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22、マルシェの勝利?

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「わぁ!美味しいわ!! ダッカン、これを食べてみてよ!」

「これ?」


 横で口を開けているダッカンに、ラシェルは呆れ笑いだ。あーんをやってもいいが、チラッとアベルの方を見れば…案の定ドス黒いオーラを出してこちらを睨んでいる。


(これはフリよ、フリ。ダッカンはいつもこんな感じよね?
 アベルお兄様って私の事になると、途端におバカになるわね。ま、嬉しいけど…)


 顔がニヤけるほど嫉妬は嬉しいし、アベルからの行き過ぎた〝愛〟はラシェルの大好物だが、今の彼は任務中。
 足を引っ張りにきたのではないから、これ以上アベルがラシェルを気にするのはよくない。


「ダッカン、甘えないでよ。あーん、なんてしません」

 自分で食べろと、皿ごとオススメのスコーンをダッカンの前にもっていく。


「何故? ラシェルのオススメを食べるのだから、役得があっていいと思うけど?」

 ダッカンの顔は、楽しくて仕方ないと書いてある。


「もうー、ダッカンはすぐ自分本位で話すんだから!」

(ダッカン、絶対にアベルお兄様で遊んでるわね!!このド変態!!!)


 ラシェルとダッカンのやり取りに呆れれながらも、クレールはルビーに押し押し。

 そのクレールを気にしながらもラシェルに好意的な瞳を向けるルビー。


 引きつる笑顔を保ちながら睨むマルシェと、すでにキレているアベル、四人の目はダッカンとラシェルに向けられていた。

 そこで爆弾を落とすのが、変人ド変態のダッカンだ。


「ラシェル、ほら見てごらん。僕とラシェル。ルビー嬢とクレール。そして噂の的のマルシェ嬢とアベル殿下。
 三組の幸せなカップル誕生のお祝いをしなくては。そうは思わないかな? ね、マルシェ嬢」


 ダッカンは空気の読めない男を装って、マルシェに話をふった。マルシェの顔は花開くようにキラキラと輝きをまし、ルビーは真っ赤。ラシェルはドン引きだ。

 流石のラシェルもここまでアベルにヤキモチを焼かせようとは思わなかった。


「ダ、ダッカンったら…、もういいわよ」

「何がもういいの? ラシェルは久しぶりに僕にあって、嬉しくて物忘れでもした?」

「…あのね、(やりすぎだから)」


 流石のラシェルも、怒りを超えて静かになったアベルが恐い。当然クレールも全くアベルを見ようとしない。ルビーはアベルの殺気に当てられ絶賛硬直中。

 この場を目一杯楽しむダッカンと、話をふられたマルシェ二人だけは幸せそうだ。


「もう、本当の事だからと言って。そのように、言われたら恥ずかしいですわ。アベル様もそう思われますよね? きゃっ!!」

 空気を読まない女(マルシェ)はどこまでも我が一番。

「そうだね、アベル殿下を落としたマルシェ嬢は、みんなの憧れの的だよ」


 ダッカンは「ふふっ」と笑いながらマルシェをさらに気分良くする為に、持ち上げていく。

 これも作戦の内だと思うが、なんとなくムッとする。それでも〝薬〟をアベルに投入する瞬間。現行犯でマルシェを捕らえたいのだ。

 いくらアベルが王太子としても、か弱い(あくまで見た目)マルシェに通常使用で迫ったら、悪者はアベルで、一応、お預かりしている女性で他国の客だ。外交問題になりかねない。


 そんなカオスの場に、本来の目的である《物体》が出現した。


 気分最高のマルシェは、膝に置いていた小さな鞄から飴玉を一つ取り出す。

 特別なものだと訴えるように小さな飴玉を両手で握りしめて、右横に座るアベルに瞳をウルウルさせながら、それをそっとアベルに差し出す。


「アベル様、これ差し上げますわ」

「…(飴玉?液体と聞いていたから、飲み物に入れてくると思っていたが…)」


 飴玉を差し出すマルシェから、受け取ろうとしないアベルに割って入ってきたのはダッカンだった。


「マルシェ嬢、僕にも欲しいな、それ。綺麗な包み紙だよね。お菓子までもセンスが出るんだね。流石、皆の憧れマルシェ嬢!!」

「いやですわ。そんな、ダッカン様。ありがとうございます。貴重なものですが、特別に差し上げますわ」


 気分が最高のマルシェは、飴玉を快くダッカンに差し出す。

 言質をとった。

 ダッカンはマルシェが言葉を発した瞬間に立ち上がって、飴玉を貰いにいく。うやうやしく飴玉を一粒もらい手の甲にキスまでおくる始末だ。

 やり過ぎだし、何故か飴玉奪取もダッカンがするという。全くアベルは必要ない状態になっていた。



(ダッカン!?なんで貴方が飴玉を貰うのよ!?)


