければならない?
落ち人である彼女は、向こうの世界で、すでに知らぬ男に身体を差し出していた。どれほど憎んでも過去の男達に私は何も出来ない。
やっと…この腕の中に抱ける。私のたった一人の伴侶だ。
彼女の未来は私だけだ。何があろうとも、凛音の心も身体も、命つきるまで私だけのものだ」
エティエンヌフューベルに鷲掴みにされた蟷螂獣人の頭がジュウゥゥゥ…と音をたて溶けていく。
辛うじて息がある団員数人、死体の山。
何の共通点もないが、男というだけで夢でみた凛音の過去の恋人達とリンクする。
(凛音は…私でなくとも、恋が出来る。伴侶も出来る。私でなくとも、身体も繋げ…愛し合える…)
ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…ジュッゥゥゥ
まさに広がるは地獄絵図。
エティエンヌフューベルの身体から吹き出る紫炎が全てのモノを溶かしていく。
(全て、消えて、しまえば、凛音は、私だけのものに…)
その独白が脳に入った瞬間。
大きな地響きと共に地面が揺れる。紫炎で溶ける草木、裸になった剥き出しの地面には亀裂が走り抜けていく。
「ハクリさんっ!!! これはっ!?」
ハーベストの悲痛な声にハクリは心臓部を押さえながら、苦笑するしかない。
「天災レベルを止めれる気がしないな。もうなんか笑える」
ハクリは、色のない世界に立つ妖精王の後ろ姿。美しい純白の羽根を見ながら、こういう最後も良いかと笑う。
(凛音と妖精王には結構な温度差があるな…。そうなんだ、本当はこうなんだよねー。
妖精王の誘いをことわり、手を叩き落としたり、ちょいちょい貶したり、一か月エッチしないとか本気でいったり、あの子ヤバすぎ。あはっ、異世界人って色々恐いよ。
妖精王も妖精族らしい本能を隠すから、凛音はあんなんになるんだよ…。でも、あぁ、200年か、思ったより長いなぁ…。
あの蟷螂、ほんと阿保だよな。あぁ、最後に僕もルルを抱きたかったな…)
ふわっと笑うハクリを見て、ハーベストも思わず笑う。死を間近に見据えながら、何故か笑えるのだ。
「なかなか壮絶な人生です」
「確かに」
「正気に戻って頂けるのでしょうか?」
ハーベストの笑いながらの声を聞いて、ハクリも笑う。
「凛音がいる街を壊す前には、戻られる…かな。それか、失うのに耐えきれないなら…凛音を殺して、一緒に死ぬの…かな」
「そう…ですね」
結界の中だけは、まだ草もあり空気もある。もし、万が一生きて帰れたら、これは末代までの自慢話となるだろう。皆がそう思っていた。
***
すやすやと眠るに凛音の頬を突くミミル。
「ママ、幸せそうに寝てるの」
「ひっ!? 突かないで!!」
ハーブは小声でミミルに注意する。
「ママの身体からパパの匂いがするの。不思議ぃー」
椅子に座り足をぷらんぷらんさせるミミルに、ハーブはもう何度目かの脳内絶叫を繰り広げた。
脳内絶叫で意識を飛ばすハーブに、ミミルは懲りずに爆弾を投下する。
犬族は大変 鼻がきく。それは普通であるが、まだまだ赤ちゃんに近い子供のミミルには、道徳観念がない。
「ふんっふんっ…ふんっ、あっ!! ここからする。この辺りからパパの匂いがするよっ」
ミミルは寝ている凛音の股辺りをポンポン叩いた。
そしてパサッと布団をめくり、凛音の股に顔を突っ込む寸前、ハーブに両腕を拘束されながら引き離された。
(ヒィィィィーーーー!!!!)
「いやんなの」
「ん……ん!?」
凛音は起きた。身体をポンポン叩かれ(正確にはお股)、布団をめくられたら起きるだろう。そこまで深い眠りではなかったからだ。
「あっ、ママ起きたの」
「…おはよう、ミミル…とハーブさん? あの…ここは、雑貨店ですか? あれ私、エティエンヌフューベル様は?」
硬直するハーブに変わりミミルが意気揚々と答える。ハーブの手から逃れ、ベッドに腰掛ける凛音の横にいそいそと座った。
「パパがママを宜しくって言ったの。危ないからママはお留守番なの」
「そう、なのね」
「かなしくならないで! ママは何の獣人の匂いもしないから心配なの。パパは心配性なの」
はじめから討伐について行く気はなかった。どう考えても足手まといだと理解しているが、抱き潰されたのは凛音に有無を言わせない為だとも推測され、イラっとくる。
そう、エティエンヌフューベルは低姿勢だが、低姿勢しながらの強引さがある。妖精族を束ねる王だから押し切る強さは必要だが、そうではないのだ。
(帰ってきたら、しっかり聞いてやろうではないか!?)
