ある、王国の物語。『白銀の騎士と王女 』

うさぎくま

文字の大きさ
44 / 72

44、副団長キメルダとアレン

しおりを挟む
「あぁーーエル!!」
 可愛らしい声と共に突っ走ってくる、金色の塊。

「エル!!」

「クルト!!」

 エルティーナも負けずに走り寄る。そして腕を広げて、金色の塊を抱きしめる為に少し腰をおとす。

 バフンッ。とエルティーナの柔らかい胸をクッションにして身体全体を使い金色の塊は飛び込んできた。
 クルトは、ふわふわの金髪にエメラルドの瞳。レオンの息子でこのボルタージュ王国を支える事になる未来の王である。

「クルト! 久しぶりね。元気だった?」

「元気だよ。エルは?」

「もちろん元気!!」

「こらっ。クルト、あまりエルティーナにくっつくな。挨拶はしたか?」

 溌剌としたエリザベスの声にクルトもエルティーナもハッとなり、二人して一度離れる。それからエルティーナはドレスを軽く持ち上げ軽く腰を折る。

「お目にかかれて光栄です。クルト様」

「こちらこそ、お会いできて嬉しいです。エルティーナ姫」

 そう言い合いと、クルトはエルティーナの手をとり、ピンクに色づく自身の小さな唇をエルティーナの手の甲にそっとおとす。
 まだ四歳のクルトが、紳士顔負けの仕草をした。まさかの展開にエルティーナの顔が赤く染まる。

 クルトからは、可愛らしく挨拶をしてくれると思っていたので、想像していなかったこの展開に…エルティーナは言葉を失う。
 これを近くで見ていたエリザベスは、眉間に皺をよせ「クルト…の将来が心配だな…」と小さな声でつぶやいていた。

 エルティーナはドキドキと高鳴る胸に手を置きクルトを見下ろす。クルトはエルティーナを見上げていて。その瞳にはなぜか〝色気〟があり……。流石、レオンとエリザベスの子だと納得させられる。四歳にしてすでに立派な色男の素質ありであった。


「エル。向こうに座ろう、疲れたし。あちらの長椅子でメフィスが寝てるんだ、見に行こう」

「まぁ、メフィスがいないと思ったら寝ているのね。可愛らしい寝顔ね、きっと」

「メフィスより、僕の方が寝顔は可愛いよ。一緒に寝てくれるなら、エルにもみせてあげるよ」

「もう、クルトったら」

 クルトとエルティーナの新婚のような会話が繰り広げられている側には、エルティーナの所為で少し遅れてグラハの間に入ったレオンと、軍服に身を包んだエリザベスが二人で並んで会話を聞いていた。

「おい、あれはいいのか?」呆れ気味にレオンは、エリザベスの顔を見る。

「いいも何もない。気になるならお前が注意しろ。どう考えてもお前の遺伝子のなせる技だからな」

「…エリザベス…剣のある言い方だな…」

「そうか」エリザベスはクールに答えた。

「レオン。なんで遅れて来た? それに、いつもはエルティーナにべったりなのに、あまり顔を合わせてないな。
 アレンも何故かエルティーナの側にいない……。まぁいい、たっぷり夜に聞かせてもらう」

 先ほどの事……。エリザベスに話たら、しばかれそうだなぁと。レオンは今から訪れる数時間後の夜がひたすら恐かった………。



「アレン、久しぶりだな」

「お久しぶりです。キメルダ副団長」

「少し、離れて飲まないか? 色々聞きたい事もあるしな。エルティーナ様は……近くにレオン様とエリザベス様がいるから、護衛する必要もないだろう」

「…はい」

「暗いな…」

 キメルダは、テーブルにあるワインをアレンに一つ渡し、壁際に移動した。

 グラハの間は王族専用の食事所だ。毎日の食事をする場所なだけあり、派手さはなくシンプルなデザインで統一されている。
 顔料を何も混ぜない白漆喰の壁は、漆喰の本来の白さを活かした優しい色あいになっている。