 ラシェルの頭には、疑問が脳内を飛び交う。悶々としながらもダッカンを見ようとしたら、何かを無理矢理口の中にねじ込まれた。

「むぐっ!?」


 口の中に入った指を噛み切ってやろうかと、ラシェルの思考は悪魔の囁き一択だ。


「ラシェル、まだあげない。絶対に飲み込んじゃダメだよ。せっかくマルシェ嬢がくれた飴玉だから味わってね」

 キラキラしい瞳と言動に腹が立ってしまう。

「ぅっ…」


 ダッカンは飴玉を持つ親指と人差し指を、ラシェルの口に突っ込みながら、微笑んでいる。この状況にアベルがキレるのは当然で。

 サーベルを抜いて、立ち上がるアベルに皆の視線が集まる。


「きさま、頭と胴を切り離されたいみたいだな」

「アベル殿下は、またそんな怖い顔をして」


 どこまでが冗談なのか定かではない。ダッカンは優しく笑いながら、指と飴玉をラシェルの口から抜いた。

 若干…ではなくダッカンの親指と人差し指とその指に持たれた飴玉は、ラシェルの唾液でテラテラと光っている。

 さて、ダッカンはどうするのか? 皆が彼の動向を気にしている。ダッカンは指に飴玉を持ったまま、サーベルを持って、椅子から立ち上がったアベルに近づいた。


 そして、

「アベル殿下が欲しかったのですね、気づかずに申し訳ございません」

 とキラキラしい笑顔のまま、今度はなんとアベルの口に飴玉をねじ込んだ。驚きで目を見開いたアベルに、一言。


「ラシェルの唾液まみれの飴で、申し訳ございませんが、お返し致します」

「…………ぅ、んんんんんー!?」



 バンッ!!!!!


 美しい丸テーブルがガシャンと音を立てた。これが何かを知るラシェルは血の気が引く。
 マルシェがいるからとか、もうそんな事は構わない。視界の端で、ニタリと笑うマルシェが見え、一気に頭に血が上る。


「は、吐き出して!!! アベルお兄様、吐き出して!!!」


 ラシェルの剣幕に、アベルがビクッとしたところで、小さめな飴玉は、嚥下されてしまう。

 ゴクンッ………。

 出せばいいが、ラシェルの唾液まみれの飴玉は正直食したい。アベルはラシェルに対してはどこまでも変態だった。


「イヤァァァァァ!!!食べたぁぁぁ!!!」

 叫ぶラシェルにマルシェが嫌味ったらしく、声をかける。


「まぁ、騒がしい方ですね。ラシェル様のお声で私は疲れましたわ、アベル様ぁ、送ってくださいませ」


 もう恋人ヅラか? マルシェの失礼極まりない発言に言い返そうとしたラシェルだが、それはクレールの横槍で不発に終わる。


「そうだね! か弱いマルシェ嬢の身体が心配だから、お茶会はお開きにしよう。ルビー嬢、君も一緒に帰るよね?」

「…は、はい」


 ルビーは、顔は笑って目が怒るを体現しているクレールに震えが止まらない。飴ごときで…そう思ってしまうが。

 その飴に何があるのか? 心の底から楽しげな親友マルシェの表情に、何かあるのだろうと推測する。半泣きのラシェル様を見れば嫌でも分かる。

 マルシェと二人になれば問い出そうとルビーは誓う。彼女とはもう親友と到底思えない。
 大国ボルタージュの王族への、失礼な態度をやめないマルシェの顔をひたと見続けた。