凛音が憤怒の状態。
怒る理由も多少理解あるハーブは、凛音の味方も勿論エティエンヌフューベルの味方も出来ない為、沈黙を貫く。
「ねぇ、パパの匂いがするの。ここね、もうママの匂いしないの」
小さな手でお股を指さされ、顔を近づけて「ふんっ、ふんっ」と嗅がれた。
凛音は羞恥心からブワッと一気に顔まで真っ赤に色づく。教育、そう教育が必要なのだろうが、恥ずかしい。これは恥ずかしい。
行き良いよく立ち上げれば、吸えなかった愛しい人の放った残骸が膣内から溢れ出て、股を濡らす。
ぶわっと出る感触は、生理の時と同じようで違う。量が全く違う。多過ぎる。混乱すれば、さらに股から流れ出てしまう。
「あっ、ンッ」
流れ出すのに耐える凛音の横で、ミミルはまだ追撃する。
「あれ、パパの匂いが広がったの」
「やめてぇーーーーー!!!!!」
凛音は羞恥に耐えきれず絶叫した。
その瞬間。大きな縦揺れが起こる。
「え、地震!?」
向こうの世界では何度も経験済みだが、こちらの世界では初めてで驚く。
それでも横揺れはないし、一回だけならと、ほっとする凛音だが、ミミルはガタガタと震えている。
「…パパだ、パパが怒ってる、の」
「ミミル?」
「パパがキレてるの。またクルよ!」
ミミルの声の瞬間、地盤が一気に下がったのが分かる。エレベーターから下る時のようで、いやこれは某テーマパークの何とかオブ・テラーだ。
臓器の浮遊感に嫌な予感が、脳内を過ぎる。
「パパが…」
ミミルがぐずり出して凛音は我にかえる。
「ミミル、まさかこの地震。エティエンヌフューベル様が引き起こしたの!? どうなっているか分かるの!?」
「ママ…恐いの」
「ミミル!! エティエンヌフューベル様と繋げないかしら!? 一方的でいい、私の声を送ったり出来ない!?」
「ママの声?」
向こうの世界にいる時ならば絶対に「私が彼を助けるの!!」的なイタいヒロインの真似はしない。そんな自意識過剰女は、凛音の一番嫌いなタイプ。
映画や漫画でよくあるが、作られた恋人だからのイッチャッタ激甘トーク。
映画としては、楽しんで見ながら感動はするが、本当には絶対にないと思っていた。しかしここは異世界だ。あの普段は温厚なエティエンヌフューベルがキレる理由は、凛音しかない。
何があったかはこの際もう構わない。
天災レベルのエティエンヌフューベルの魔力に怯えもあるが、止めれるのは凛音だけ。
恥ずかしいが、中二病みたいだが、凛音が勇者になるのだ。
「ミミル!! 出来るの!? 出来ないの!?」
苛立ちで口調が強くなるが、ミミルは強い凛音を見て、うなずく。
「出来る、ママの中にまだパパがいるから、声は届くの」
「うっ、中にってぇー…。はい。で、どうしたらいい?」
ミミルに言われたように、ミミルの小さな両手を握りしめる。パパの匂いがすると言う場所(股のちょうど上)に握りしめた手を置いく。
恥ずかしくて頭が吹っ飛びそうだが、堪えに堪えた。
そして、ミミルが叫ぶ「ママ!!呼ぶの!!」スゥーと息を吸って、叫ぶ。
『エティエンヌフューベル様ぁぁぁ!!!愛してますーーーーー!!!
私の愛する貴方に戻ってぇぇぇぇーー!!!』
恥も恥。
たっぷタプに凛音の胎内にあるエティエンヌフューベルの精液は、もうそれは濃い魔力の塊。それに魔力全開のミミルまで合わさったのだ。
悲しいかな、エティエンヌフューベル〝だけ〟に伝えるべき言葉が、ほぼシェルバー国全域の人の脳内に強烈に響いた。
それは広野で戦闘中…というか、地獄絵図の中心部に立つ皆々様にもしっかり届いた。
間違いなくエティエンヌフューベルの脳内にも、凛音の大告白が響いた。
「…………りん…ね…」
熱風はやみ、亀裂も止まった。紫炎を吹き出し、全てのものを溶かしつくしていたエティエンヌフューベルも、今は何も吹き出してない。
(((((あ、やっぱ…あの人は女神…)))))
全員が間違いなく、それだけを考えた。
後書き
ラストまで二話です。宜しくお願い致します!
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