夜だけの異世界英雄伝説

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第2話(下)無量無辺・インクリッター

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「……ここか?」
「そうよ」
 扉の上には『第3魔法具格納庫』の文字。扉には鍵穴のようなものは無く周辺にもそれらしき物は確認できない。
「……で、どうやって入るんだ?」
「ちょっとまってて……」
 そう言うとレンカは扉の横の壁に手を当てた。するとその部分が青く発光する。レンカが手を離すと数字パネルのようなものが浮き出てきた。
 どうやら手形認証と暗証番号の二重ロックらしい。この世界のセキリュティ技術はかなりしっかりしているようだ。
 さらにレンカは声紋認証、虹彩認証も行なっていた。
「四重ロックも必要なのか……」
「それだけカナデの魔法具は強力なのよ……ホラ、開くわよ」
『辺獄統治部隊所属、レンカ=パールヴァティ中尉。承認ユーザーです。扉のロックを解除します』
 見た目通りの重々しい音を響かせて鉄の扉は開いた。
「これが……格納庫」
 中は暗闇だった。目を凝らしても何も見えない。耳をすましても何も感じない。
『セキュリティ保持の為、扉をロックします』
 どうやら扉は勝手に閉まるようだ。明かりはどうもつきそうにない。
「レンカ、俺の魔法具はどこに……」
 暗闇に耐えかねた俺はレンカに手を伸ばす。が、その手は空を切るばかりだった。
「レ、レンカ……?」
 レンカが居ない。どこに行ったんだ?
 マズイ、もしかして閉じ込められてしまったのだろうか……?事故、いや、まさかと思うが俺が本物の英雄ではないことがバレてしまったのか……?
「お、おーい……レンカー」
 レンカの名前を呼ぶが返事が返って来ない。
 とにかく、この状況をどうにかしなければ……俺はあてもなく足を動かした。
 その時だった。何かが目の前にあることを俺は感じた。
「な、何だ……?」
 感じる。この暗闇の中で確かにそこにあるとわかる。
 一歩ずつそれに近づいていく。
 残り4メートル、3メートル、2メートル……
 そこだ。もう手を伸ばせばそこにある。
 冷たい気配が背中を撫でる。胸が締め付けられるようだ。
『取れ……』
 そんな声が頭の中に響いた。俺は手を伸ばす。
 冷たい金属の感触が手に触れた。
「ッ!?これは……!」
 頭の中に流れ込んでくる感覚や映像。
 そこには泥と血に塗れた俺の姿があった。砂埃を巻き上げ、怪物を鮮血とともに粉砕する……これが、俺なのか? 
『そうだ、それが英雄としてのお前の姿だ……私に最も……』
 頭の中の声はそこで途絶えた。
 暗かった部屋の中は照明によって照らされていた。視界の端にはレバーに手を掛けるレンカの姿があった。
「やっとレバー見つかったー。やっぱり人が入ると同時に電気付くように変えてもらわなきゃね……って、どうしたの?」
「え、あ、あぁ……」
 俺は全身汗だくだった。なんだったんだ、今の感じは……?
「ていうか、私が呼びかけたら返事くらいしなさいよ!何も言わないから怖かったんだからね!?」
「ち、ちょっと待てよ!俺だって呼びかけたけどお前全く反応しなかったじゃねぇか!」
「は、はぁ……?全然声なんて聞こえなかったけど……」
「お、俺もだよ……」
 どういうことなんだ……?
「と、とにかく、それがカナデの魔法具よ。名前は……」
「無量無辺・インクリッター……」
「え、何よ……やっぱり覚えてたんじゃない……」
「あぁ、触ったら名前とかは思い出した」
 というか、ずっと前から知っていた。そんな感じがする。
「……で、使い方は解る?」
「まぁ、なんとなく……」
 改めて目の前の魔法具を見る。
 それは一言で言ってしまえば巨大な斧だった。厳密に言えばチェーンソーに近いか。
「魔力を流して威力を強化、振り下ろすって感じか?」
「ま、そんな感じね」
 そう言うとレンカはインクリッターの表面を撫でる。
「インクリッターの魔法はこの斧を通したあらゆる衝撃の増幅よ」
「あらゆる衝撃?それってまさか……」
「ええ、増幅するわ」
「敵の攻撃……だと?」
 つまり、敵の攻撃を斧で受け止めるってことは出来ないわけか……
 こんな見るからに重そうな斧を振り回しながら敵の攻撃は避けなければならない。
 そりゃ、血みどろにもなるよな……
「アンタはこれを使いこなすために魔術外装で筋力を強化。さらに土塁壁とかの防護魔術でじぶんの身を守っていたのよ」
「へ、へぇ……」
 そんなのもあるのか……なら何とかやっていけそうだ。
「とりあえずソレ、使ってみない?」
「いいのか?」
「元々はアンタの魔法具なんだから、インクリッターも燻ってると思うし」
 俺の魔法具……どんな使い心地なんだろうか……
「こっちにデコイが置いてある部屋があるから、付いてきて」
「あ、まてよ!」
 格納庫から出て行こうとするレンカ。俺は慌ててインクリッターを持ち上げた。
「……ん?思ったより軽いな」
 インクリッターは見た目通りの重さは持っているようだが、異世界の俺の腕はそれを軽々と持ち上げた。
 現実の俺と違い、戦場で鍛え上げられた逞しい腕。
 そういえばこの世界に来て一度も鏡を見ていない。
 俺は今、どんな姿をしてるのだろうか?