 キメルダは背を壁に付け楽な姿勢になる。アレンもキメルダに習い背を壁に預け、グラハの間に目を向けた。

「ここからは、グラハの間の全てがよく見えるな」

「…そうですね」

「ここの産地のワインはなかなか美味であまり市場に回らない逸品だ。普通に置いているあたり、内輪の立食晩餐会と言っても流石王族だな。私には眩しいよ」

「確かに、飲みやすく美味しいワインです」

 アレンはワイングラスを軽く口につけ、香りを感じながら少し口に含む……。


「ただ、ワインを飲む姿もお前は絵になるな。聞かれても困るだろうが、何故それほど美しいのだ? と問いたくなるよ」

 アレンは、キメルダの方に目を向け「そうですか」となんとも素っ気ない言葉を口にした。

「今日、久々に騎士演習場に顔を出したそうだな。パトリックと交代する為に演習場に行ったら、普段ではお目にかからない光景が広がっていた。誰一人立っていなかったし、あのルドックが全く動けない程とは…笑った」

 キメルダの声を聞きながらも、アレンの瞳の中には、遠くにいるエルティーナしか映していなかった。

「……アレン。本当にいいのか??」

 キメルダの声がアレンを現実に引き戻す。

 キメルダとは、取り留めのない会話をしていたはず…しかし今一瞬で二人の周りの空気が変わった。

 騎士である二人には、空気を支配するすべを持っている。キメルダは剣の腕では、もちろんアレンには敵わない。だが、長く生きた人生の道の先駆者としては、アレンよりかなり上であるキメルダ。
 静かに諭す様に話す雰囲気は、アレンの先程のような気持ちのない返事はするなよ。という無言の命令が読み取れた……。


「……副団長…いいのか。という意味が申し訳ないですが、理解できません」

「この間、ソルジェに呼び出されてな。エクリチュール(娼館)に行ってきた。そこで、ソルジェにお前の事を聞いた」

「……もう決めた事です」

「お前の愛は重いな。そうまでしてエルティーナ様の側にいたいのか。確かに天使のように美しいし、可愛らしい方だ、しかし本当にそれだけだ。
 レオン様のように王の器があるわけでも、エリザベス様のように王を支える人でもない。何かが突起してできるわけでもない。良くも悪くも本当に普通の王女様だ。厳しい事を言うようだが、この国にとってエルティーナ様はいてもいなくてもいい存在だ。
 だがお前は違う。騎士としても、頭脳としても王の右腕になり得る存在だ。子孫を残し、国を支える未来を何故選ばない?」

 苛立ちが含まれたキメルダの言葉にも、エルティーナしか映らないアレンの心には何も響かなかった。
 降嫁すると決定しているエルティーナ。最早アレンの想いは隠す必要もなく、堂々と気持ちをキメルダに打ち明ける。

「副団長、私にとってエルティーナ様が全てです。この気持ちを分かってもらおうとは思いません。
 騎士になったのは、エルティーナ様に会う為。もう一度…再会を果たす為。それだけの理由です。
 呆れますか? でも生き方は変えられません。私は彼女だけを見てきた。彼女の為だけに生きてきた。エルティーナ様の側にいる事が私の生きる意味です」

「……そうか。お前を見ていると運命の出会いや魂の片割れなんてものには、会いたくないな…。自分の全てをかける愛は辛いだけだ。私は心穏やかに生活できる、今の妻で満足だ」

「魂の片割れとは、エルティーナ様に失礼です。私が一方的にお慕いしているだけです」

「……そうか。…なら………エルティーナ様を守れ。彼女が幸せに楽しく暮らせるように。全身全霊をかけて……。きっとお前が全てをかける価値のあるお方なのだな」

「はい」

「いい返事だ。そろそろ、エルティーナ様の側に行きたいだろう。私も一緒に行ってやるよ。お前に対して怒っていても、私が一緒に行けば彼女も無視できないだろう。後は、またお前が誑し込めばいい」

「キメルダ副団長。いい方が悪すぎます」

「なに、お前の武器だろ。その麗しい見た目は」


 キメルダの「何を今更」という若干馬鹿にしたような言い回しに、アレンは苦笑する。

(エル様に対して…武器にならなれば、全く意味のない見た目です……)

 アレンは口に出さず心の中で、キメルダに否定した。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

人質王女の恋

小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。 数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。 それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。 両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。 聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。 傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。

ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ
恋愛
 ケダモノを148円で買いました――。   「結婚するんだ」  大好きな従兄の顕人の結婚に衝撃を受けた明日実は、たまたま、そこに居たイケメンを捕まえ、 「私っ、この方と結婚するんですっ!」 と言ってしまう。  ところが、そのイケメン、貴継は、かつて道で出会ったケダモノだった。  貴継は、顕人にすべてをバラすと明日実を脅し、ちゃっかり、明日実の家に居座ってしまうのだが――。

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。 イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。 8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。 ※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

処理中です...