 クレールに促され、退出する四人。

 まるで恋人同士のように腕を組み歩き出すアベルとマルシェに、ラシェルは思いきり体当たりをかましたくなる。

 庭園の真ん中あるテーブルと椅子に残されたのは、ラシェルとダッカンだけだ。


 皆が視界から消えて、ラシェルはドスの効いた声で、ダッカンを睨む。



「ダッカン、貴方、マジで死にたいのかしら?」

「ラシェル、怒らないでよ。アベル殿下は媚薬を飲んでも、自我崩壊なんてしないから大丈夫。自我崩壊する奴は大抵心の弱い人間だから。
 まぁ、通常サイズも立派だから媚薬の効果で勃ち上がった下半身は、多少窮屈になられるだろうけど。
 今回の件は言い逃れができないように、誰かが嵌められた風を装うのが一番手っ取り早い。
 そして一番の理由、マルシェ嬢はアベル様に飲ませたいみたいだったからね」


「二人が仲良くセックスしているのを、指を咥えてみろと貴方はいうの!?」



 なるほどダッカンの話も分かる。分かるが理解したくはない。

 ラシェルのイラつきは最大に達する。苛つく気持ちをどこに持っていけばよいのか。唇を噛んで、大きな薄い色合いの金色の瞳からは、悔し涙が浮かんでいた。

 そんなラシェルにダッカンは子供相手に諭すように語り出す。


「ねえ。何故マルシェ嬢とアベル殿下が仲良くセックスしているのを見る側にラシェルがいくのさ。
 今のところ、大変上手くいっている。
 皆の前でマルシェ嬢がアベル殿下に飴(微薬剤入り)をすすめ、それを食べた(ダッカンに食べさせてられた)。言い逃れは出来ない状況には嵌めた。
 十中八九、マルシェ嬢はアベル殿下を襲うだろう。で、ラシェルはそのいたす前、直前に乗り込めばいい。アベル殿下の媚薬の効果を逃すのは、妻となるラシェルに課せられた仕事だろう?」


 何か問題でも? とダッカンの顔には書いてある。

 とくに何も言わず「お茶会に一緒にきて」とダッカンを誘ったのはラシェル。だからこそダッカンは、アベルやクレールに課された任務は知らないはず。



「ダッカン…貴方、グルね」

「何の事だい? 僕はラシェルの味方だよ」

「味方って言葉。図書館で一度、調べてきたら?」


 王でも宰相でもない。ダッカンを動かす人は誰だ。先を読んで国交を守るのは…。

 真面目な顔で考えこむラシェルに、ダッカンは先程の情景がいたく気に入り反芻しては笑っている。


「ふふふ、しかし楽しいね。ラシェルは甘ったるい犬みたいなアベル殿下しか知らないだろう? 普段のアベル殿下はそれはもう冷静沈着の鉄仮面が普通なんだよ。
 皆の認識はだいたいが恐い人。微笑みもしないのが通常だからね。
 それがラシェルの事になると、残念になるのが…ププッ。プライドも何も捨てさって、あのラシェルに好かれようとの必死さが可愛いよね。
 ギャップが堪らない」


 やはりダッカンはどこまでもいっても変人だ。普段のアベルが恐い系なのを知っているはずなのに、よく真っ向から勝負に挑める。


「今日の夜に、動くよ。あの女は」


 アベルに媚薬を飲ませたのだ。そうだろうとは思っていたが、わざわざ舞台まで作ってやるのか?