「ここよ」
 レンカについて行った先は何もないだだっ広い部屋だった。
「ほぉ……こりゃ広い」
 驚きながら俺が入って行くと目の前に水色のスクリーンが現れた。
「なんだこれ?えっと……うげ……」
 現れたパネルには英語があった。
 やっば……この世界、英語あるのか?ん?でもさっきは日本語で書いてあったような……
「ん?ナニ?早く出しなさいよ」
 隣でレンカがニヤニヤ笑っている。
 くっそ、なんか悔しいな……えっと、デコイだからこれか?デュラビティレベル?耐久度だったか……よし、これで!
「ジェネレート!」
 GENERATEと書かれた部分を勢いよくタップすると俺から少し離れたところに白いマネキンのようなものが出現した。
 ドヤ顔で隣を見るとレンカが目をパチパチとさせて驚いていた。
「カナデ、色々忘れてるのに洋字は出来るようになったんだ……」
「あぁ!これくらい軽い軽い!」
 そう言った後で思い出した。俺はこの世界の俺のフリをしないといけないんだった。
「ま、まぁ、とにかくそれ使ってみたら?」
「そ、そうだな、そうするよ」
 どうやらセーフだったみたいだ。
 で、コイツはどうやって使うんだ?とりあえずゲームとかでは技を使う時は……こうやって担いで、腰を落として……
「何してるの?早く起動文句を言いなさいよ。魔法起動アウェイクン・インクリッターよ」
「・・・」
 ちょっと恥ずかしい。
 改めて構え直してレンカに言われた起動文句とやらを口にする。
「あ、魔法起動アウェイクン、インクリッター……?」
 これでいいのだろうか?すると、
「グッ……なんだ……これ……?」
 急に激しい脱力感が体を襲う。腕からエネルギーを吸い上げられているような感覚だ。
「ちょっと、魔法具に流す魔力は調節しなきゃ……」
 倒れそうになったが腰を低くして重心を安定させていたためなんとか倒れずにすんだ。脚に力は……なんとか入りそうだ。
「よ、よし、行くぞ……」
 脚に力を込め、一気に解放する。
 地面を蹴り飛ばして、俺は宙に跳んだ。
「うおっ!?とっとと……」
 俺の身体は想像より高く跳んでいた。
 空中で慌てて態勢を整えデコイに向かって斧を構える。
「デコイの位置をよく見て!」
「わかってる!」
 レンカのアドバイスに叫び返しながらデコイに向かって全身を加速させる。
「おっ……りゃぁぁぁっ!」
 俺はデコイへ全力で魔法具を振り下ろした。
 轟音が部屋を揺らし俺の手には確かな手応えが伝わる。と、同時に、
「イッテェ……」
 魔法具を握っていた手がビリビリとした痛みを伝えてくる。
 デコイは粉々に砕けていた。この魔法具、威力は確かのようだが降るたびに反動が返ってくるのはかなりツライところだ。それになんだか目眩がする……
「手、大丈夫?」
 レンカが水色のモニターを見ながら近づいてくる。
「あ、あぁ……まぁ腕はちょっと痛いくらいだな。でもなんだ?さっきから目眩がするんだ……」
「魔力が欠乏してるみたい。でも前までのカナデならこのくらいでへばる事なかったのに……とにかくこれ飲んで」
 と、レンカから瓶詰めの液体を渡される。
「お、回復魔術か、ありがとな」
「あぁ、これは魔術とは違くて……」
 レンカから受け取った液体を一気に飲み干す。
 ふむ、さっきのとは違う味だ。例えるならそう……エスプレッソを濃縮した物にこれでもかとわさびを突っ込んだ独特の苦味と辛味がなんとも……
「マッズッ!?何これ、マズゥ!?」
「あちゃぁ……やっぱり薬学由来だとそんなもんか……」
「ひゃ?やぐりゃ……!?」
「ゴメン、こっちの話」
「み、みじゅ!みず!!」
「今持ってないから我慢してね♡」
「ふ、ふじゃけりゅな!!」
 クッソ、口の中が大変なことになってて舌が回らない。
 とにかく水を!口の中をゆすがないと!
『パールヴァティ中尉!カイゼル大佐から通達です!部隊長達は支給、作戦本部に集まるようにとのことです!』
『わかりました。パールヴァティ、すぐに向かうとお伝え願います』
『了解しました!ところで……そちらの方はノートリアス中尉では?何やら苦しんでおられるようですが……まさか敵の攻撃が!?』
『彼のことは心配要りません。大方、変なものでも口に入れたのでしょう』
「レンカしゃん!おねがいだからみずを!みずをくだしゃい!」
『……?』
『あぁ、彼は私がどうにかしておきますから』
 結局、作戦本部で水を貰うまで俺は地獄を味わい続けた。
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