 睨むラシェルにダッカンは微笑みをプレゼント。


「あの女達は今日、王宮に泊まる予定だよ。アベル殿下やクレールと食事会をした後にね」

「ふ~~~ん」

「ラシェルは食事会に参加しないでね、アベル殿下の冷静さが無くなるし、そうなれば当初の予定が大幅に狂うから」

「ダッカン、誰の指示よ」

「言わない。言うわけないよ。
 まぁ…けど、ラシェルとアベル殿下には、早急にくっ付いてもらいたいと強く願う人の指示かな。ラシェルは直接知らないお方だよ」


 ラシェルはまだ公式に顔見せをしていない。ラシェルが王妃の器だと知るのは一握り。

 王と宰相、そしてお父様以外で味方といえば…。考え得るのは一人だけ。

 やり手の外交官でレイナルドお兄様の想い人の父親。将来義父になるかもしれない、あの方しかいない。


 認めてもらえているのだと、そこだけは嬉しい。やり方は非常に気に入らないが。


「近い将来は親族になるかもだから、許して差し上げるわ」

「そうなるだろうね」


 誰とは言わないが、否定もしない。

 ダッカンはラシェルが大好きだからだ。彼女の幸せを…そして未来の王の幸せを、心の底から願っていた。




 ***


 マルシェとルビーとのお茶会が終わり、その夜の食事会も無事終わった。

 媚薬の塊である飴玉を食べたにもかかわらず、アベルの身には何も起きない。どれだけ強靭な肉体なんだとクレールからは嫌そうな顔を向けられる始末。

 それでも一応、計画通りに進めていく。


 食事会後。マルシェとルビーを王宮の客室に案内し、わざわざ今日は自室へ戻らずに同じ階の客室を、アベルとクレールが使うと、宣言までしてやった。

 マルシェとの肉体の繋がりを遠回しに伝えたようなものだ。彼女の勝ち誇った顔を見て、アベルは心の中で罵倒し続けた。



 そして夜が深くなった現在。嫌悪感しか抱かない女を待っている己が苛立たしい。


「くそっ!! 忌々しいっ、あの悪女!!」


 アベルはこの室内で寛ぐ気はさらさらない。

 アベルの姿は食事会には不適切、さらに王太子としても適切でないと言われるだろう姿だった。
 現役騎士と言わしめるように、実戦用の軍服をキッチリ着こなし、一切の緩みもない衣服は性に対して一番遠い。


(食事会にラシェルがいなかった。ダッカンはいたのにだ!!何故!?
 悪女と一緒にいるのは、任務だと知っているはず。あの夜にも俺の本当の気持ちは伝えた。
 マルシェには微塵も興味がないと、ラシェルは知っている…はず、だが…)


 では何故、食事会にラシェルは来なかった?

 ラシェルはダッカンに飴玉プラス指を口に突っ込まれても、嫌がる素振りもなく噛みつく事もしなかった。まさかダッカンとよりを戻した? 恋に落ちた?違うと頭を振って、嫌な想像を振り払う。


 そして思い描くのはラシェルの姿。



 唾液がたっぷりついた飴玉。ラシェルの口に入ったのが俺の口に…。

 ラシェルの、あの柔らかな口の中は……最高に気持ちいい。

 柔らかな口の中は…張り付くように、吸い付くように…。優しく俺のを…咥えて…。


 ラシェルがアベルの凶悪な肉棒を口に含んでくれた過去の素晴らしい情景を想像した瞬間、身体に火がついた。

 ドクンッ!!!!!

「ッッッン!?」


 まるで火だるまになったように、全身が発汗していく。脳内がグツグツと湧き立つようで、足にも力が入らない。

 膝をつこうとして眼下に視線をやると、アベルの立派過ぎる男根は、鞣し革のトラウザーズを物ともせず見事に勃ち上がって存在を主張している。

 男根の先端がトラウザーズに擦れるたびに、吐精感が全身を巡る。


「ハッっ……ンッ……」

(玉袋が破裂しそうだ!?これが媚薬の効果か!?)



 たった今まで大丈夫だったはず。肉体も精神も鋼鉄なアベルだが、やはり媚薬に溺れる引き金はラシェルだった。

 ラシェルの唇の柔らかさは、身をもって知りうるからこその、この勃起だ。


(くそっ、痛いが絶対にここでトラウザーズを緩めるのは無しだ!!)


 アベルが自身の性欲と葛藤していると、タイミングは最高。
 まさに今こそ「私が必要よね?」と言う声が聞こえてきそうだ。


 ガチャッ…とゆっくり空いた扉の向こうには、薄い薄いシュミーズドレスを着用したマルシェおり、ゆっくりと勝手に部屋の中に入ってくる。



「こんばんは、アベル様。あの…私、寂しくて……顔を見に」


 パタン。と閉じた扉。

 顔を見に来たと言ったはずのマルシェは、顔ではなくアベルの股間に視線は釘付け。


(股間を見るなクソ女!!!)


 暗闇が支配する時間であるが、室内は昼のような明るさを保っている為、互いがよく見える。

 前方に迫り出し形状がしっかり分かる程に勃起するアベルの立派な男の象徴。マルシェにガン見されるアベルは、力が入らない足を叱咤しながら距離をとる。


(何が顔を見るだ。物欲しそうに股間を舌舐めずりして見ていて呆れるわ)


 当初通りにはなった。媚薬の効果が強すぎて股間が大変辛い。一刻もはやく終わらせたい。アベルはそれだけを強く思った。



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